表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/108

42 熔骨オーガ

「一体……どうなってるんだ」


白の梟団の面々が、信じられないものを見るみたいにリナと俺を見比べていた。

フィオナは盾を構えたまま固まっているし、セドリックは剣先を下げたまま眉間に皺を寄せている。

カイに至っては矢を番えたまま口が半開きだ。


そりゃそうだ。俺だって意味がわからない。


鎧が凹む蹴りって、なんなんだよ。ブラムさんじゃあるまいし。

いや、ブラムさんなら粉砕くらいしてしまう気がする。たぶん。……たぶんだけど。


「ねえ……今の、見間違いじゃないよね?」


カイが小声で言う。

リナは肩で息をしながら、涼しい顔で髪を払った。


「見間違いじゃないよ。ほら、凹んでるでしょ」



「そんな……少なくともCランク帯でもこれは見たことがない。」

セドリックが絶句する。


その横で、ミレイユが、俺に向かってズイッと距離を詰めてきた。

目がギラギラしている。


「あなた、さっきの魔術……どうやったの?」


「え?」


「杖もなしに、空中に魔法陣を展開してた。詠唱も……私の耳には聞こえなかった。あれは何? 術式?」


「んー」


言われて思い出す。確かに俺、戦闘中は小声になってた。

最後の起動語「ウォーター」だけは多少はっきり言ったつもりだけど、剣戟と金属音で掻き消されたか。


「詠唱はしてたよ。小さくだけど。……というか、そんなに驚くことなの?」


ミレイユは本気で驚いた顔になった。


「杖がないと魔術の発動なんて出来ないわ」


「杖……」

セラにそんな話を聞いたことない。

あの魔術マニアが知らなかったなんてことは無いと思うが

なぜ教えてくれなかったんだろうか。


「杖って見せてもらってもいいですか?」


「いいわよ」

そう言ってミレイユは、手持ちの杖を差し出してくれた。

黒檀みたいな濃い木に、銀色の線が蜘蛛の巣みたいに細かく走っている。先端には小さな魔石が嵌っていた。


「これが……」


俺は恐る恐る杖に触れた。冷たい。木のはずなのに、妙に硬い冷たさがある。

魔力をほんの少し流すと内部に、細い経路みたいなものが見えた。


「……経路がある」


「見える?刻印術式。ここに基本の魔法陣が何種類か入ってるの。

 詠唱を鍵として唱えて、最後に起動の鍵の魔術名を唱えると、対応する魔術が勝手に展開される」


「勝手に……」


俺は魔力を流してその経路を分析する。

複雑だ。古代文字の一部が見える。


「なるほど……魔法陣を展開するためだけの術式が構築されていて、それとは別に……組み合わされている。こっちの刻印は指定に合わせて必要な魔力を取り出す……いや、でもこの組み合わせは……」


「ちょ、ちょっと待って。何ブツブツ言ってんの」

背後から、リナの不機嫌な声が飛んできた。


「キモいよ?」


「うるさい。声に出てたか……」


ミレイユが目を丸くした。


「……あなた、術式を読んでるの?」


「読んでるってほどじゃないけど、全体の流れだけ」


「どこで習ったのよ」


「あ、いや。森の……うん、師匠がね」


危ない危ない。余計なこと言うところだった。


ミレイユは杖を撫でるようにして言った。


「今度教えてくれないかしら」




「はいはい、魔術オタク二人、後で語り合って。今は生き残る時間」


「……すみません」


ミレイユが我に返ったみたいに咳払いをして、セドリックの方を見る。


「今後の方針を決めよう。救援が来るのは、早くても明日以降だ」


セドリックが頷く。


「崩落した道は危険すぎる。戻ろうとして二次崩落に巻き込まれたら終わりだ。別ルートで上へ抜ける」


「上層の方が魔力濃度が薄い。出る魔獣のランクも落ちる。なるべく早めに戻りたい」


フィオナが、盾を背負い直しながら言った。


マルツェンは痛みに顔を歪めつつも、冷静に補足する。


「インカーネイトが出た時点で、この辺りはもうII級じゃねぇ。

 ……昇格の兆しがあるなら、他のBランク指定が出てもおかしくない」


俺はちらっとリナを見る。

さっきのインカーネイト戦、リナは確かに圧倒して見えた。

けど代償はあったはずだ。呼吸の荒さも、汗の量も、いつもと違う。


「リナ。さっき、かなり身体操作と身体強化回してたよな。無理すんな」


「んー……」


リナは一瞬だけ視線を泳がせて、すぐニヤッとした。


「じゃあ、無理しない縛りでやろっか。制限ありもいいよね」


「お前……」

流石ブラムさんの娘。

以前、左手使えない縛りとか言って

体に固定されて使えない状態でやらされたことを思い出す。





「行こう。今のうちに」


セルドックが宣言する。

士気が高い今のうちに動く。


俺たちは再び列を作り、掘られた通路を進み始めた。




しばらくは魔獣に遭遇せず、奇妙なほどスムーズに進めた。

さっきまでの頻度が嘘みたいだ。逆に怖い。


マルツェンは、フィオナが治癒魔法で足の骨折の痛みだけでも鈍らせてくれた。

おかげで、なんとか自力で歩けるようになっている。




腕も治療しようとしたところ、マルツェンは首を振った。


「後でいい。魔力は温存しろ。……足が動けば十分だ」


これがベテランの判断か。


通路を抜けると、また広場に出た。




天井が高く、壁は黒ずんでいる。

空気が熱い。湿気のある熱さじゃない。乾いているのに喉の奥が焼けるような熱。

ランタンの灯りが揺れて、光が赤く見える。


「……いる」


セドリックが呟いた。


広場の奥。

巨体が三つ。


上半身が露出している、人型。いや、人の形をした何か。

でかい。身長は2.5mほどだろうか。その上筋肉がすごい、分厚い。

手には棍棒、斧、そして鉄の杭みたいな武器。どれも人間が振れるサイズじゃない。


皮膚は黒ずんだ灰色をしている。

皮膚から透けるように、赤黒い光が鈍く脈打っている。骨なのか血管なのか分からない。

まるで体内に炉があるみたいに、暗闇の中でも内側だけが発光していた。


「熔骨オーガ……」


マルツェンの声が低くなる。

白の梟団が、ざわりと息を呑んだ。名前を聞いただけで警戒が跳ね上がるタイプらしい。


「……強いの?」


リナが小声で聞く。

正直、俺もピンときていなかった。


マルツェンが短く答える。


「Bランク指定だ。そしてあの巨体。普通の人間じゃ何人いても倒せない。村が一つ壊滅する。

 体内が高温で切ると皮膚から蒸気が噴き出す」


「え、なにそれ?」



言った瞬間、オーガのひとつがこちらに顔を向けた。

目の奥が赤い。ランタンの灯りとは違う光だ。


重い足音。

ドン、ドン、と床が鳴る。

歩くだけで圧がある。


「俺たちに狙いを定めたようだな」


セドリックが言う。

フィオナが盾を構える。カイが矢を番える。ミレイユが杖を握り直した。


俺はリナに言った。


「リナ。今度は、マジで無理するなよ」


「だから、無理しない縛りでいくってば」



「分担だ」


マルツェンが指示を飛ばす。


「リナと白の梟団お前らは一体ずつ持て。ユウトには俺がつく」


「了解!」


返事が重なる。


俺と白の梟団が左右に散り、リナが正面を相手取る。

互いに干渉しない距離。だが、離れすぎれば助けに入れない。絶妙な距離感だ。


俺の前のオーガ棍棒持ちが、速度を上げた。


歩きが走りに変わる。

床が震える。

棍棒が、頭上から振り落とされる。


「まともに受けたら死ぬな」


魔力を回し、角度をつけて障壁を展開する。


透明な膜が斜めに張られた。

棍棒がぶつかる。


ガンッ!!


衝撃音が響き、棍棒が斜めに流れる



俺はそのまま左へ回り込み、背後を取る。


首を落としたい。

でも高さが足りない。


なら、足。動きを奪う。


背後から太ももを切り裂く。


「っ」


刃が入った感触はある。だが深くない。肉が硬い。

そして次の瞬間。


シューッ!! と、切り口から勢いよく蒸気が吹き出した。


「うわっ!」


熱い。熱すぎる。

前腕に当たって、皮膚がヒリつく。火傷だ。

俺は反射で三歩飛び退いた。


「気をつけろ!」とマルツェンが叫ぶ

さっき言ってたのはこういうことか。


切り裂いたオーガの太ももを見る。


……蒸気は止まっている。

そして傷が、ない。


いや、正確には、ほんの僅かな裂け目が黒い線みたいに残っているだけだ。

肉が塞がっている。溶けて固まったみたいに。


「マジかよ……!」


横からも声が聞こえる。


「うわっ、なにこれ!?」


リナも同じ目に遭ったらしい。


白の梟団の方を見ると、彼らは防戦一方だが、連携でなんとか捌いている。

フィオナが受け止め、セドリックが斬り込む。カイの矢が牽制。ミレイユの魔術が動きを鈍らせる。

バランスがいい。だが、決定打になっていない。オーガが倒れない。


……熔骨。

切っても塞がる。血が熱。


「倒し方、あるんですか!?」


俺がマルツェンに叫ぶと、立ち回っているマルツェンが息を荒くしながら答えた。


「冷やして、割れ! 熱を落とせ!

 熱が残ってる限り、あいつらは傷を塞ぐ!」


冷やす。


俺は手札を思い出す。

氷と水

水か。


「……やってみるか」


俺は呼吸を整える。

魔力を手のひらに集め、圧縮。追加構文を思い浮かべる。


水の生成。そこまで多くなく全身にかける


「ヴァタ・マラ・サイ、スィル・デク」


小声で詠唱を走らせる。

水を作るだけじゃない。温度を奪うように、薄く広く。

蒸気が出てもいい。最短で温度を削る。


「……ウォーター」


パシャッ、と水が広がった。

オーガの全身に水がかかる。

体の熱で蒸発し、湯気が一気に広がる。わずかに視界が白く霞む。


オーガが棍棒を振り上げる。

蒸気越しに、鈍い光が揺れる。


次の一撃、来る。


俺は身構えながら、考えていた戦術パターンを組み合わせる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ