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60 指名依頼

しばらくして、受付から呼ばれた。


「はらぺこ軍団。ギルド長室へ」


……心臓がちょっと嫌な跳ね方をする。

さっきの怒鳴り声を思い出すだけで、胃が縮む。


リナが肩をすくめた。


「怒られるやつ?」


「たぶんな」


「やだなぁ」


同じこと思ってる。俺もだ。



ギルド長室の前まで来ると、扉の向こうから声が聞こえた。

低い声と、でかい声と、淡々とした声。


(……いるな)


扉をノックすると、すぐ返事が来る。


「入れ」


扉を開けた瞬間、空気が硬い。


ギルド長グスタフが机の向こうに立っていて、

その手前に蒼牙隊の三人がいた。


カイ。腕を組んでるのに、さっきみたいな偉そうさが薄い。

ヴェルドは背筋がまっすぐで、表情が整いすぎて逆に読めない。

リディアは壁際で腕を組み、こっちを一度見てから視線を戻した。


(……カイ、なんかしょんぼりしてないか?)


気のせいかもしれない。口に出すのはやめた。


俺は頭を下げる。


「呼ばれました。ユウトです」


「リナ!」


リナも手を挙げてから、慌てて頭を下げた。


グスタフが短く頷く。


「座れ」


……座ると、余計に怒られる感じがする。

でも言われた通り椅子に座った。


グスタフは、いきなり本題に入った。


「指名依頼を発注したい」


「……指名依頼?」


俺が聞き返すと、グスタフは言い直すみたいに続けた。


「特定のパーティに、直接依頼を出す仕組みだ。

今回ははらぺこ軍団に出す」


リナが目を丸くした。


「え、うち?」


「お前たちだ」


俺の喉が鳴る。


(……俺達に、直で?)


俺は一度息を吸って、聞くべきところから聞いた。


「内容は何ですか?」


グスタフは机に指を置いたまま答えた。


「ダンジョン調査だ。

お前たちも巻き込まれた通り、異変が起きている。二箇所で、同時にだ」


「琥珀迷宮と、紅蓮回廊……」


俺が確認すると、グスタフは頷いた。


「そうだ。人手が足りない。

調査に回したい人間が、調査以外の雑務で潰れている」


リディアが壁際で、短く鼻を鳴らした。

同意、みたいな音だった。


グスタフが続ける。


「そこで、お前たちにも依頼する。危険手当込みで金貨50枚。

素材と魔石は、全員で分けろ」


「……50」


声が、勝手に小さくなる。



グスタフは淡々と釘も刺す。


「ただし日数はかかる可能性がある。最大で10日。

準備はしておけ」


カイが、反射で口を挟んだ。


「えー、そんなにかかんねーよ」


グスタフの目が、すっと細くなる。


カイの口が閉じた。

一秒で。


(……すげぇ。あのカイが黙った)


ヴェルドは何も言わない。

リディアは表情を変えない。



俺は、肝心なところを詰めた。


「何をしたら依頼達成ですか?」


グスタフは、蒼牙隊の三人を指で示した。


「こいつらの荷物持ちで、調査完了したら終了だ」


リナが、露骨に顔をしかめた。


「……荷物持ち?」


「食料や水は必要だし、魔獣も多数討伐することになる。

 素材の量も馬鹿にはならないからな」



俺は視線を上げて、確認した。


「潜るのは……紅蓮回廊、ですよね」


「そうだ」


グスタフが即答した。


「蒼牙隊が先に入る。お前たちは後ろにつけ」


リディアが、初めてこちらをしっかり見た。


「約束ね。前に出ないこと。勝手に走らないこと。指示があれば止まること」


声は淡々としてるのに、圧がある。


俺は頷いた。


「はい」


リナも、渋い顔のまま頷く。


「……うん」


ヴェルドが丁寧に言った。

「危険がある場合は、こちらから止めます。ご安心を」



俺は一度だけ、リナを見た。


リナは、さっきの訓練場の悔しさがまだ残っている顔で、

でも目だけは、前を見ていた。


俺は、椅子から少し身を乗り出して言った。


「……行きます」


グスタフが、短く頷く。


「よし。では決まりだ。

明朝出発。最大10日、準備しておけ」


「了解です」


俺が答えると、リナがすぐ続けた。


「行く!」


言い切る声は強い。

でも最後に小さく付け足す。


「……荷物持ちっていうのは、納得してないけど」


カイが苦笑いした。


「そこは、まあ……頼むわ」


グスタフは最後に、蒼牙隊へ目を向けた。


「勝手なことをした分、働け」


カイが、ちょっとだけ口を尖らせる。


「……はい」


(“はい”って言うんだな……)


俺の中で、変な感心が生まれた。



ギルドを出て、夕方の道を歩きながら、俺は腹の底を撫でる。


(明日から、最大十日。金貨五十。素材は取り分。

……やるしかない)


リナが腕をぶんぶん振って歩きながら言った。


「ねぇ、明日、早い?」


「早い」


「じゃあ今日、早めに寝よ」


「それがいいな」


リナは一瞬だけ黙って、ぽつり。


「……あいつらの本気の戦い、見れるかな」


俺は首を振らず、頷かず。


「そうだな。参考にさせてもらおう」


リナが、少しだけ口角を上げた。


「うん」




家に戻ると、リナは庭へ直行した。


剣を抜く。

でも、いつもみたいに速く振らない。


ゆっくり。

体の動きを確かめるみたいに、素振りを繰り返す。


(……効いてるな、さっきの)


俺は荷物を置いて、台所へ向かった。


(うまいものでも作って、元気出させるか)


今日の肉は、マナボア。

分厚い赤身。脂は少なめで、焼き加減を外すと固くなる。


臭み抜きの処理をしてから軽く火入れをする。

皿に移して肉を休ませる。


肉から出た脂を使ってソース作りをする。

ソースは手持ちの香草と、酸味と、甘みを少し。

混ぜるだけじゃなく、火にかけて角を落とす。


(悪くない。たぶん)


フライパンが熱を持ったところで、肉を置く。

じゅっと、音が立つ。


焦げる前に返して、表面だけを固める。

中はギリギリ。


焼き上がった頃、庭から足音が来た。


リナが鼻を鳴らして、台所の入り口に立つ。


「……なにそれ。匂い、やば」


「早めに晩飯にする」


「賛成!」


机に並べると、リナは座る前に一度だけ剣を置きに行った。

いつもより丁寧だ。


皿を出すと、リナは一口で目を見開いた。


「うま……!」


「よし」


「なにこの、ソース」


「肉の旨みを生かして甘味と酸味を添えました」


「明日もこれ食べたい」


ご満足いただけたようで何よりだ。

それだけで、俺の肩が少し軽くなる。



食事が終わると、俺は部屋に戻って、目を閉じる。


(戦術……考えないと)


今日の訓練で、はっきりした。

今のやり方じゃ、通じない相手がいる。


剣術も。魔術も。

どこを鍛え直すか。


魔術の有効的な使い方。

足止めの手順、距離の潰し方


考えているうちに、指先が冷たくなっていく。




視界が、ふっと白む。


草の匂い。

風の音。

いつもの、あの草原。


「ユウト」


声は、頭の中に響く。


アオイがいた。

今日は、表情が少し固い。


「……どうした?」


アオイは近づいてきて、俺の手に触れた。

温かい。


「気をつけてね」


「……え?」


今まで、そんな言い方をされたことはなかった。


俺は、息を飲んで聞いた。


「何に気をつければいい?」


アオイは、答えない。


ただ、俺の手を握ったまま、目を伏せた。

それで終わりみたいに、風だけが流れる。



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