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14 旅路

 部屋から荷物を持って出ると、すでにセラも玄関先で支度を終えていた。


 肩掛けの革袋に杖、腰には小さなポーチ。

 服装はいつも家で来ているものとは違い、少し格調高い装いだ。


「じゃ、行くよ」


「はい。えーと、今日はフェンデルまで歩いて、そこから馬車ですよね」


「そう。隣町のフェンデルまで二時間半。そこから先は馬車でラツィオだ」


 扉を閉めながら、セラが確認するように言う。


「ラツィオまでは……人に会いに行くって言ってましたけど、誰なんです?」


「昔の知り合いの子孫だよ。依頼主でもある」


「昔の知り合いって、百年前とかの話ですか?」


「もう少し昔かね」


 一体何歳なんだ、この長寿エルフ。




 家を離れ、森の小道に足を踏み入れる。


 久しぶりにラツィオ街へ向かうのは、正直かなり楽しみだった。

 あの大きな石畳の通りと、ずらっと並んだ商店街。

 歩いて眺めているだけでも楽しいし、何より


(食べ物がうまいんだよな……)

 この家や村で食べる食事も美味しいが、肉や甘味はなかなか出ない。


 露店で売ってる串焼き、肉たっぷりのパイ、甘い焼き菓子。

 思い出しただけで、自然と口元が緩む。


「……ニヤついてるよ」


 横からセラの声が飛んできた。


「そんなに楽しみかい?」


「楽しみですよ? だって食べ物美味しいじゃないですか、ラツィオ。

 何食べましょうかね、楽しみですね」


 素直に答えると、セラはふっと笑った。





 とはいえ、その前にフェンデルまで歩かなくてはならない。


 徒歩で二時間半ほどの道のり。

 森の中の獣道を抜け、ところどころ岩場の斜面も登らされる、地味にきついコースだ。


「セラさん、そういえば普段、運動してるところあんまり見ないですけど」


「してないよ?」


「ですよね。なんでそんな平気そうなんですかね……」


「筋力と体力は、身体強化でなんとかなるからね」


「ずるくないですか、それ」

 俺には魔力による身体強化は魔力操作の訓練時のみしかやらせてくれない


「あんたにはまだ早い」


 さらっと言われた。


「辛かったら、途中で抱っこしてやってもいいよ?」


 おんぶではなく抱っこなのか


「未熟な身体操作は体を壊す。もうしばらく先だね」


 身体操作が難しいのは、生まれてから自然と使っている肉体の操作の精度と

 魔力で身体の動作補助をする際の精度の差だ

 針に糸を通すような精密な精度で操るように魔力の制御ができていない

 ゆっくり動くなら問題ないが、戦闘時のような瞬間的な動きでミスをすると脱臼したりする。


「早くできるように頑張ります」

 素直に返事をする




「ラツィオに行く依頼内容はね、原因不明の体調不良ということだ」


「え、そうなんですか?」


「もしかするとあんたのスキルが噛み合うかもしれない」


「ヒストリック・トレース、ですか」

 自分の中で無かったことにしている謎スキルのことだ


「医者には見せているということだから、病気ではない何かかもしれない

 その時にスキルのお世話になることがあるかもしれない」


 そう言われると、少し背筋が伸びる。


「……いやー、どうですかね」


「大丈夫。あんたが何も拾えなかったら、あたしがちょっと本気出すだけさ」


 ヒスリックトレースのスキル内容は

(誰かが使用したものに触れると、ぼんやりと何かが見える)

 何かというのは、時間かもしれないし、人の顔かもしれないし、風景かもしれない

 はっきり見えることもあれば、薄ぼんやりの時もある。法則は見つかっていない。

 なお、スキルに目覚めてから今まで、役に立った記憶はない



 そんなやりとりを続けながら、森の中を歩き続けた。


 セラは相変わらず、ほとんど息を乱さない。

 こっちも訓練のおかげで問題ないが、魔力欠乏の影響でまだ少しだるい


「疲れたら言いな。ペース落とす」


「大丈夫です。倒れたら言います」


「倒れる前に言いなさいよ」

 日々の訓練の影響で価値観が狂っているかもしれない。



 そうこうしているうちに、木々の密度が少しずつ薄くなっていく。


 斜面を登りきると、視界が一気に開けた。

 そこには、ローヴェン村とは違う風景が広がっていた。


 緩やかな丘の一部に、背の低い薄緑の作物が風に揺れている。

 麦より細く、草より整った列。

 ところどころに小さな水車のついた小屋が建ち、その側では人々が何かを干したり、束ねたりしている。


「……フェンデル、ですね」


「そうだな」


 セラが顎で前方を示す。


 村の家々はローヴェンと同じような木と土の造りだが、

 ところどころにオシャレっぽいところも見える


 街まで通る街道には月に2回、商隊がくる。

 ローヴェンよりも少し発展している理由だ。


 村の入口近くには、ラツィオ行きの馬車が数台止まっていた。

 荷台には布の束や麻袋、亜麻の束が積まれている。



「ほら、乗るよ」


 セラが馬車を見つけると軽く背中を押す。

 今から馬車に乗ろうとしているのだろうか?


 夕暮れに近づいていて、今から出たらほとんど夜通し走ることになる

 この村からラツィオまでの距離なら、この時間から出発することはない。

 向こうに泊まっている馬車も今日はここで泊まって明日出発するのではないだろうか


 背中を押されるがまま馬車に近づいていった。



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