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111 警報


その後、さらに二日かけて。

無事に何事もなく、王都へ辿り着いた。


「つっかれたねぇ……」

リナが肩を回して、長く息を吐く。


「流石に疲れたな」

俺も同じように息を吐いて、街の喧騒を眺めた。


王都は行き交う人が多く、賑わっている。

それでもこの街並みを見ていると気持ちが少し落ち込む。


教会の魔石盗難。

あの事件の絡みで、二人が死んだ。


あれからどうなったのか。

頭の隅に引っかかるのに、足は教会へ向きたがらない。


「シグリッド司教のところに行く?」

リナが俺の顔を覗き込む。


「いや。やめておこう」

それだけ言うと、リナは何も追及しなかった。

その代わり、ぱんっと手を叩く。


「じゃ、宿! 前のところは高いよね?」

軽い声で、空気を切り替えてくれる。


以前泊まったところはエミルが用意してくれていた。

「あの感じは間違いなく高そうだな」


「だよねぇ。手頃なとこ探そ」

リナは即決だ。


アカネが俺の袖を引っ張った。

「てごろなとこさがそ」


真似っこしているようだ。

思わず苦笑すると、アカネは真顔で頷いた。


「でもその前に、ギルドに行ってみよう」

俺は言った。

「ラツィオの最新の情報を聞きにいこう」



冒険者ギルドの扉を開けると、馴染みのある空気が鼻をくすぐった。


受付に向かい、冒険者証を提示する。


「ご用件は?」


「ラツィオの紅蓮回廊について、情報を聞きたいんですが」


受付の職員は、手元の帳面に目を落としてから顔を上げた。

口調は丁寧だが、どこか慎重だ。


「紅蓮回廊ですね。現在も立ち入り禁止です」


「……魔獣が入口から出てきた、と聞きました」


俺がそう言うと、職員は一度だけ小さく頷いた。


「そのような報告も上がっています。ただ、詳細は……こちらでは把握できていません。

 内部調査が止まっている、という話も聞きますが、それ以上は分かりません」


「内部の魔獣が増えている、ということですか?」

俺が尋ねると、


「可能性は否定できませんが不明です」


「分かりました。ありがとうございます」


礼を言って、受付を離れる。


リナが横から小声で言った。

「……結局よく分からないね」


「そうだな。行ってみるしかないな」

俺は短く頷く。


「悩んでもしょうがないし食べに行こうか」

リナが、わざと明るい声を出す。


「……そうしよう」

俺も頷いた。


せっかくだから、と少しお高めの店に向かった。

エミルに以前連れてきてもらった店だ。


入口の前で、俺はしゃがんでアカネの目を見た。


「アカネ。ここの店では、静かにね」


「わかったっ」

アカネは口に指を当てて、しーのジェスチャーをする。

やけに真剣だ。


「よし。いい子」

俺が頭を撫でると、アカネは嬉しそうに目を細めた。


店内は落ち着いていて、皿の音すら丁寧に響く。

コースの料理が運ばれるたび、アカネの目がきらきらする。


「これ、なに?」

小声。ちゃんと小声。


「魚だな」

俺も小声で答える。

正直なんの魚か分かってない。

突っ込まれなくてよかった。


「おさかな……」

アカネは恐る恐る口に入れて、もぐもぐしてから頷いた。

「おいしい」


リナが、口元を押さえて笑いを噛み殺している。


「……かわいいねぇ」

リナが囁く。


食事を終えて、程よい宿を探したが金貨2枚はかかった。


エミルに用意してもらった宿はもっとよかった。

果たして一泊いくらだったのか。恐ろしい。



翌日、馬車でラツィオへ向かう。


「ひまー」

アカネが座席の端っこで足をぶらぶらする。


「そうだよな……ごめん」

俺は苦笑する。


リナが肩をすくめた。

「話したり外見たりしよ。石畳だし、揺れは少ないよね」


王都から伸びる街道は石畳で、確かに快適だった。

馬車も進む。風景も流れる。


夕方、初日の宿場町に着く。

馬車宿を探すと、ギリギリ最後の空きがあった。


「助かった……」

俺が息を吐くと、


御者が肩を落として笑った。

「なんとか、間に合いましたね」


宿は古くて簡素だ。

寝床は硬いが、屋根と壁があるだけで十分ありがたい。




二日目は、馬車が止まることが増えた。


すれ違えない場所で、前の馬車が詰まっている。

待つ。進む。待つ。進む。


俺は雑談がてら御者に声をかけた。


「今日は馬車、多いですね」


御者が、前方を見ながら答える。

「ええ。こんなに多いのは珍しいです」

「昨日も馬車宿がギリギリでしたしね。今日は……さっと泊まりたいんですけど」


予定よりもかなり遅れて、次の宿場町へ着いた。

だが、御者が戻ってきた時の顔で、察した。


「……すみません。空きがないみたいで」


「……そうですか」


御者は続ける。

「仲間に聞いたんですが、ラツィオに魔獣が出たらしいです。

 動ける人が、早めに出てるみたいで」


心臓が跳ねる。


「強い魔獣ですか?」


御者は首を振った。

「すぐ討伐された、とは聞きました。ただ……警戒が上がってるみたいです」


御者は馬の方を見て、苦い顔をした。

「馬を休ませないといけません。申し訳ないですが、ここで野宿になります」


「野宿っ、野宿っ」

アカネが目を輝かせる。


「お前、喜ぶとこじゃない……」

俺は呆れた声を出しつつも、荷物を開いて布を出した。


「ほら、これ被ってろ」

リナとアカネにかける。


御者は寝る気配がない。

宿場町の中とはいえ、警戒を怠らない。それが仕事なんだろう。


だが、寝不足で働かれても怖い。


「俺が見張ります」

俺は言った。

「少しでも寝てください。寝てくれないと、こっちが不安です」


御者は渋ったが、最後に息を吐いた。

「……ありがとうございます。では少しだけ」


やがて、御者の呼吸が落ち着いていく。


周囲は静かになった。

深夜になると、町の音も消えて、草の擦れる音だけが残る。


俺は薄く領域を広げた。

練習も兼ねて、町の魔力の流れに馴染ませるように同調する。


……まだ完璧じゃない。

でも、今できる範囲でやる。


かなりの時間そうしていたかもしれない。

集中していると、御者が起き出した。


「……交代しましょう。助かりました」

御者が言う。


「……分かりました」

俺は頷いて、交代する。


目を閉じるてしばらくしていると、

リナとアカネがモゾモゾと動き始めた。


朝が来たようだ。




宿場町がざわつき始めた。

馬車が動き出し、歩きの人も多い。


みんな、王都方面に向かっている。

ラツィオ方面へ行く人はいない。



その中でも、空の馬車が何台かラツィオ側へ向かっていくのが見えた。

何の馬車かは、俺には分からなかったが、御者に聞くと

こういう時こそ稼ぎ時って奴でしょう。と商売人の心得を聞いた。


出立して、ラツィオへ向かう。

だが、今度は逆にラツィオから来る人が増えていく。


さすがに、道が詰まり始めた。


「流石に人、多すぎませんか?」

俺が御者に聞く。


御者が眉を寄せる。

「そうですね……」


「聞けますか?」


「ええ。ちょっと聞いてきます」


すれ違いで止まったタイミングで、御者が数人に声をかけに行った。

戻ってきた顔が、少し引き締まっている。


「街から警報が出たそうです」

御者は言った。

「今のところ街に魔獣が出ているわけではなさそうですが、

 紅蓮回廊ないの魔獣も増えているらしくて、早めに警報を出してるそうです」


「……ありがとうございます」



「なるべく……急いでください」

俺は言った。


「もちろんです」

御者は短く返した。


だが、近づくほど進みが遅くなる。

人が多すぎる。



「……走った方が早くない?」

いつものリナの提案だが、今回は同感だ。


「……そうだな」


御者に伝える。

「ここで降ります」


御者は驚いた顔をしたが、すぐ頷いた。

「分かりました。お気をつけて」


「ありがとうございました」

俺は頭を下げ、荷物を整える。


アカネを背負う。

小さい体なのに、背中に感じる重みが妙に現実的だった。


「いくよ」

俺が言うと、


「うん!」

アカネが背中で元気よく返事をした。


リナは軽く跳ねるように並ぶ。

「なんか、こうやって走るの久しぶりだね」


「確かに」

俺も息を整えながら答えた。

「最近、長時間の運動してなかったな」


走り続ける。

しばらくすると木々が減り、畑が増えてきた。


リナが、懐かしそうに笑う。

「いやー、なんだか久しぶりの景色だねぇ」


「……久しぶりだな」

俺は短く返して、前を見た。



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