33 初仕事
ギルドの依頼を確認しようと受付に向かう途中で、
廊下の先に昨日の三人組がいた。
男二人に女一人。壁にもたれて待ち構えているというより
出入口を塞ぐみたいな立ち位置だ。
(うわ、面倒くさいやつだ……)
隣でリナが露骨に顔をしかめ、腰に下げた剣を抜きそうな勢いで睨みつける。
「リナ。やめろ」
小声で釘を刺し、俺はそのまま歩き抜けようとした。
相手しないが一番だ。
「……昨日は、すまなかった」
声をかけてきたのは、昨日怒鳴っていた男だった。
酒臭さはない。目の赤みもない。肩の力も抜けている。
そして、顔色が悪い。
俺は足を止めた。リナも一瞬止まるが、まだ睨みが消えない。
男は言いづらそうに口を開いた。
「……仲間が一人、死んじまってな。言い訳にはならないが、お前らに当たっちまった」
その言葉と同時に、男の顔に影が差した。
「……そうだったんですね」
俺が短く返すと、男は小さく頷いた。
横を見ると、リナが目を潤ませている。
さっきまでの殺気が嘘みたいに、しゅんとした顔になっていた。
「……それは、つらいね」
単純なやつめ。
この男が本当のことを言っている保証はない。
だが嘘をついているようには見えなかった。
「悪かったな。新人に当たっても仕方ねぇのに」
男は頭を掻き、少しだけ視線を逸らした。
「……俺はガロ・マルツェン。Cランクだ」
違和感に気づいた瞬間、隣の女が一歩前に出て補足する。
「ガロは。昨日は酒が入ってて。……ごめんなさいね」
落ち着いた声。年は30前後だろうか。目がしっかりしていて、場を整えるのが上手い。
彼女は軽く礼をした。
「私はマルタ・リーネ。Dランク。回復と救護が担当」
もう一人の男、弓を背負った細身の青年は、言葉少なに会釈した。
「……シド・ハーディ。D。斥候」
ガロが続ける。
「……昨日言った『やめとけ』は、半分は本当だ。どう見ても若いだろ。
死んだ仲間はCランクだった。それでも死ぬ。決して無理はしないでほしい」
「……」
言葉が出なかった。
ガロが頭を下げるように言った。
「……何かあったら、分からねぇこととか、困ったことがあったら言ってくれ。
できる限りのことはする」
俺は一拍置いて、頷いた。
「……ありがとうございます。助かります」
リナも、まだ目を潤ませたまま頷く。
「うん。……お酒はほどほどにね」
「痛いとこ突くな」
ガロが苦笑した。
俺たちは軽く礼をして、その場を離れた。
ギルドのホールに出ると、いつもの喧騒が耳に戻ってくる。
依頼票の前で話している声、酒場の笑い声、金属のカウンターを叩く音。
さっきの話を思い出し、ちょっとだけ胸が重くなる。
気を引き締めていこう。
気持ちを切り替えて俺は受付へ向かいながら、頭の中で条件を整理する。
EランクからDランクに上がるには、規約どおり
Eランク依頼を5回、期限内・違反なし・報告書提出で完遂
つまり、まずは数をこなす。
さっきの講習で聞いていた内容によると
掲示板に貼られているのは、だいたいこの手のやつだ。
* 薬草回収
* 書簡や小包の配達
* 害獣の駆除(※非魔獣)
* 地下水路の清掃(軽い魔力反応あり、監督者同行が付くことも)
* 迷子捜索(森の入口周辺限定)
* ダンジョン入口近辺の簡易調査(足跡・落石・出現した魔獣の記録)
薬草回収と書簡配達は、ほぼ恒常的に出ているらしい。
それ以外は季節とタイミング次第。
Eランク帯の冒険者は二種類いる。
冒険者として上を目指すタイプと、普通の住民が副業として依頼を受けるタイプ。
依頼も結構数は出るが、早い者勝ちでどんどんなくなってしまう。
今現在残っている依頼は薬草採取と書簡配達
書簡の配達は効率が悪い
どこかに行くついでなら受けてもいいという依頼だ。
なので選択肢はない。
薬草採取に行くことにする
「ねえ、ダンジョン行こうよ」
リナが早速愚痴る。
講習の話を全く覚えてないようだ
「ダンジョンはDランクから。Eは原則禁止」
「入口の近くならいいって言ってたじゃん」
「中に入れないのに行ってどうするんだよ」
「ちぇー」
「さっき講習で説明されたばっかだぞ。聞いてたか?」
「聞いてたよ! 半分!」
半分というのも怪しいもんだが。
俺は受付に並び、順番が来ると、丁寧に言った。
「Eランク依頼を受けたいです。薬草採取で」
受付の女性は昨日も対応してくれたミレーネさんだ
「はい。薬草の指定はこちらになります。湿地の《青葉草》を30束です」
(よし、ちょうどいい)
「報酬は銀貨2枚。納品は日没まで。報告書提出必須です」
「受託でよろしいですか?」
「はい」
受付が札を一枚渡してくる。依頼票の控えだ。
そこには採取条件、禁止事項などが書いてある。
俺はそれを受け取り、握りしめた。
これが冒険者として最初の正式依頼
リナが横で妙にテンションを上げる。
「初冒険だ! いこー!」
俺は苦笑しながら、ギルドの扉へ向かった。
初冒険いや、初仕事だ。
「行こう」
「おー!」
俺たちは街の喧騒を背に、最初の依頼へ歩き出した。




