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57 報告



「ギルドに報告だ。……お前らも一緒に来い」


「はい」


「はーい!」




「それにしても嵐核ドレイクかぁ。どんなのだったのかねぇ、気になるねぇ」

歩きながらリナが呟く


確かに気になる。

さっきの音と振動が、もう普通の強い魔獣の範囲を超えていた。


マルツェンさんがぽつりと続けた。


「……俺だって、遠巻きに姿を見ただけだ。よく見たわけじゃねぇ」


マルツェンは肩越しに俺らを見ず、前を向いたまま言う。


「……あれは近づいただけで死ぬ類だ。人間辞めた連中しか相手にできねぇよ」


「人間辞めた連中……」

セラやブラムさんのことが脳裏に浮かんだ。



地上に出た瞬間、空がやけに広かった。

夕方手前の光が眩しくて、洞窟の湿った空気が嘘みたいだ。


ラツィオの街へ走る途中も、頭の中からあの振動が抜けない。


ギルドの建物が見えてくると、マルツェンさんは一度だけ振り返った。


「余計なこと喋るなよ。見たこと、聞いたことだけだ」


「はい」


「うん!」




ギルドの扉を押し開けると、いつものざわめき。

依頼票の前で揉めてる声、酒の匂い、金属の擦れる音。


受付のカウンターに一直線に向かう。

今日はカトリーナさんが立っていた。


「いらっしゃ――」


マルツェンさんが、挨拶を切る。


「紅蓮回廊。緊急だ。A指定の嵐核ドレイクを上層で目撃した」


カトリーナさんの表情が、一瞬で固まった。


「……確認します。どなたが確認されたのですか」


「グレイリングが見たと言った。俺も遠目に音と振動を確認している」


カトリーナさんは頷き、すぐに奥へ視線を走らせた。


「グスタフ様をお呼びします。こちらへ」


その瞬間だった。


入口の方で、複数の足音。

鎧の擦れる音が混じる。


グレイリングの盾の大男が先頭で入ってきて、まっすぐ受付へ向かった。

その後ろに短いメイスの女、粉と布の男、弓を背負った男。



盾の男が、無駄のない声で言った。


「紅蓮回廊の5階層南で嵐核ドレイクを目視した」


「……分かりました」


カトリーナさんは一度だけ目を閉じ、奥へ走った。


数十秒も経たないうちに、奥の扉が開く。

ギルド長、グスタフ・アルブレヒトが出てきた。



グスタフは受付の前に立ち、俺らとグレイリングを一瞥してから、ギルド全体へ向けて声を張った。


「諸君!紅蓮回廊への立ち入りを、ただいまより禁止する!

琥珀迷宮に続き、二つの迷宮が閉じる。理由はAランク指定の上層部での発見だ!」


どっと、ざわめきが膨らんだ。


「はぁ!?」

「ふざけんな、稼ぎが!」

「琥珀も閉鎖中だぞ!」

「こっちは明日の飯が――!」


(……そりゃ、そうなる)


メインの紅蓮回廊まで立ち入り禁止の上に、琥珀迷宮まで立ち入り禁止なのだ。



グスタフさんは一言だけ続けた。

「金銭的に厳しいものは申し出るように」


ギルド内のざわつきは収まらない。

先日運良く大金が入って多少の余裕があるが、その前だったら間違いなく詰んでいた。

ダンジョンとは関係のない依頼だったら減ることはないだろうが。

今後の方針は再検討する必要がある。


グスタフさんの視線が、俺らに戻った。


「……マルツェン。はらぺこ軍団。グレイリング。奥へ来い。ギルド長室だ」




ギルド長室は、木の匂いが濃かった。

扉が閉まると、外の喧騒が少し遠くなる。


グスタフは椅子に座らず、机の前に立ったまま言った。


「マルツェン、何があった」


マルツェンが頷いて、短くまとめる。


「俺らは紅蓮回廊に潜ってた。素材回収中、グレイリングが上がってきた。

あいつらが嵐核ドレイクを見たと言った。俺も遠目に姿を見た。下層から爆音と振動が続いてる」



グレイリングのガロが続ける。余計な言葉がない。


「5階層の南で目視。現れるはずのない場所で突然現れた。

 ドレイク用の準備はしてないので即撤退した。」


メイスの女イリスが、付け足す。


「普通はもっと事前に気配もするんですけどねぇ」


グスタフさんは頷いた。


「なるほど」


そして、視線がマルツェンさんへ戻る。


「……他に。違和感は」


マルツェンさんが一拍置いた。

言い方を選んでるのが分かる。


「関係はないかもしれないが、ここ最近、紅蓮回廊で見覚えのない男が潜っている。

金稼ぎと言っていたが、素材を集めている様子もなかった。

かといってAランク魔獣を上層に連れてくる意味も分からないが」


グスタフさんが、グレイリングへ視線を振る。


ガロが頷く。


「見た。8階層で。俺たちが戦闘中にソロで歩いて、さらに奥まで潜っていった。

イカれてるとは思ったが、戦闘中だったこともあり、特に話しかけることもなかった」


グスタフさんは顎に手を当てた。


「ここ最近、迷宮周りの嫌な報告が増えている。

琥珀迷宮の件で、調査に人手を取られているのは周知の通りだ。その上で、紅蓮回廊でもこれだ」


机の角を、指で軽く叩く。


「……ここから先は、推測になる」


そう前置きしてから、グスタフさんは言葉を続けた。


「もし意図的に異常を起こしている者がいるとする。

目的は何だ。琥珀迷宮を昇格させる。あるいは、紅蓮回廊まで昇格を狙っているのか

仮に昇格をさせたから何だというんだ」


俺は反射的に眉を寄せた。


(昇格……って、狙ってできるのか?)


グスタフさんはさらに言う。今度も、推測の形を崩さない。


「迷宮が荒れれば、街は混乱する。立ち入り禁止にすれば素材も魔石も止まり、稼ぎ口は細る。

いずれにしてもこの騒ぎ自体が狙い、という可能性もある」


マルツェンさんが腕を組んだ。


「だが、昇格自体そもそもあまり起こり得ない話だ

これが同時に発生するというのは偶然とは考えづらいな」


「うむ」


グスタフさんが頷いた、その時。


俺は口を挟んだ。

疑問が、喉の奥で膨らみすぎていた。


「……あの。ダンジョンって、昇格させられるんですか」


グスタフさんの視線が俺に向く。

怒ってはいない。むしろ、確認するような目だ。


「良い問いだ、ユウト」


一つ息を吸って、説明に入った。


「迷宮の等級は、内部の魔力環境と生態で変わる。

魔力濃度が高まれば、自然発生する魔獣は強くなる。数も増える。結果、危険度が上がる」


俺は頷く。分かりやすい。


グスタフさんは続けた。


「魔力が高まる要因はいくつもある。そもそも地形や環境的に魔力が溜まりやすい場所というのはある。

そういった所に一定以上の魔力が溜まるとダンジョン化する。

自然と魔獣が発生し、そこで人が殺されると、その人間の持っていた魔力はダンジョン内に残り、

さらにダンジョンの魔力は強くなる。ダンジョンは放っておくと強くなるんだ」


ダンジョンの成り立ちから教えてくれる。


「意図的にダンジョンの中に外部から魔力を送り込み続けると、魔力濃度が上がり、昇格する

その方法はいくつかあるが、意図的にやろうとすると資金も人手もかなりかかるはずだ」


リナが横で首を傾げる。


「じゃあさ、魔力を減らせば安全になる?」


グスタフはゆっくりと頷く。



「そうだな。だから人間は、ダンジョンを管理し続ける。魔石を外部に出すことで、魔力は薄まる。

放っておくと魔力が蓄積し続けて危険だからな。素材と魔石が金になるのは、都合がいい」


世の中は上手いこと回っているらしい。


「今回はご苦労だった。明日以降ギルドからの依頼が発令されることだろう。

その際は諸君らも協力をよろしく頼む」


ギルド長室を出ると、外の空気はまだざわざわしていた。

紅蓮回廊の停止。その言葉が、ギルド内を飛び交っている。


俺たちは換金窓口へ回った。

今日の素材と魔石を並べる。


査定が終わって、受け取った袋の重みは昨日と同じくらい。


「金貨六枚」


受付の職員が淡々と言った。


(……昨日と同じ額、ってことか)


俺は頷いて、袋を開ける。

金貨の色が、やけに眩しい。


マルツェンさんに3枚渡した。


「約束通り。助かりました」


「いい。まだまだ勉強することはたくさんある。焦らずにやることだ」


「うん!」


リナが即答する。


(……帰って復習しないと)




ギルドを出ると、空が赤く焼け始めていた。

街の屋根が橙色に染まって、さっきまでの騒ぎが嘘みたいに見えた。

さてと、晩御飯の食材でも買って帰るか。


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