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68 王都

あれから三日ほど過ぎた。


紅蓮回廊も琥珀迷宮も、立ち入り禁止のまま。

ダンジョンに入れないから、ギルドの通常依頼は奪い合いになっている。

掲示板の前に人が固まって、張り紙が剥がされるのが早すぎる。


(仕事がない)


街の外へ移る冒険者も増えた。稼ぎが無くなればそうなる。

これが続けば街全体の活気も無くなるだろう。


俺とリナは、今のところ動けずにいる。


幸い、現金は増えた。すぐに首が回らなくなるほどじゃない。

だから家で、剣と魔術の訓練を続けていた。


……ただ。


「精霊化」


あの男が口にした現象が、何なのか分からない。

当然再現もできない。



毎晩アオイとは夢の中で遊んでいる。

精霊化を言うものを聞いても、教えてくれることはなかった。


カイ曰く、あの時の現象は高位の精霊が降りてきたらしい。

アオイって高位の精霊なんでしょうか?



それにしてもこっちに来てから、いろいろありすぎたな

落ち着いて何かを考えることも出来なかった。



落ち着く時間が増えると、一緒に暮らしていたセラの顔が浮かぶ。

今はどうしてるんだろうか


セラなら、きっと何か知っている。精霊化のことも、あの透けた感覚のことも。

でもあそこを出て間もないのに頼るのは、情けない気がした。


そういえばクロイツとの戦いの時ってセラの姿が透き通っていた。

あれって、精霊化と関わりがあったのかもしれない。


あの戦いを忘れないために、何度も思い出している。


だが見えなかったことも、理解できなかったことも多い。


思い出しては考える事も多い。セラはクロイツを制圧できなかったのか。

俺がいなければ倒すことができたのか。


考えても分からないが、時々気づく事もある。


(自力でなんとかしてやる)



そう思って、魔法陣の発動訓練に集中していた時。


玄関からノックが聞こえた。


コン、コン。


「……ん?」


扉を開けると、外にいたのはエミルだった。いつもの商人服、いつもの落ち着いた笑顔。

ただ、口を開くのが早かった。


「聞きましたよ。大変だったそうですね」


紅蓮回廊での話だろうか


「……なんで知ってるんですか」


俺が聞くと、エミルはあっさりと言う。


「鍛冶の親父さんに。あなたの剣、作り直しになるって」



リナが横で腕を組む。


「あのおじさん、しゃべるんだ」


「必要があれば、喋りますよ」


エミルは苦笑いしてから、本題を切り出した。


「それで、ユウトさんの新しい剣を作るにあたって、素材としてここらには無いものを指定されたんです

 ちょうど回収ついでに王都へ行こうと思ってまして。せっかくですし、一緒に行きませんか?」


「王都……」


リナの目が光った。


「いこいこー!」


エミルが、指を折りながら説明する。


「荷馬車で三日ほどの行程です。向こうで商談もありますから、滞在は三日から五日くらい

 それから帰り道で三日。合計で……だいたい十日前後ですね」


(意外と長いな)


俺は一瞬迷った。仕事がないからと言って、気軽に十日も空けていいのか

でも、今のラツィオに、俺らができる仕事は少ない。


リナに目を向ける。


「……どうする?」


リナは即答だった。


「行く! 王都! うまいもの! 見る!」


「うまいものが先かよ」


「大事!」


エミルが、少しだけ肩の力を抜いた笑いをする。


「では、明日出発でいいでしょうか」


「……はい。お願いします」


こうして、明日出発が決まった。



その足で、俺とリナは冒険者ギルドへ行った。


掲示板の前は相変わらず人が多い。

依頼は少ない。あるのは雑用、護衛、掃除、配達

……ダンジョンの旨味が消えた分、取り合いになるのも当然だ。


受付のカトリーナが俺たちに気づいて、少しだけ顔をやわらげた。


「ユウトさん、リナさん。今日はどうされました?」


「しばらく街を離れますので、その挨拶に」


「期間はどのくらいですか?」


「……十日くらい、かもしれないです」


カトリーナが頷く。


「分かりました。気をつけてくださいね

 ユウトさん、こちらに来てから色々巻き込まれてますから」


「……それは、はい」


俺の返事に、リナが小声で突っ込む。


「巻き込まれ体質」


「言うな」






その夜、アオイが夢に出てきた。


草原。風。いつもの匂い。


(どこかに行くの?)


頭の中に響く声。


(王都に、十日ほど行ってくる)


(おみやげ)


アオイの声が弾んだ気がした。


(買ってくる。だから……大人しく待っててね)


喜んでいるのが分かった。


だがこれは忘れたらまずそうだ


妙なプレッシャーが残った。





翌日。


早朝にバルネス商会へ向かうと、準備は万端だった。


荷馬車が三台。

馬が繋がれ、荷が満載。縄も、布も、箱も、きっちり固定されている。


エミルがこちらに手を振った。


「おはようございます。護衛としてCランク冒険者が一人、帯同します」


近くに立っていた男が、短く頭を下げた。

油断なく色々なところに気を配っている。


「ダグだ。よろしく」


「ユウトです。よろしくお願いします」


「リナ!」


リナは元気に手を挙げた。

ダグは一瞬だけ口角を上げて、すぐ真面目な顔に戻った。


それから、ロランとミアにも挨拶する。


ロランは商会の手伝いらしい服装で、俺たちに手を振る。


「無事でよかったな。……気をつけて行ってこいよ」


ミアはもいつも通り元気よく挨拶をする。


「ユウトさん、リナさん。……行ってらっしゃい!」


「行ってきます」


「いってきまーす!」




街の北の街道を走る。


馬の足音が一定のリズムで続く。

木々の間を風が抜けて、荷馬車が軋む。


(平和だ……)


昔、セラと馬車に乗った時は、魔物寄せを使って大変だった。

道中ずっと気を張って、結局眠れなかった。


今回は、護衛がいて、街道も整っている。

それに、王都へ向かう街道は人の流れも多い。


完全に日が暮れる前に、宿場町に着いた。


馬車は商会が契約している馬車宿へ入れる。

途中で泊まるための町だから、宿は質素だ。

狭い部屋、薄い布団、でも屋根があるだけで十分だった。


リナがベッドに飛び込みながら言う。


「ねぇ、王都ってでっかい?」


「たぶん、でかい」


「うまいものある?」


「それはあるだろ」


「よし!」


元気で何よりだ。




二日目も、朝から馬車は走る。


魔獣も出ない。山賊も出ない。

道は単調で、俺の方が先に退屈になりかけた。


リナが欠伸をして言う。


「暇!」


「暇って言えるのは、いいことだ」


ダグが前を見たまま、短く言う。


「油断すんなよ」


「はい」


「うん」


その声だけで、背筋が戻る。

危険が無かっただけで、いつ何が起きるかは分からない。




三日目。


昼前くらいに遠くに大きな塊が見えてきた。


「……あれが」


エミルが頷く。


「王都ノルビアです」



王都ノルビアは、煉瓦を積み上げた塀が周囲を囲っていた。

赤茶の壁が、途切れず続く。高さも厚みも、ラツィオの外壁とは比べものにならない。


門も立派で、門番が立っている。

槍と鎧。視線が鋭い。


馬車が止まり、エミルが前へ出てやりとりをした。

俺は内容まで聞こえない位置で待つ。リナも大人しくしている。


しばらくして、エミルが戻ってきて、手を上げた。


「問題ありません。入れますよ」


門をくぐる。


中の道は広い。人も多い。建物も高い。




王都の中央部まで進むと、馬車が止まった。


「ここがバルネス商会の王都支部です」


エミルが言う。


「少々お待ちください」


中へ入って、支部の人間と話しているらしい。

荷の内容について指示を出しているのだろう。言葉の調子だけが聞こえてくる。


しばらくして、エミルが戻ってきた。


「お待たせしました。宿へご案内いたします。こちらです」


商会からそんなに遠くない場所にあった。

外観が良い。壁も窓も手入れされている。


中に入ると、さらに装飾が良い。

床がきれいで、空気が軽い。照明も明るい。


(……これ、結構高いんじゃ?)


俺は素直に聞いた。


「ここ、……お金、結構かかります?」


エミルは、あっさり言った。


「それなりですね」


「それなり、って……」


リナが小声で笑う。


「エミルのそれなりって怖いね」


俺も同意だった。



何にせよ無事に着いて何よりだ。


せっかくだから王都を楽しみたいところだ



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