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45 セドリック

魔石ランタンの光は、最低限周囲を照らしている。

その先は完全な暗闇だ。


壁際の窪みに身を寄せて、俺と白の梟団の隊長であるセドリックさんが並んで座る。

背中は岩、正面は通路。左右の死角はなるべく潰してある。


眠っている仲間たちの呼吸は、浅い。

疲労と恐怖が混じった寝息だ。


「……2時間しっかりと見張っていこう」


セドリックさんが囁く。声が擦れている。

喉だけじゃない。全身が、限界を訴えている音がする。


「はい。2時間で交代です。魔獣が出たら」


「全員起こす」


改めてやるべきことを確認する。


遠くで水滴が落ちる音がする。

ぽちゃん。

一瞬、距離感を測りかねて、背筋が跳ねた。


セドリックさんも同時に肩がわずかに上がる。

視線が合う。互いに、気づかないふりをした。


「……こういう時は、喋ってないと寝てしまうな」


セドリックさんが言う。



俺は喉の奥を湿らせるように唾を飲んでから、なるべく軽い話題を探す。


「……白の梟団って、いい名前ですよね。由来ってあるんですか」


「ああ」


セドリックさんは、少しだけ天井を見上げた。暗闇に目を慣らすみたいに。


「夜に強い鳥だろ。梟は。視界が悪いところで周りを見て、音で獲物を掴む。

 ……俺たちも、そうありたいと思ってつけた」


「なるほど。今の状況に、嫌なほど合ってますね」

何も考えずに返答してしまう。


「……今はやめてくれ」


小さく吐き捨てるように言ったあと、セドリックさんは続ける。


「それより、お前たちの強さは何なんだ。出鱈目すぎる」


「子供の頃から、鍛えられてるからでしょうか」


「あっちのリナについてもそうだが、明らかに上のランク帯の動きだ」


そう言ってもらえると、今までの苦労が報われる気持ちだ。



「それに魔術の使い方が異常だ。杖もなしにあんなこと。」


「師匠が特殊だったのかもしれません。」


「それにしたって」



俺は、追及を避けるように話題を変えようとする。


「……隊長、街はどこ出身なんですか」


「ラツィオだ。……生まれも育ちも」


「じゃあこの街が、ホームなんですね」


「ホーム。……そうだな」


セドリックさんは、視線を通路の奥に据えたまま、ぽつりぽつりと続けた。


「俺は、冒険者ってやつに憧れた。ダンジョンがある街で育つと、誰でも一度は中を見たくなる。

それに男なら強さに憧れてしまう」


「強さですか」


「……自分を守れる。誰かも守れる」


その「誰か」に、今ここで眠っている仲間たちが重なって見えた。


俺は、わざと軽く言う。


「守れてますよ。隊長がいなかったら、白の梟団はあんな動きできないです」


「……それでも、全然足りない」


セドリックさんの声が、ほんの少し低くなる。


「Cランクまでは何て言うかな、努力すればいけるんだ。だがBランクから上は

人間の領域を外れてきている。今まで見てきた奴らは枠から外れている」


セラやブラムさんのことが頭に浮かんだ。


「結局俺たちは人間の枠組みを越えられなかった。そしてたまに出てくる君たちみたいな

 桁外れの才能を見せつけられていく。」


言葉に詰まる。


「それでも、ここみたいな管理迷宮ならサポートは出来る。命の危険に見合う稼ぎも出来る。

 いつまで続けられるかは分からないけどね」


「管理迷宮?」

聞いたことのない言葉が出てきた。


「管理迷宮っていうのは長期に安定したダンジョンで、ギルドで内部も全て管理出来ているダンジョンだ。

 今のここみたいに不安定ならただのダンジョンと呼ばれるし、管理されてなければ野良ダンジョンとも言う」


「なるほど」

様々な呼称があるようだ。



話が落ち着いたところで、遠くの通路から、かすかな擦過音がした。


ざり……ざり……


二人同時に、音の方向へ顔を向ける。

呼吸が止まる。



セドリックさんが、ほとんど口だけで言う。


「……足音じゃない。爪か、腹を擦ってる音だ」


「シャドウファング?」


「……可能性は高い」


またかよ

あいつら、しつこいなぁ


俺は剣に手をかけ、いつでも動けるように意識を整える。

セドリックさんも、剣の柄に指を添えたまま動かない。


数秒。

永遠みたいに長い数秒が過ぎて


音は、離れていった。


二人同時に息を吐く。


「人数が多いと滅多に襲いかかってこないんだけどね」

セドリックさんが、ぽつりと言った。


「それでもこちらが完全に油断してるとわかると襲いかかってくる。厄介だよ」


「難しいですね」


「ちなみにもっと上のランクの冒険者だとどう対処するんですか?」

素直に聞いてみる


「そうだな。前に見たのは手のひらサイズの石を投げて、そしたらぐちゃぐちゃになってた」

「うわぁ」

確かに人の領域を超えてそうだ。


「Aランク帯の荷物持ちの時は、なかなか魔獣に会わなかったな。避けてたんだと思っている」

なるほど。そう言うこともあるのか


「それは人間を辞めてますね」


そう言うと、セドリックさんは小さく笑った。



俺たちは、闇に耳を澄ませながら、細い声で他愛もない話を続けた。

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