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38 光明

翌日。


昨日のダンジョン指導が終わって、パーティとしてはDランクになった。

だから今日からは、いよいよ稼げるはず。


そう思って冒険者ギルドに入ってから、俺は愕然とした。


依頼板に貼られているのは、相変わらずEランク帯の雑用ばかり。

薬草採取、配達、井戸掃除。昨日までと変わらない。


「……あれ?」


思わず声が漏れる。

Dランク依頼の欄に目を走らせたが、数が少ない。たまにあっても、条件がある。


その中でも目を引いたのが、「ダンジョン内:魔獣素材回収」の類だった。

報酬は確かにD相応。だけど、その下に、嫌な一文が添えられている。


受託条件:II級イエローにつき、Cランク冒険者1名以上の同行が必須


そうなのだ、規約で入れないんだよなぁ

どうしろというんだ。現在出ている依頼は全て魔獣素材の回収。



隣でリナも依頼板を睨んでいる。


「え、じゃあ昨日のダンジョン訓練って何だったの?」


「まぁ、条件付きではダンジョンに入れるからなぁ」


この街の近辺にあるのは、II級イエローIII級レッド

I級ホワイトはそもそも近くにない。

で、II級に入るにもCランクが一人はいないとダメ。


「……詰んでないか?」


口に出すと、現実味が増して胃が痛くなる。


パーティとしてのDランク相当になったとはいえ、肝心のダンジョンに潜る条件を満たせない。

DランクからCランクへ上がるにはDランク帯の依頼を回して実績を積まないといけない。


でも、D帯の稼ぎの中心は結局ダンジョン。

そのダンジョンに入るにはCランクが必要。


「この仕組み……新人が死ににくくするためなんだろうが……」


「でも、あたしたちが死ぬ前に破産するよね」


リナが真顔で言ってきて、俺は言い返せなかった。


(とりあえず……落ち着け)


焦っても依頼板は増えない。

俺は一旦、頭を冷やす意味も込めて、昨日のダンジョン訓練での戦利品を換金しに行くことにした。




ギルドの裏手にある換金窓口、ギルド提携の素材商だ。

ここなら足元を見られにくい、と昨日受付のミレーネが言っていた。


まずは魔石。


この世界の魔石は、内包する魔力量で S0〜S5の等級がある。

当面扱うのはS2位までの等級だろう


S0:小さく、ライター程度の着火に使える

S1:生活魔道具の電池みたいな扱い。ランタンなど。

S2:家庭用魔導具の主力。調理用のコンロや、照明など。

S3以上:業務用・軍用に片足突っ込む。値段が跳ね上がる



店頭の相場は

S0が銅貨1枚、S1が銅貨8枚、S2が銀貨5枚。

S3になるといきなり金貨10〜20枚。世界が変わる。


ただし買取額は店頭価格の6割ほど。


昨日のダンジョンで回収した魔石は、


S0が6個 S1が3個


売ると、だいたい銀貨2枚になった。


「……魔石って、思ったより稼げないんだな」


「小さいのしかないからでしょ。大きいの出せばいいじゃん」


「出せれば苦労しない」


次に素材。

こっちが本命だった。


昨日倒した影牙狼シャドウファングの牙や毛皮が、状態が良いらしく

複数まとめて金貨1枚になった。


さらに、他の小型魔獣の爪や皮、毒袋の残りなどで 銀貨5枚分。


合計すると、昨日の訓練での戦利品で


魔石:銀貨2枚

素材:金貨1枚+銀貨5枚


(……素材の方が圧倒的に高い)


そして、嫌な計算が頭に浮かぶ。


昨日の感じだと、ダンジョン探索は時間的に1日1回が限界。

もし毎日同程度の稼ぎが出ても、宿代が金貨1枚。飯で銀貨数枚。

黒字はギリギリか、下手すると赤字。


まして今はダンジョンにすら入れない。


「このままだと、資金はもって3ヶ月で底をつくな……」


口に出した瞬間、現実が首を絞めてくる。



宿代が高すぎる。

だから、次に考えるのは生活コストの圧縮だ。


俺はギルドの受付へ戻って聞いてみた。


「……家を借りるには、どうすればいいですかね」


ミレーネは一瞬で察した顔をして、事務的に答えた。


「大家へ直接か、不動産の仲介屋へ。交渉です。

ただし未成年の場合は保護者が契約するか、保証人が必要です」


「保証人がいなければ?」


「保証金として、賃料の一年分を前払いです。退去時に返却されます」


一年分前払い。

嫌な予感しかしない。


「この街の相場は、月の賃料が金貨5枚前後。保証金は、金貨60枚ですね」


「……60」


俺は固まった。

セラとブラムさんからもらった金貨は50枚。足りない。


(最初から詰んでるじゃん)


宿を出て部屋を借りようにも、手が届かない。

安宿にするにも、リナがいる。トラブルは避けたい。

自分で外に出るって言っておいて、ブラムさんに頼るのもなぁ。



リナが俺の顔を覗き込んでくる。


「ユウト、今すっごい死んだ目してる」


「……どうしたもんか」




ギルドのロビーで依頼板の前に立ったまま、俺が動けなくなっていた時だ。


「……おい、はらぺこ軍団」


後ろから声がした。


振り向くと、あの男がいた。

初日に酔って怒鳴ってきた男、ガロ・マルツェン。


今日は酒臭くない。目も据わっている。

顔は相変わらず強面だが、声は落ち着いていた。


「……困った顔をしているな、何があった」



俺は素直に言った。


「Dランク依頼を受けるのにダンジョンに行きたいんですが……俺たちだけだと規約で入れなくて」


「Cが必要、ってやつか」


「はい」


ガロは顎髭を撫でて、少しだけ黙る。

それから、ぽつりと言った。


「……俺が付いていってやろうか」


「えっ」


リナが一気に前のめりになる。


「行けるの!?」


ガロは肩をすくめた。

「うちのパーティは今は、自主訓練中でな。俺はちょうど手が空いてる。

 はらぺこ軍団の護衛・指導として同行すれば入ることができる」


「ただ、依頼なら金はもらうぞ。護衛込みの単発仕事だ。日当はCランクなら金貨3枚が相場だが」


そこで俺たちを見た。

多分、俺の財布が死んだ目を見て察したんだろう。


「金貨1枚でいい。そしてダンジョン内で得た戦利品は全部お前たちの総取りでいい」


「……いいんですか?」


「この間の詫びだ。それと」


ガロは一瞬だけ言葉を探して、低く言った。


「……俺の仲間が死んだばかりでな。新人が無茶して死ぬのは見たくねぇ」


それを聞いたら、軽口は叩けなかった。


条件を頭の中で計算する。


宿代は金貨1枚、食費は銀貨数枚、マルツェンの護衛料として金貨1枚

1日にざっくり金貨2枚 は消える。


だが、ガロがいればII級イエローに入れる。

素材回収依頼も受けられるし、昨日みたいな戦利品が見込める。

Dランク依頼の実績を積むこともできる。


(収支はどう転ぶか分からないでも……Cランクへの道筋が見えてくる)


逃げ道はない。

なら、確率の高い方に賭けるしかない。


俺は頭を下げた。


「……お願いします。明日、同行してください」


ガロは短く頷いた。


「決まりだ。言っとくが、ダンジョンの中では俺の指示に従え。

自分勝手に突っ込んだら、金貨一枚じゃ済まねぇぞ」


「はい」


リナも元気よく頷く。


「はーい!」




俺たちはその場で、Dランク依頼「鉄角ヤギの角3本を回収」と「胞子コウモリの翼と胞子袋を10セット」を受けた。

受託票に、ガロの署名が入る。Cが同行する証明だ。


集合は明日の早朝。

ギルドで落ち合い、そのままII級(琥珀迷宮)へと向かう。


依頼票を握りしめながら、俺は胃の奥が熱くなるのを感じた。


(やっと、前に進める)


リナが隣で笑っている。


「明日、ダンジョンだね!」


「そうだな」




明日のために、俺たちは準備を始めることにした。


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