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130 逃避行


大所帯になってきた。

俺とリナ、アカネ、シルヴィ、クロハ。そして、フィオレ。


地下牢の通路を歩いていると、前方で金属が軋む音がした。


「ところで、ここはどこなんだい?」


軽い調子の声。

見るとフィオレが、鉄格子を指で押し曲げるみたいにして開いている。

力任せのようには見えない。まるで柔らかい材質みたいに、ぐにゃりと歪んだ。


「……いや、待て。何してる」


難なく牢屋を抜け出すと、フィオレはにこりとした。


「逃げるんだろう?」


「それはそうだが……」


俺は短く息を吐いて答えた。


「ここは冒険者ギルドの地下牢だ」


「ほほう。ギルドの地下牢。……ここからみんなで逃避行というわけだね」


フィオレの目がきらきらする。


「どこへ行くのか決まってるのかい? 楽しみだね」


フィオレは軽く言い放つ。

俺は歩き出しながら言った。


「まずは家に戻る。装備を整える。行き先はそのあと決める」


「クロハが受け入れてもらえる場所が理想なんだが……」


クロハが自分の名前を聞いて、少しだけ口元を緩める。


フィオレが朗らかに頷いた。


「クロハと名付けたのか。いい名だね」


リナが俺を見る。


「で、フィオレは……一緒に来るの、ほんとに?」


フィオレは何でもない顔で手を広げた。


「君が全部話せと言ったろう? 逃げるなら、その途中で話すのが一番さ」


シルヴィが目を細める。


「……逃げる途中で、逃げられたら困るんだけど」


フィオレは笑って、両手を上げた。

「信用はこれから積むよ。焦らないでくれ」


リナは黙ってフィオレを睨みつけていた。


地下から出て、ギルドを抜けた。

外の空気が急に軽く感じた。息がしやすい。


家へ戻る道すがら、アカネがクロハの手を引いて歩く。


「クロハ、お家はこっち!」


「……家」


クロハは目を細めて、空を見上げている。


シルヴィが小声で笑った。


「ふふ。すぐに仲良しさんね」


リナがアカネの頭をぽんと叩く。


「アカネは、いい子だねぇ」


「えへへ……!」


アカネは照れて、クロハの影に隠れた。


家の前に着いた。

扉を開けようとした瞬間、フィオレがぴたりと足を止めた。


「……おっと」


一歩下がって、妙に丁寧に頭を下げる。


「失礼しますね。敵意はありませんからね」


誰に言ってるんだ、それ。

俺は内心で突っ込みながら、扉を押し開けた。


「ただいま」


フィオレは慎重に敷居を跨いだ。

リナが半笑いで囁く。


「なにそれ、怪しいんだか礼儀正しいんだか」


「いやー、よく怪しいと言われるんだ。なんでだろうね」


フィオレは涼しい顔で返した。


久しぶりの家の中に入ると、荷物を整理しながら俺は言った。


「行き先は……レステル公国に戻るのが無難だと思ってる」


シルヴィが顔を上げる。


「レステル公国。魔道具の開発で有名なところね」


「そう」


するとフィオレが指を一本立てた。


「魔族の受け入れとなると、場所は限られる。私が見た範囲の話だがね。

 レステル公国は、他より融通が利く。あそこは獣人も多くいるしね」


クロハが一瞬だけ肩を揺らして、俺の袖を掴む。


「……こわくない?」


俺は答えた。


「分からない。けど、今いる場所よりは話を聞いてもらえる可能性がある」


フィオレが頷いた。


「他には南方のカルドール。ドワーフの国だ。あそこもいい国だったよ」


リナが口を挟む。


俺がふと尋ねた。


「獣人の国のバルガンはどうだ?」


フィオレの笑みが薄くなる。


「バルガンも悪くはないが、あそこは人間に対して冷たい。このメンバーで行くならやめたほうがいい」


色々と詳しそうだ。こういうところは助かる。


「ではやはりレステルを目標として準備を進めよう」


「全部持って行っていいのよね」と、シルヴィも家の中を探索している。


俺は自室に戻り、最後に指輪を撫でる。

アオイの領域に同調する。意識が沈んで、草原の空気が鼻をくすぐった。


アオイはいつものように寝転がって、本を読んでいる。


「……またそれか」


俺が言うと、アオイはページをめくらずに笑った。


「好きでな。外の匂いがする」


「今回は……本当に大変でした」


「だろうな。顔に書いてある」


俺は息を整えてから言った。


「しばらく、この家を離れることになります。挨拶をと思って」


アオイはようやく本を閉じた。目が少しだけ柔らかい。


「そうか。寂しくなるな」


「アオイは……ここから動けないんだよな」


「うむ。私はここに縛られている」


アオイは指輪を指さす。


「その指輪はつけておけ。お前を護る」


俺は思わず眉間に力が入った。


「護ると言っても……今回、死にかけても何もありませんでしたが」


アオイは平然と言う。

「生きてただろう」


「結果的には……」


護ってくれるのか、くれないのか分からないが、あまり期待しないでおいたほうが良さそうだ。


アオイは軽く手を振る。


「近くまで来ることがあったら寄るといい。……気をつけてな」


「ありがとう」


同調を解く。

部屋の空気に戻った瞬間、目の前にフィオレが立っていた。


「……っ」


「驚かせたかな。今のは、指輪で意識を飛ばしていたんだろう?」


「……見てたのか」


「あの精霊の元に行っていたのかい?」


「そうだ。……それより」


俺はフィオレを見据える。


「なぜ、紅蓮回廊で俺たちを狙った」


フィオレは楽しげな顔を消して、肩をすくめる。


「話せば長くなる。旅の途中で話そう」


「……逃げない保証は?」


リナがフィオレの背後から言葉を投げる。


いつからそこにいたんだ。


フィオレは笑ったまま、目だけは真面目だ。


「安心したまえ、君たちがクロハといる間は逃げることはない」


シルヴィが荷物を背負いながら言う。


「私もクロハと一緒に行くわよ」


「結構かかりますけど」


俺が言うと、シルヴィはあっけらかんと笑った。


「大丈夫。それに王都から先に行ったことがないんだよね。……ちょっと楽しみ」


リナがふっと笑う。

「この状況で楽しみって言えるの、メンタル強すぎでしょ」


「楽しみってのは自分で探していかなきゃね」


シルヴィの声は明るい。


準備を整えると、外に出て乗り合い馬車に乗り込む。


ラツィオの街から出る人間はまだ多いのだろう。


馬車の数が多い。その中から人の良さそうな御者を探した。


少し多めに支払いをすると、貸切で走ってくれることになった。


馬車が走り始めると、荷台が揺れる。


アカネがクロハに胸を張った。


「ここからレステルまで、すっごい遠いんだよ!」


「……とおい?」


クロハが目を丸くする。


「うん! とおい! アカネ、しってる!」


リナが笑って頷いた。


「アカネもお姉さんになったねぇ」


クロハが小さく笑った。


「……おねーさん」


それを聞いたアカネが、勝ち誇った顔で腕を組む。


見た目で言えばアカネが一番小さいのだが、

それがかえって微笑ましい。


馬車の隅でフィオレが心底楽しそうに言った。


「いいねぇ。旅ってのは、こうじゃないと」


俺は前を向いたまま、声を低くする。


「さて、長旅の間に聞かせろ。なぜ俺たちを狙った」


フィオレは一拍置いて、口角を上げた。


「そうだねぇ」


フィオレは口を開き始めた。



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