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126 逃走


ガイウスの領域は、空気そのものが重い。

魔力濃度が高く、俺の領域は広げられない。


身の回り、せいぜい数歩。

それ以上は押し潰される。


「……っ」


歯を噛みしめ、狭い領域の中に魔法陣を複数展開する。

一つ、二つ、三つ。指先が震える。


「散れ」


氷の刃が走る。

顔面へ。鎧の継ぎ目へ。関節の隙間へ。


ガイウスは、眉ひとつ動かさない。


「無駄だ」


返す言葉が短い。

そのまま、こちらの間合いに踏み込んでくる。


重い拳が来る。

避けきれず、肩が裂けるように痺れた。


「ぐっ……!」


それでも、止めない。

氷の刃を四方から打ち込む。


ガイウスは攻撃の手を緩めない。

しかし、わずかに動きが鈍った。


鎧の継ぎ目に氷が噛んでいる。

可動域が、ほんの少し落ちる。


「……今だ」


俺は全力で、後ろ向きに走った。

足元に氷を散らし、地面にも刃を打ち込む。

転ばせるためじゃない。追う足を一瞬でも鈍らせるためだ。


ガイウスも追ってくるが、

さっきより、ほんのわずかだが遅い。


それでいい。それで十分だ。


背中越しに、さらに魔術を投げる。

氷の刃。氷の柱。視界を割る霧氷。


「小賢しい!クソガキが!」


ガイウスの声が、少しだけ荒れた。



前方に、カイたちが見えた。

蒼牙隊と白紋連、その他の冒険者たちが固まっている。


俺は走りながら、領域の圧を確認する。

ガイウスが少し後ろに落ちた瞬間、空気がわずかに軽くなった。


広げられる。


「……っ、よし」


領域を一気に押し広げる。

冷気が走り、空間が俺の呼吸に馴染む。


嵐核ドレイクに使った規模で、氷の柱を顕現させた。

進路を塞ぐように、通路の床から打ち上げる。質量と速度だけで叩きつける。


「伏せろ!」


誰かが叫ぶ。

避けられるだろうが構わない。撹乱が目的だ。


さらに、雷撃の魔法陣を織り込んで、タイミングをずらす。

足を止めさせる。追撃の呼吸を乱す。


その隙に、俺はカイの横をすり抜けた。


一瞬だけ視線が合う。

カイの目に、敵意はない。


俺は何も言わず、ただ走った。



通路へ駆け込む。

上の階層へとにかく距離を取る。


しかし、すぐに気づいた。


「……まずい」


道が、分からない。

流されて来た場所だ。地図の感覚が薄い。


シルヴィとクロハも、同じはずだ。

分岐を睨み、呼吸を整える。


ガイウスとの速度差は少ししかない。

すぐに追いつかれる。


分からないままに足を動かす。

迷っている時間はない。


いくつかの分岐を越え、行き止まりにぶつかった。


「くそ……!」


引き返す。別の道へと振り向いた瞬間。


前方から、人影が現れた。

カイだ。


俺は反射で剣に手をかけ、構えた。


「待て」


カイの声は低く響いたが、殺気は感じない。


「こっちが正解のルートだ。来い」


「……信用していいんですか」


「お前たちを本気で捕らえるなら、あの場で捕らえてる」


それだけ言って、踵を返す。

俺は一拍遅れて、ついて行った。


走りながら、カイが言う。


「時間がねぇ。端的に言う」


俺は頷く。喉が乾いて、声が出ない。


「ガイウスは、人間至上主義だ。それ以外は認めてない。全員殺す気だろう」


「リナは……?」


「アカネの連行に抵抗して、連れて行かれた。立場的に俺たちには止められなかった。

 アカネもリナも、冒険者ギルドの地下牢に入れられている」


胸の奥がうねるような感覚が体を包んでいく。

怒りが湧く。だが、今は飲み込む。


「クロハも殺す気ですか?」


「さっきの黒髪の子だな。あいつは魔族と言ってたな。

 魔族に関してはこの国では確かに処分対象だ」


「……」


カイは一瞬だけ黙り、それから続ける。


「アカネに関しては精霊なんだってな。あいつは特殊な目を持っているようで

 それがわかったようだ。顕現した精霊も魔族扱いらしい。

 精霊の顕現なんて聞いたことのない話だが」


「俺が人間じゃないって話はどう思います」


「俺には分からん。奴には何か見えてるのかもしれんが」

カイははっきり言い切る。

「まぁ、お前の成長速度を見たら、人間じゃないと言われても不思議ではないが」


「結構頑張った結果だと思うんですが」


「誰もが頑張ってその域に到達できるなら苦労はしないさ」


俺は訊く。

「ガイウスは追ってきますか?」


カイは、振り返らずに答える。


「そのうちやってくるだろう。今は眠った精霊を目覚めさせてるはずだ」


「黄昏鯨を倒した奴ですか?」


「そうだ、お前の成長は想定外だったみたいだな。

 精霊を起こさずとも捕らえられると思ったようだ」


ニヤニヤしながら話している。


カイが腰の袋から紙を取り出し、俺に投げた。


「こっから先の地図だ。シルヴィにも渡してある」


「お前は逃げろ。この国に残れば、連中の手が届く」


「……カイさん」


「さっさと行け。俺にできるのはここまでだ」


俺は息を吸って、頷く。


「分かりました……ありがとうございます」



俺は地図を握りしめて、走り出した。


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