表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/13

6.

「はい〜、時間でーす!皆さんお疲れ様でした〜」


MCリボーンの声と共に、全員がメインルームに戻された。


「それでは早速、各チームの発表をお聞きしましょう〜!まずはAチーム、朝比奈さんとタカシさんからどうぞ〜」


朝比奈が画面の前に座り直す。


「俺たちが考えたのは『静寂と騒音の死』です」


「おお〜、対照的ですね〜」


「タカシは爆音で死にたい、俺は静かに死にたい。一見正反対だが、共通点がある」


タカシが続ける。


「どっちも『一人で死ぬ』ってことっす」


「そう。騒がしくても、静かでも、結局死ぬ時は孤独だ。だから俺たちは提案する」


朝比奈とタカシが同時に言った。


「『二人同時死』」


MCリボーンが手を叩く。


「面白い〜!具体的にはどんな?」


タカシが身を乗り出す。


「俺がクラブでDJやってる時に、朝比奈さんが客席で寝るんす。で、俺がスピーカーに突っ込む瞬間に、朝比奈さんも爆音で永眠」


「静かに死にたい俺が、最大音量で死ぬ。騒がしく死にたい彼が、俺と一緒に死ぬ。矛盾してるが、それがいい」


「お互いの理想を裏切りながら、お互いを救う死に方...なるほど〜」


ミサキが冷たい声で割り込んだ。


「でも、それって結局『一人じゃ死ねない』ってこと」


朝比奈とタカシが一瞬黙る。


「寂しがりやの共依存。本当に死にたいなら、一人で死ねばいい」


ミサキの言葉に、タカシの表情が曇った。


「そ、そんなことないっす!これは、その...」


「何?言い訳する?」


朝比奈がミサキを睨む。


「君の批判は的外れだ。これは協力課題だった。一人で死ぬ方法を聞かれたわけじゃない」


「でも本音は一人で死ぬのが怖い。だから誰かに頼ろうとする。」


空気が凍りついた。MCリボーンが慌てて割って入る。


「はい〜、ありがとうございました〜!続いてBチーム、カモシダさんとミチルさん、お願いしま〜す!」


Bチームの発表カモシダが重い口を開く。


「俺たちは『矛盾する死』を考えました」


「矛盾する死?」


ミチルが小さな声で説明する。


「生きるための行為で死ぬ、というテーマです」


「具体的には?」


カモシダが続ける。


「俺の硫化水素自殺は、呼吸という生きる行為で死ぬ。ミチルさんの凍死は、体を温めようとする本能が最後は温かさを感じさせて死に至る」


「なるほど〜、哲学的ですね〜」


ミチルが俯きながら言う。


「でも...私たちの共同案は『介護殺人』です」


会場が静まり返った。


「介護...殺人?」


「患者を救おうとする行為が、結果的に死に至らしめる。善意が悪意になる矛盾」


カモシダが重々しく続ける。


「介護する側とされる側、両方が苦しんでる状況で起こる...死」


ミサキの目が鋭くなった。


「それは単なる殺人」


ミチルがビクッと体を震わせる。


「殺人って...そんな...」


「結果的に人を殺してる。動機がどうあれ」


ミチルの声が震え始める。


「で、でも...苦しんでる人を楽にしてあげたいって...」


「それは殺す側の理屈。殺される側はどう思ってるか分からない」


カモシダが割って入る。


「ちょっと、ミサキさん、言いすぎじゃないですか」


「何?図星?だから怒ってる?」


「図星って...」


ミサキが冷たく笑う。


「みんな、本当に『仮想の話』をしてる?何だか妙にリアル」


ミチルの目に涙が浮かんだ。


「私...私は...」


その時、画面にノイズが走った。一瞬、病院の映像のようなものが映る。


「あ...」


カモシダの画面が乱れ、現実の病室が映った。心臓マッサージを受けるカモシダらしき男性の姿。


「やめろ...やめてくれ...」


カモシダが小声で呟く。MCリボーンが慌てる。


「あ、あの〜、技術的な問題が〜」


しかし画面の乱れは止まらない。今度はミチルの画面にも異変が起きた。介護施設の一室。ベッドに横たわる老人と、その傍らに立つミチルらしき女性。女性が老人の首に手をかけようとする映像が一瞬映った。


「やめて!」


ミチルが叫ぶ。


「見せないで!」


「見たくない?本当に?」


ミサキの問いが仮想会議室に響く。オンラインの仮想空間なのに響く。ハウリングを起こしそうなくらいにリバーブがかかる。ミサキは冷たく笑っている。カメラが寄っていく。ズームアップ。アップ。アップ。


「静寂と騒音?二人同時?矛盾?介護?茶番。ただの茶番。本当はどうだった?みんなわかってる。本当は―」


画面上のピクセルが大きくなって行き、フリーズする。

暗転。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ