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36 昇格試験

翌朝。まだ空が白みきる前に、俺とリナはギルドへ向かった。


(試験が終わればDランク。Dになれば、もう少しお金を稼げる)


そう自分に言い聞かせて、ギルドの扉を押し開けた。


朝のギルドは人が多い。

朝から飲んでいる人もいるが、掲示板の前で依頼を確認する人が多い。

美味しい仕事がないかチェック中だ。


受付に立っていたのはカトリーナだった。相変わらず、目が覚めるような笑顔だ。


「おはようございます。……『はらぺこ軍団』さま」

慣れない上に恥ずかしい名前で呼ばれる


「すみません、出来ればその名前で呼ぶのはやめていただけるとありがたいです。

名前で呼んで欲しいです、リナとユウトです」


「わかりました、ユウトさん。本日は昇格試験ですね」

カトリーナは慣れた手つきで台帳をめくり、俺たちの冒険者証と依頼達成数を照合する。


「Eランク依頼、期限内・違反なし・報告書提出済み。達成回数も条件を満たしています。

本日はパーティとしての昇格試験ですね?」


「はい。お願いします」


個人ではなく、パーティとしての昇格試験を受ける。

ギルドには個人ランクのほかに、パーティの運用ランクみたいなものが存在する。

パーティをD相当に上げると、個人がEランクでもDランクの依頼を受けられる。

それに、ダンジョンに入るための手続きもスムーズになる。




知識と実技の二種類がある

それぞれの試験において「メンバーの誰かが合格していれば」パーティは合格扱いになる

そのランクの依頼を受ける際はそれぞれの試験に合格したものが同行しなければならない。

ある試験に合格したメンバーが抜けた場合は、残ったメンバーの誰かが改めて同じ試験を合格して

条件を満たす必要がある。


つまり、それぞれを補い合うことができればチームとして行動が許可されるのだ。


「知識と実技、両方の合格が確認できたら最後にダンジョン指導があります」


カトリーナが続ける。


「試験官同行での短時間潜入です。魔獣相手の戦闘、探索手順、撤退判断、……現場に出る前の、

最低限の指導です。それが終われば、晴れてダンジョンに入って良いことになります」




「……お願いします」


「はい。では最初に知識試験になりますので、昨日と同じ講習室です。こちらへどうぞ」






案内された部屋は、昨日の講習室。長机が並んでいる。


どんな内容が出るだろうか



中で待ち構えていた初期講習も担当してくれた監査官のグレイブが淡々と告げる。


「今から、質問をしていくので、それについて返答するように」


なるほど、会話ベースでの試験のようだ。

「Eランクがダンジョンに入っていい条件は?何が禁止で、なぜ禁止か?」


リナが元気よく

「C級がいないとダメ!」と答え、不正解。

その後、俺が正解を答える。

これの答えはEランクはダンジョンの立ち入り不可。が正解だ。


その後も試験の質問は続くが、グレイブは二人のレベルを確認したのか

先にリナに質問をして不正解になると、俺に問いかけるという流れになった。



ちなみに内容は初期講習でほとんどが受けた内容だ。

引っ掛け問題もあるが、講習を受けたばかりのこともあり順調だ。


「ダンジョンで仲間が負傷し、継続か撤退か迷っている。判断基準を3つ挙げろ」

といった、講習になかった質問も出てくる。


「まず、負傷の程度を確認するのと、今いる場所の危険度がどれくらいなのか、

出口に戻るまでどれくらいかかるか、などでしょうか?」

「ふむ、危険度とはどういうものかな?それがどのくらいの危険度であれば撤退条件になる?」

などとやり取りをしていく


心構えや適性などを判断しているのだろうか



試験の途中から、右隣から妙な音がする。


「う゛ぅ……」


リナだ。呻いている。

眉間に皺が寄り、口が半開きになっている。



途中から心は折れているようだ

グレイブから質問が来るたびに目が泳いている。



放っておこう。どっちかが試験に合格すればいいのだ。

俺は意識を目の前のグレイブに向き合って、質問に返答した。




次は実技。訓練場へ移動した。


こんなところがあるんだねぇ、そういえばエミルも冒険者ギルドで訓練してると言ってたな

木剣、簡易防具、そして監査官。


前に立ったのは、引き続き監査官グレイブだ。

相変わらず目が鋭い。声が冷たい。


「実技。内容は模擬戦。目的は勝敗ではない。

危険の抑制、間合い、制動、撤退判断。分かったな」


リナが勢いよく手を上げる。


「あたしがやるー!」


「勝手に決めるな」


「だって実技でしょ? 実技は任せて!」


グレイブが淡々と言う。


「……では、前へ。開始の合図で動け」


リナは木剣を構える。

一つの辺が8メートルほどの正方形をした訓練場。

その両端に向かい合うように立っている


遠距離から始めるのは魔術師や遠距離タイプにも

対応した試験ということなのだろうか


「それでは、はじめ!」

グレイブが号令をかける


開始の合図とともにリナは地面を蹴りだして進む。

様子見で全力ではなさそうだが、風を裂くみたいな踏み込みだ。


リナは躊躇なく切りかかった。上段、袈裟、返して2手目、3手目まで繋ぐ気満々。


だが、グレイブは動じない。


「……速いな」


ぼそりと呟いて、木剣で受け止めた。

衝撃音が乾いた空気に響く。リナの剣が止まる。いや、止められた。


「次!」


リナが二撃目に移ろうとした瞬間、


「そこまで!」


グレイブの声が飛んだ。


リナがピタリと止まった。


「えっ、もう終わり!? 物足りないんだけど!」


「今ので十分だ」


グレイブは表情を変えず、淡々と続ける。


「今の動きができればDランク帯としては問題ないだろう」


その言葉を聞いてリナが胸を張る。


「ふふーん!」

ドヤ顔でこちらを見てくる


「やめろその顔」



グレイブは最後に一言だけ言った。


「この後採点が終わったら呼び出すから受付の近くで待っているように。以上」

とそれだけ言うと立ち去っていった。





試験が終わり、ギルドのロビーで待つ。

リナはまだ物足りなさそうだ。


しばらくして受付から呼ばれた。


「『はらぺこ軍団』さま、こちらへ」


だから言うなって……!


受付に行くと、今度は主任のミレーネがいた。

笑顔が怖い人だ。


「パーティ昇格試験、合格です。おめでとうございます」


「……よし!」


受かるだろうとは思っていたが、

改めて宣言されると、やはり嬉しい。

これで冒険者ランクDだ。


ミレーネは淡々と続ける。


「この後はダンジョン指導になります。監査官が空いていれば本日中の実施も可能ですが――」


そこで、ミレーネが台帳を見てふっと顔を上げた。


「……あ。ユウトさん、リナさん。お二人とも15歳ですね」


嫌な予感。


「未成年枠ですので、ダンジョン指導は明朝でお願いします。

本日午後からだと、帰還が日没にかかる可能性があります」


「うっ……」


リナが露骨に悔しそうな顔をする。


「今日行けないの!?」


「行けません。規約です」


ミレーネの笑顔は崩れない。規約は盾だ。


(まあ、仕方ない)


「明日の朝、集合時間は?」


「日の出までに。ギルド集合です。遅れないように」


「了解です」




結局、午後はまたEランク依頼、薬草採取に行くことにした。

だから今日の稼ぎは、相変わらず地味だ。


ミレーネが言うには、薬草依頼が絶えないのには理由があるらしい。


「鮮度の問題で、依頼者は一度に大量発注しづらいんです。

ですが加工してポーションにしたり、傷薬にしたり、食用ハーブにしたり。需要は落ちません」


そうは言っても他の冒険者の動向もあるので、毎回効率がいいルートの依頼があるわけじゃない。

今回は1件ずつの受託して、合わせて2件こなした。今日の稼ぎは銀貨四枚。


昨日は何とか黒字化達成したが、今日はマックスで受託しても赤字だっただろうな

薬草採取だけで稼ぐのは不安定だ。


数字が容赦なく現実を殴る。


そして、別の問題も浮かぶ。


こっちに来てから、まともに剣術や魔術の訓練ができていない。

稼ぎに追われると、時間も体力もそれだけで持っていかれる。


日々の稼ぎに手一杯になって、訓練も勉強もできなくなったらCに上がるのが遠のく。

Cに上がれなければ、レッドダンジョンに入れない。

レッドに入れなければ、金貨七枚の世界に届かない。


(余裕資金があるうちに、生活基盤を作る必要がある……)


宿代、食費、装備。

全部、地味に効いてくる。



稼ぎが少なくとも腹は減る。

結局、俺たちは食堂に入った。屋台でもよかったが、今日は体が冷えていた。


「何にする?」


リナがメニュー板を見て即答する。


「肉!」


分かってた。


俺は無難に、日替わりのギール肉を頼んだ。

ギールというのは、この辺りで飼われている家畜に近い動物で、

強いて言うならば見た目は猪と鹿の中間。


出てきたのは、薄切り肉を鉄板で焼いたもの。

出来立てで湯気が立っている表面は香ばしく、脂は少ない。噛むと旨味がじわっと出てくる。

臭みはあまりなく食べやすい。シンプルに塩味での提供だがそれが素材の味を引き出している。



リナが頬張って目を輝かせる。


「肉は正義!」


「正義の基準が食欲なんだよな」





「明日はいよいよダンジョンだな」


「うん! 初めてのダンジョン!」


リナは相変わらず元気だった。


そういう俺も初めてのダンジョンにワクワクしている。



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