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58 訓練場

ダンジョンに異常が発生してダンジョンには入れない。

けど、とりあえずギルドには行く。


ギルド発令の依頼があるかもしれないと言っていたし。


朝の空気は冷たくて、息が白い。

隣を歩くリナは、やたら元気だ。


「ねぇねぇ、今日も潜れないんだよね?」


「禁止だしな。……でも依頼板くらいは見ないと」


「お金ないと困るもんねー」


多少の蓄えはあるが、金が減る恐怖を知ってしまった以上、立ち止まっていることはできない。



ギルドの建物が見えたあたりで、いつもと違う雰囲気がした。

まぁ、ダンジョン立ち入りなだけでいつもとは大きく違うか。


人の声が多い。

ざわざわじゃない。局所的に騒がしい。


扉を開けた瞬間、熱気がぶつかった。


(……多くないか?)


普段より人が詰まっている。

依頼板の前どころじゃない。受付カウンター付近に、人の輪ができている。


その輪の端に、見覚えのある顔があった。


白の梟団のセドリック。


俺が近づくと、彼は俺の顔を見て、露骨に眉間を押さえた。


「ああ……来ちゃったか」


「どうしたんですか?」


「どうしたもこうしたも……ほら」


セドリックは顎で受付の方を指した。


輪の中心、受付カウンターのすぐ前に見慣れない連中が立っていた。

箱か何かに立っているのか、人混みからも良く見える。


まず、偉そうに腕を組んでる男。軽装で、剣の柄が見える。

背はそこまでじゃないのに、周りの空気がそいつを避けてる感じがする。


その隣に、背筋の伸びた男。こちらは動きが静かすぎて逆に目立つ。

剣帯の位置も、姿勢も、きっちり整っている。


そして、少し後ろ。杖を持った女がいる。

露骨に面倒くさそうな表情だ。


セドリックが小声で言った。


「ここのギルドのAランクパーティだよ。蒼牙隊」


「……A」


喉が勝手に鳴った。


セドリックは指で示しながら説明してくれる。


「偉そうにしてるのがカイ。隣がヴァルド。両方とも凄腕の剣士だ

 で、あの杖がリディア。回復と支援。」


聞いたことがある。

確か、ギルド長が名前を呼んでいた。


(蒼牙隊……)


俺が見上げると、ちょうどその偉そうな男が、腕を振り上げた。


そして腹から声を叩きつけた。


「お前ら聞け――――っ!!」


ギルドの空気が一瞬、凍った。


「今から選別を行う!! 訓練場に来いっ!」


どよ、と声が上がる。

ざわめきが、熱に変わった。


「選別……?」


俺が呟くと、セドリックが肩をすくめた。


「掲示板に貼ってあった。調査の手が要るってよ」


「調査……琥珀迷宮の?」


「そっちもだし、紅蓮回廊もだ。なんせ人手が足りないのは知ってるだろ」


調査に取られて初心者講習や講義なども今は停止中だ。

そのメンバーを探しているのだろうか。


俺は周りを見る。

みんな騒いでるかと思ったが、意外とそうでもない。


「また始まったぞ」

「蒼牙のやつか」

「選別って言い方が腹立つんだよなぁ」


呆れた声も多い。慣れてるのか。


(……よくあるのか、これ)


セドリックがため息をついた。


「ランク指定で依頼発注もできるのに、わざわざ目の前で試す。あいつら、そういうの好きなんだよ」


「……好きっていうか」


「性格だ。カイは特に」


そのタイミングで、リナが俺の袖を引っ張った。目が、完全に光ってる。


「ねぇ、行ってみようよ」


「おい、リナ」


「Aランクだよ? 見たい!」


見たい、は分かる。

でも――


(そもそも、俺ら未成年枠だし……調査って高危険じゃないか?)


迷っていると、セドリックが俺の顔を見て言った。


「受けるだけなら誰も止めない。で、通らなきゃ終わり。通ったら……まあ、その時に話が来る」


「……セドリックは?」


「俺は遠慮しとく。胃が痛い」


顔が本当に痛そうで笑えない。


俺はリナを見た。


「……行ってみるか?」


リナは言葉を返さなかった。

ただニヤリと笑った。




訓練場へ向かう。

ここは、前に昇格試験の時にも来た場所だ。


木柵の中に人が集まって、既に半円の観客席みたいになっている。

中央には、蒼牙隊の三人。


カイが腕を組んだまま、列をざっと見回している。

ヴェルドは静かに立っていて、視線だけが鋭い。

リディアは、座って何かの本を読んでいる。



俺とリナが柵の中に入ると、カイがすぐ気づいた。


「おう。何だお前ら」


声がデカい。

怒鳴ってるじゃなくて、元からデカい。


俺は一歩前に出た。


「選抜を受けに来ました。ユウトです。こっちはリナ」


「リナ!」


リナが元気よく手を上げる。


カイの目が、俺らを上から下まで舐めた。

そして一歩、踏み出す。


空気が変わった。


圧。

皮膚に触るみたいな、目に見えない重さ。


(……うわ)


だが、ブラムさんの殺気を受けた経験があれば耐えられる。


リナはむしろ嬉しそうに唇を歪めた。


俺も、呼吸を整える。



カイが、俺らの反応を見て、少しだけ口角を上げた。


「……ほぅ」


態度がほんの少し変わる。

お試しが終わったようだ。


「どっちから来る」


俺が口を開く前に、リナが前に出た。


(マジか。本気だこれ)


ヴェルドが、丁寧な声で言った。

「怪我をしないように木剣を使ってください」


ひょっとして木剣でも当たれば怪我をするというのをAランクの人は知らないのだろうか



リナは木剣を手にする。

カイも木剣を持ったが構えない。


「じゃあ、かかってきな」


リナが構えた。


数秒。

互いに動かない。


……いや、動いてないのに、ピリピリする。

肌が刺されてるみたいだ。


次の瞬間。


リナが消えた。


(速っ――!)



踏み込み。斬り込み。

一撃目から殺しに行く速度だ。


カイは笑いながら、それを捌いた。


「やるな」


木剣がぶつかってるはずなのに、音が薄い。


(……受けてる? 吸ってる?)


衝突が跳ね返ってない。

柔らかく、全部持っていかれてる。


理解の外だ。

あの速度の剣戟を、当たる瞬間に抜いて、消してる。


リナが連打する。

なのに、カイの足はほとんど動かない。


そして、カイがぽいっと木剣を投げ捨てた。


「これもいらねぇか」


「え?」


俺が声を漏らした瞬間。


カイは素手になった。


(素手で、あの速度に?)


次の瞬間、すでに間合いの中にあるリナの動きが止まった。


正確には、動こうとすると止められる。


リナが踏み込もうとした瞬間、肩に指が触れる。

触れたのに、動きが止まる。


蹴りを入れようとした瞬間、腰を軽く抑えられる。

それ以上、体が回らない。


意味が分からないのが、剣の間合いで手が届かないはずなのに、

気がつくと、手で触れている。


「っ……!」


リナの表情が、悔しさで歪む。


(初見で? あのリナの速度と癖を?)


相手にされてない。

完全に制圧されてる。


これがAランク……。


リナが息を吸って、2歩、後ろに下がった。


(間合いを取った)


次の一撃は分かる。全力だ。


リナの魔力が、濃くなるのが見えた。

身体操作を深くかけてる。全身が張る。


リナは一度、剣を走らせて見せた。

視線を揺さぶる動き。


その直後。


全力の、中段蹴り。


インカーネイトの鉄の鎧を凹ませた、あの一撃。


カイが、ほんの僅かに表情を変えた。


「おっと」


腕が出る。

手のひらが、リナの蹴りを受け止めた。


音がしない。


リナの足が、そこで止まる。

止まるというより、殺された。


「……っ、は?」


リナの目が丸くなる。

信じられない、という顔。


俺は喉が乾いて、唾を飲んだ。


(受け止めた……? 手のひらで……?)


俺たちの最大戦力の一撃が。

あしらわれた。


カイが、笑った。


「いいねぇ!」


そして、でかい声で叫んだ。


「まぁ合格!」



だがそれを聞いてもリナは悔しそうに唇を噛んでいる。

そりゃそうだ。戦いをさせてもらってない。


全部、止められてた。


その顔を見てると、俺の腹の奥にも火がつく。


俺は一歩前に出た。



「次は俺がいいですか」



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