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59 Aランク


リナが、俺のところまで戻ってきた。


木剣はもう手放してる。

肩で息をしてるのに、目だけがまだ、カイを刺していた。


「……大丈夫か?」


声をかけると、リナは一瞬だけ俺を見て、すぐ前へ視線を戻した。


「大丈夫。……攻撃されてないし」


言い方が、ぜんぜん大丈夫じゃない。


拳が固い。爪が手のひらに食い込むくらい握ってる。

あれだけ封じ込められたら、消化不良にもなる。力の差を、嫌でも見せつけられた顔だ。


リナが、低い声で吐き出す。


「完全に動きを読まれてた。何も出来なかった」


「ムカつくのは分かる」


リナの口が、きゅっと歪む。


「でしょ」


悔しさが滲んでいる。



「次」


カイのデカい声が飛んだ。


その前へ、静かに一人が出てくる。


ヴェルド・レオンハルト。

さっきまでほとんど動かなかった。歩き出しても妙に気配が薄い。


「では、今度は僕が行きましょう」


丁寧で、落ち着いた声。

でも、空気がさらに冷える。


(あっちも選手交代か)


リナがあそこまで封じられるチームのメンバー。

どこまで通じるか分からない。けど


(出し切ってやる)


俺は木剣を手に取って、闘技場の中へ出た。




闘技場の両端。

俺とヴァルドが立つ。


中央へ向かって、ゆっくり歩く。

距離が縮まるほど、喉が乾く。



俺は、深く息を吸って口を開いた。


「よろしくお願いします。ユウトアマギです。最近Cランクになったばかりの新米ではあります。」

挨拶を繋いでいく

「あなたはヴェルドさんでよろしいですか? 先ほど白の梟団のセドリックさんに教えていただきました。

 右も左も分からない若輩者ではありますが、ご指導の程をよろしくお願いします」


言い終える。


同時に、ヴァルドの周囲に冷気が走った。


氷の刃。

薄く、細い、刃の形をした氷が……二十本ほど。空中に浮かんで、円を描く。


(……再現だ)


昔、クロイツにやられた。

話し言葉の隙間に詠唱を織り込む偽装みたいなやつ。


俺は、間髪入れずに駆けた。


氷刃を叩き込む。

同時に、全力で距離を潰す。


「――っ」


氷の刃が飛ぶ。


当然、捌かれているだろうが、それでも不意はつけたはずだ。


ヴァルドの周囲で、砕けた氷が舞う。

細かい破片が、雪みたいに散って、光を反射する。


(当たれ――!)


俺は走りながら、もう一つ魔法陣を展開した。


足元から一気に、下段。胴体狙いの一撃。


さらに、魔法陣から炎。


顔面へ、短く、鋭い火の筋。

殺す炎じゃない。熱と光で瞬間を奪うやつ。


……はずだった。


俺の木剣が、ヴァルドの胴へ届く直前。


「……」


ヴァルドの動きは最小だった。


なのに俺の一撃は、何か固いものに当たったみたいに弾かれた。


(っ……硬っ)


手首が痺れる。

木剣のはずなのに、骨に響く反動。


同時に撃った炎は当たっている、ように見えた。


でも、影響がない。


ヴァルドは涼しい顔のままだった。

まばたき一つ、乱れない。


(おいおい……そんなに差があるのか)


魔術を使ったのは、もうバレた。

それでも無傷。


全力の一撃も、弾かれた。


俺は歯を食いしばって、パターンを変える。


踏み込みを変える。

角度を変える。

フェイントを入れる。

魔力の流し方も変える。


それでも、通用しない。


ヴァルドは、攻撃してこない。

ただ、俺の動きを綺麗に止めて、外して、受け流す。


どれも、刺さらない。


俺の呼吸だけが荒くなる。


「……っ、くそ」


焦りが、胸の奥で膨らんだ、その瞬間。


「そこまで!」


カイの声が落ちた。


木剣を下ろすと、視界が揺れた。


(……ここまで通用しないこと、あるのか)


ブラムさんにはいつもボコボコにされてた。

だから負けること自体には慣れてる。


でも、これは違う。


戦ったのに、何も掴めない。

触れた感触すら感じられない。


(……さっきのリナの気持ち、分かる)


息を整えようとしても、喉が乾いたままだ。


ヴェルドは木剣を持ったまま、こちらへ軽く頭を下げた。


「ありがとうございました」


俺は、何とか口を動かす。


「……ありがとうございました」




柵の外へ戻ると、リナが俺の顔を見て、にやりとした。


「ひどい顔してるね」


「お互い様だっての」


言い返すと、リナは悔しそうなまま笑った。


「……だよね」


笑ってるのに、目はまだ燃えてる。


俺も同じだった。


(これがAランク……)


強さがどれだけ上か、推し量れない。

そもそも向こうは攻撃すらしてきてない。




少し落ち着いた頃。


「どか、どか、どか」


床が震えた。

遠くから、重い足音が近づいてくる。


カイが、目を見開いて。


「あ。やべ」


声が、急に小さくなった。


次の瞬間。


「コラァああ!! お前らぁ!!」


怒声が訓練場に叩きつけられた。


空気が、一気に凍る。


ギルド長のグスタフだ。

顔が、怖い。いつもの倍くらい怖い。


「何勝手なことやってんだ!!」


カイが、さっきまでの偉そうな態度を一瞬で崩して、手を振った。


「いや、ほら! 人手が」


「黙れ!」


一喝。

カイの口が止まった。


ヴェルドも、リディアも、背筋がまっすぐになる。

蒼牙隊ですら、叱られてる。


(……あ、これ絶対、巻き込まれるやつだ)


俺はリナの方を見た。

リナも同じ顔をしていた。


「……帰ろっか」


「うん。しれっとね」


俺たちは、なるべく気配を消して、柵の外へ


「おい、はらぺこ」


ギルド長の声が、刺さった。


俺の足が止まる。


「お前たちも、後でギルド長室に来い!」


「……はい」


返事が、情けないくらい素直に出た。


リナも、口を尖らせて。


「はーい……」


(あの感じで怒られるのか……やだなぁ)


夕方の光が、やけに眩しかった。



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