6.
「はい〜、時間でーす!皆さんお疲れ様でした〜」
MCリボーンの声と共に、全員がメインルームに戻された。
「それでは早速、各チームの発表をお聞きしましょう〜!まずはAチーム、朝比奈さんとタカシさんからどうぞ〜」
朝比奈が画面の前に座り直す。
「俺たちが考えたのは『静寂と騒音の死』です」
「おお〜、対照的ですね〜」
「タカシは爆音で死にたい、俺は静かに死にたい。一見正反対だが、共通点がある」
タカシが続ける。
「どっちも『一人で死ぬ』ってことっす」
「そう。騒がしくても、静かでも、結局死ぬ時は孤独だ。だから俺たちは提案する」
朝比奈とタカシが同時に言った。
「『二人同時死』」
MCリボーンが手を叩く。
「面白い〜!具体的にはどんな?」
タカシが身を乗り出す。
「俺がクラブでDJやってる時に、朝比奈さんが客席で寝るんす。で、俺がスピーカーに突っ込む瞬間に、朝比奈さんも爆音で永眠」
「静かに死にたい俺が、最大音量で死ぬ。騒がしく死にたい彼が、俺と一緒に死ぬ。矛盾してるが、それがいい」
「お互いの理想を裏切りながら、お互いを救う死に方...なるほど〜」
ミサキが冷たい声で割り込んだ。
「でも、それって結局『一人じゃ死ねない』ってこと」
朝比奈とタカシが一瞬黙る。
「寂しがりやの共依存。本当に死にたいなら、一人で死ねばいい」
ミサキの言葉に、タカシの表情が曇った。
「そ、そんなことないっす!これは、その...」
「何?言い訳する?」
朝比奈がミサキを睨む。
「君の批判は的外れだ。これは協力課題だった。一人で死ぬ方法を聞かれたわけじゃない」
「でも本音は一人で死ぬのが怖い。だから誰かに頼ろうとする。」
空気が凍りついた。MCリボーンが慌てて割って入る。
「はい〜、ありがとうございました〜!続いてBチーム、カモシダさんとミチルさん、お願いしま〜す!」
Bチームの発表カモシダが重い口を開く。
「俺たちは『矛盾する死』を考えました」
「矛盾する死?」
ミチルが小さな声で説明する。
「生きるための行為で死ぬ、というテーマです」
「具体的には?」
カモシダが続ける。
「俺の硫化水素自殺は、呼吸という生きる行為で死ぬ。ミチルさんの凍死は、体を温めようとする本能が最後は温かさを感じさせて死に至る」
「なるほど〜、哲学的ですね〜」
ミチルが俯きながら言う。
「でも...私たちの共同案は『介護殺人』です」
会場が静まり返った。
「介護...殺人?」
「患者を救おうとする行為が、結果的に死に至らしめる。善意が悪意になる矛盾」
カモシダが重々しく続ける。
「介護する側とされる側、両方が苦しんでる状況で起こる...死」
ミサキの目が鋭くなった。
「それは単なる殺人」
ミチルがビクッと体を震わせる。
「殺人って...そんな...」
「結果的に人を殺してる。動機がどうあれ」
ミチルの声が震え始める。
「で、でも...苦しんでる人を楽にしてあげたいって...」
「それは殺す側の理屈。殺される側はどう思ってるか分からない」
カモシダが割って入る。
「ちょっと、ミサキさん、言いすぎじゃないですか」
「何?図星?だから怒ってる?」
「図星って...」
ミサキが冷たく笑う。
「みんな、本当に『仮想の話』をしてる?何だか妙にリアル」
ミチルの目に涙が浮かんだ。
「私...私は...」
その時、画面にノイズが走った。一瞬、病院の映像のようなものが映る。
「あ...」
カモシダの画面が乱れ、現実の病室が映った。心臓マッサージを受けるカモシダらしき男性の姿。
「やめろ...やめてくれ...」
カモシダが小声で呟く。MCリボーンが慌てる。
「あ、あの〜、技術的な問題が〜」
しかし画面の乱れは止まらない。今度はミチルの画面にも異変が起きた。介護施設の一室。ベッドに横たわる老人と、その傍らに立つミチルらしき女性。女性が老人の首に手をかけようとする映像が一瞬映った。
「やめて!」
ミチルが叫ぶ。
「見せないで!」
「見たくない?本当に?」
ミサキの問いが仮想会議室に響く。オンラインの仮想空間なのに響く。ハウリングを起こしそうなくらいにリバーブがかかる。ミサキは冷たく笑っている。カメラが寄っていく。ズームアップ。アップ。アップ。
「静寂と騒音?二人同時?矛盾?介護?茶番。ただの茶番。本当はどうだった?みんなわかってる。本当は―」
画面上のピクセルが大きくなって行き、フリーズする。
暗転。




