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8 悶絶

 自室に戻ったところで、ようやく膝から力が抜けた。


 ドサッとベッドに腰を落とす。

 しばらく天井を見上げていたが、数秒後には思考が別方向に爆発した。


(は、恥ずかしい……)

 さっきのことだ。

 台所で、何も考えずにセラに抱きついたあれ。


 外見は11歳だが、中身はそこそこ人生積んだおっさんだ。

 そのおっさんが、あの銀髪エルフにぎゅっと抱きついたわけで。


(キモいと思われたに違いない……)

 ベッドの上で、両足をじたばたさせる。きつい。


 きついきついきつい。思い出すだけで、腹のあたりが痛くなってくる。

 セラには転生の話もしてある。


 (中身おっさんがガチ泣きで抱きつくとか、冷静に考えてホラーでは?)


 枕に顔を埋めて、無言でのたうち回る。

(……いや、まぁだがエルフから見たら誤差か?)

 100年以上生きてるエルフからしたら、9歳も11歳も30何歳も一括りで若いんじゃないか?


 そういう種族特性に頼りたくなるくらいには、精神的ダメージがでかい。

 ひとしきり悶絶してから、ようやく呼吸を整える。


 ふと、顎ひげの男、山賊のボス格の顔が脳裏に浮かんだ。


(あいつ、多分やり手だったよな)

 普段なら悪党の顔なんて直視したくないが、どうしても思い出してしまう。


 強そうなオーラが、それなりにあった。

 立ち方も、目の動きも、完全な素人ってわけじゃない。

 何よりナイフの気配を、まったく感じさせなかった。

 太ももに刺さっていた銀色の刃を思い出して、無意識に足をさする。


(あれを、何の前触れもなく投げてくるんだから……)


 その男を、セラは難なくまとめて片づけた。

 残った5人。

 少なくとも顎ひげは「賊としては中の上」くらいの実力はあったはずだ。

 さっきの話ではゴミ掃除くらいの言い方だったが


(セラって、一体どれだけ強いんだよ)

 講義で見せてくれる魔法は、あくまで基礎的なものばかりだ。


 派手なことはあまりしない。

 でも、たまに見える本気の気配だけで、胃がキュッとなる。


 今日の山賊は、そのほんの一部を見せただけなんだろう。


(……なんかこう、もっと強くならなきゃな)


 自分の剣を握った感触。

 喉を切り裂いたときの嫌な手応え。

 ナイフに膝を折られた無様さ。

 あれを思い出すと、心臓がざわつく。


 回復魔法で怪我は全部治っている。

 皮膚も、肉も、骨も。

 でも、体力までは戻らない。


 全身が重い。

 筋肉の芯だけがスカスカになっているような、変な疲れ方だ。

 昼食をしっかり食べたおかげで、腹だけは満ちている。

 それが逆に、眠気を加速させていた。


(明日から、また走らないとな……ブラムさんにも、ちゃんと報告しないと……)

 そう思いつつ、まぶたが勝手に落ちていく。

 セラの冷たい声と、いつもの落ち着いた声が、頭の中で混ざり合う。

 森の匂いと、スープの匂い。

 山賊の血の感触と、家の木の軋む音。

 全部が遠くなって

 俺は、そのまま、自然と深い眠りに落ちていった。

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