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69 薄明回廊



エミルは朝から仕事に行くらしい。


「昼までは戻れません。……案内は出来ませんが王都を自由に見てきてください」


そう言って、いつもの商人の顔で外套を羽織った。


「冒険者ギルドを見て、軽くダンジョンにも潜ってきます。

 ラツィオと比べて、どんな違いがあるかを見てこようと思います」


エミルは小さく頷いた。


「いいですね。見ておく価値はあります」


リナがすかさず横から口を挟む。


「あと、ごはん! 王都のごはん!」


「あ、夜はレストランを予約してますので、是非」


「ありがとうございます」


エミルは笑って手を振り、宿を出ていった。




外に出て、改めて周囲をよく見る。


建物の装飾が、やたら華美だ。

窓枠に彫り物、壁に模様、扉の金具も凝っている。


(……街全体が、金かかってるな)


ラツィオも石造りだった。でも、王都ノルビアは石の使い方が違う。

角が揃ってて、目地が細い。見た目が整いすぎている。


冒険者ギルドがどこにあるかは、まだ分からない。

それでも、歩いていれば見つかるだろう。王都の案内札も多い。


「探索しながら行こう」


俺が言うと、リナが元気に頷く。


「いこいこー! まず食べよ!」


「お前はそればっかだな」


「大事!」


少し歩いたところで、香りに捕まった。


煙の匂い。肉の匂い。

それに、甘い酸味が混ざる。


「……食堂だ」


看板には、でかでかと書いてある。


『峠の灰皿亭』


「街中なのに峠って」


俺が呟くと、リナが笑った。


「峠の気分になれるんじゃん?」


「灰皿の方はどういう気分だよ」


「知らなーい」


店内は思ったより落ち着いていた。

席の間が広い。客の声も、妙に上品だ。


「これ、美味しそう」


リナが迷いなく指差す。


俺は同じものを注文した。


燻肉と茸の白皿シチュー

燻肉と茸の封蝋ソース焼き


待っている間から、鼻が幸せになる。


料理が出てきた。


シチューは白く濃い。燻製にした肉と、

見たことのない茸が沈んでいる。

ひと口。


(コクがある……うまい)


燻製の香りが強いのに、バランスがいい。

茸の旨味が広がって、後から塩気が追いかけてくる。


ソース焼きの方は、肉が主役だ。

表面が香ばしく焼けていて、切ると脂がじわっと滲む。


ソースは果実っぽい酸味と甘み。

脂と混ざって、口の中でほどける。


「……なにこれ、うまっ」


リナも喜んでいるようだ


「王都、すごいな」

手の混んだ複雑な味わいがする。


「すごい!」


二人で黙々と食べて、最後に水を飲んで息をついた。


そして会計。


「……金貨一枚です」


店員がにこやかに言う。

昼食にしては高いが、料理の完成度を考えると高すぎることはない。


ラツィオで節約料理にすれば1週間分の金額だ。


「たまには贅沢もいいか」


リナが胸を張る。


「ほら、コースとかもあるよ」


店員が横から補足した。


「コースですと、お二人で金貨二枚ほどになります」


王都の物価ってちょっと高いのかもしれない。



食事を終えて外へ出ると、不思議と目移りが減った。

お腹が満たされると、考えも落ち着く気がする。


「次は、ギルド探すぞ」


「はーい」


彷徨いながら歩いて、案内札を辿る。


しばらくして、見つけた。


王都の冒険者ギルドも、当然のようにラツィオのギルドより外観が整っている。

柱が太く、入口が広い。扉の金具も立派だ。


(……ここ、ギルドだよな? 役所じゃないよな?)


扉を押す。


中には冒険者が数人。

だけど、酒臭さが薄い。叫び声も少ない。


テーブルに座って談笑してるのもいるが、声が落ち着いている。

装備も、手入れが行き届いているように見える。


(俺が王都って響きに呑まれてるだけか?)


受付へ向かう。


受付嬢は、淡い色の制服。背筋が真っ直ぐだ。

目が合うと、きっちりした声が返ってきた。


「いらっしゃいませ。ご用件は?」


「こんにちは。ラツィオで冒険者をやってまして……王都でも依頼って受けられますか?」


「可能です。冒険者証はお持ちですか?」


「はい」


俺は冒険者証を出した。


受付嬢は受け取って、手元の帳面を確認する。

視線が速い。


「……Cランクですね。確認しました」

「依頼は、あちらの掲示板にございます。ご自由にご覧ください」


「ありがとうございます」


冒険者証を返してもらい、掲示板へ。


目に入ったのは警備の依頼の多さだった。


「護送」「夜警」「門前警護」「倉庫の見回り」

依頼の紙が、ずらっと並んでいる。


(王都って、治安悪そうには見えないけど……依頼は多いんだな)


素材回収もちらほらある。

ただ、ラツィオみたいにダンジョン前提の紙が多いわけじゃない。種類が広い。


そして、ダンジョン名が目に入った。


薄明回廊:III級

金冠迷宮:IV級


「……IV級まであるのか」


俺が声に出すと、リナが目を輝かせた。


「金冠! なんか強そう!」


「強そうっていうか、入ったら死にそう」


「えー」


「そうAランク魔獣も出るからな。まだ早い」



III級の薄明回廊の情報を得るために受付に戻り確認する。


「ちなみに……薄明回廊って、どんな魔獣が出るんですか?」


受付嬢は答える前に、念を押すように言った。


「薄明回廊はIII級に分類されています。入坑の際は規約に従い、入坑届の提出が必要です」

「また、立ち入り可能範囲はランクで定められています。Cランクの方は、指定区域までとなります」


「分かりました」


受付嬢は頷いて、説明を続けた。


「上層で比較的よく報告されるものを、いくつか挙げます」


彼女は淡々としているのに、内容は具体的だった。


「一つ。灰幕狼。薄い霧や埃をまとって距離感を狂わせます。後衛を狙う傾向があります」

「二つ。白石モグラ魔獣。掘削者です。発見したら必ず討伐と報告をお願いします」

「三つ。灯喰いコウモリ。ランタンや魔石灯に集まり、灯りを弱める群体です」

「四つ。鏡鱗トカゲ。鱗が微反射して、輪郭が二重に見えることがあります。狭所での突進が厄介です」



リナは、もう行く気満々の顔をしている。


「楽しそう!」


「安全第一でな」



受付嬢にもう一つ確認する。


「依頼は受けずに……入坑だけできますか?」

魔獣の発生ポイントを知らずに、素材回収依頼を受けると結構大変だ。

まずは情報収集からにしておきたい。


俺の質問に受付嬢は即答した。


「可能です。ただし入坑届の提出、帰還報告、規約遵守は必須です」

「薄明回廊の位置は、こちらの案内図にあります。入口で管理員が確認しますので、冒険者証をお持ちください」


「ありがとうございます」


例を言うとギルドから出て、街をぶらぶらと散策して回った。



夜になるとエミルが宿へ戻ってきて、俺たちを食事に誘った。


「レストランにご案内しますね」


連れて行かれたのは、昼の食堂とは別の店。

外観からして落ち着いている。入口に立っている案内人までいる。


「……ここ、値段聞いていいですか」


俺が小声で言うと、エミルが同じくらい小声で返した。


「今日は商会の経費で落とせます。気にしないでください」


「それ、便利な言葉だな……」


「便利ですよ」


リナが目を輝かせる。


「コース?」


「はい。コースです」



料理は、全部うまかった。

昼食べた料理とは方向性が違うが

見た目も味も完璧だ。


食事の合間、エミルは今日の仕事の話を少しだけした。


「王都支部は人も多いですし、話が早いです。やることも増えますが、楽しいです」


「向いてるんだろうな」


俺が言うと、エミルは少し照れたように笑った。


「そうだと嬉しいですね」



食事の終わり頃、俺は話題を出した。


「今日、冒険者ギルドを見てきました。薄明回廊があるみたいです

 明日、行ける範囲だけ見てこようと思ってます」


ただ、頷いて言う。


「なるほど。お二人なら問題ないでしょうが、お気をつけ下さい」


リナが胸を張る。


「ちゃんと帰る!」


「大事です」


エミルは真面目な声になって、続けた。


「そう言うことなら。お願いが一つあります。鍛冶の親父さんから言われたのですが、

 剣の素材に記憶核というものが要るそうです」


「記憶核……」


初めて聞く名前だ。


「それって、どこで手に入るんですか?」


俺が聞くと、エミルは首を振った。


「すみません。薄明回廊のダンジョンから取れるらしいですが、どの魔獣かは分かりません。

 こちらでもどこかで確保する予定ですが、もし見かけたら、確保していただけると助かります」


「分かりました。見かけたら取っておきます」


自分の剣の素材なら、自分で確保しておきたい。



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