4.
「はい〜、お疲れ様でした〜!それでは本日3つ目のコーナー、参りましょうか〜」
MCリボーンが相変わらずの合成背景から手を振る。今回は背景に巨大な歯車が回っており、「選考中」という文字が点滅している。
「名づけて──『チームワーク・デス・ワークショップ』〜!」
安っぽいファンファーレが流れ、画面中央に説明文が表示される。
『本日の課題:2〜3名のチームに分かれ、「理想の死に様」を共同制作してください。制限時間:45分。各チーム発表時間:5分以内』
「はい〜、というわけで、Zoomの『ブレイクアウトルーム』機能を使って、皆さんを小グループに分けさせていただきま〜す!」
リボーンがタブレットを操作すると、画面に分割表示が現れる。
ルームA:朝比奈 × タカシ ルーム
B:カモシダ × ミチル
ルームC:ミサキ(単独観察)
「ミサキさんは今回、審査員として各ルームを巡回していただきます〜。共同作業しているうちに、色々疑問点も出るかと思うので、分からないことがあったらその都度ミサキさんに聞いてみてください~!! それでは、各ルームでの作業、スタート〜!!!」
画面が一斉に切り替わった。
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ルームA:朝比奈 × タカシ
「うわ、マジでブレイクアウトルームになった」
タカシの背景が今度は宇宙空間になっている。朝比奈は相変わらず自室のまま、本棚と観葉植物が映っている。
「この機能、会社でも使ったことあるよ」
朝比奈が眼鏡を直しながら言った。
「まさか死後の世界でもZoom使うとは思わなかったけど」
「死後の世界って、マジでそういう認識なんすか?」
「君はどう思ってるんだ?」
タカシが画面越しに肩をすくめる。
「俺は...よくわかんないっす。ただ、リアルでこんな変な会議あるわけないし」
「確かにな」
二人とも少し沈黙した。課題について話さなければならないのは分かっているが、どこから始めていいか分からない。
「あの...朝比奈さんって、なんで死にたくなったんすか?」
タカシの質問は唐突だった。朝比奈は一瞬戸惑ったような表情を見せる。
「君から先に話してくれよ。さっき、彼女にフラれたって言ってたよね」
「あー...それっすね」
タカシが頭を掻く。
「ちょっと恥ずかしいんすけど、俺、本気でDJになろうとしてたんすよ。で、彼女にも『俺の音楽聴いて』って、自作のトラック聴かせたりして」
「どんな反応だった?」
「最初は『いいじゃん』とか言ってくれてたんすよ。でも、だんだん...『また音楽の話?』みたいな感じになって。で、最後に言われたのが『お前は一生、何かになれないまま死ぬタイプ』って」
朝比奈は黙って聞いていた。
「それで、マジでムカついて。『じゃあ俺が死んだら後悔するのか?』って聞いたら、『別に』って言われて...」
「それは...きついな」
「そうっすよね?でも、今思うと、俺も悪かったのかもしれないっす。音楽音楽って、それしか話さなかったし」
タカシの表情が少し沈む。朝比奈は、この若い男の中にある傷を感じ取った。
「でも、好きなことを話したくなるのは自然だろう」
「朝比奈さんは優しいっすね。俺の親とか、『音楽なんて趣味でやってろ』って感じだったんで」
「親に理解されないのも辛いな」
「朝比奈さんはどうなんすか?親とか」
朝比奈が少し考え込む。
「もう何年も話してない。正月に『元気でやってるか』程度のメールが来るくらい」
「あー...距離置いてる感じなんすね」
「というより、話すことがないんだ。俺も向こうも」
タカシが首を傾げる。
「話すことがないって...家族なのに?」
「家族だからって、話すことがあるとは限らないだろう」
朝比奈の声が少し冷たくなった。
「君はまだ若いから分からないかもしれないが、家族だって所詮は他人だ」
「えー、そんなことないでしょう?」
「そうか?君の家族は君のDJを応援してくれるのか?」
タカシが黙った。
「してくれないだろう?それが現実だ。血が繋がってようが、理解し合えない人間はいくらでもいる」
少し重い空気が流れた。タカシが画面の向こうで困ったような顔をしている。
「あの...課題、やらなくていいんすか?」
「ああ、そうだった」
朝比奈が我に返る。
「理想の死に様を二人で作るんだったな」
「どうやって作るんすかね?」
「まず、それぞれの死に様を聞かせてもらおうか」
タカシが身を乗り出す。
「俺のはさっき言ったやつっす。クラブで爆音流して、スピーカーに飛び込んで爆発」
「派手だな」
「でも、朝比奈さんのは『寝てそのまま』だったっすよね?真逆じゃないっすか」
「確かに」
朝比奈が苦笑いする。
「騒がしい死に方と、静かな死に方か」
「どっちがいいんすかね?」
「どちらも一長一短だろう。君のは印象に残るが、俺のは周りに迷惑をかけない」
タカシが考え込む。
「でも、印象に残るって大事じゃないっすか?死んだ後、誰も覚えてないって寂しくないっすか?」
「覚えてもらって何になる?」
「えー?そりゃあ...生きた証っていうか」
朝比奈が首を振る。
「生きた証なんて、生きてる間に作るものじゃないのか?死に方で証明しようとするのは本末転倒だ」
「うーん...でも、朝比奈さんの『寝てそのまま』だと、本当に誰にも気づかれないかもしれないっすよ?」
「それでいい」
「本当っすか?」
タカシの声が少し高くなった。
「俺だったら嫌っすよ。死んでから何日も誰にも発見されないとか」
「なぜ?死んでからのことなんて、自分には関係ないだろう」
「関係ないって...」
タカシが言葉に詰まる。
「でも、やっぱり寂しいじゃないっすか」
朝比奈が少し考えた。この若い男は、まだ「誰かに見てもらいたい」「認めてもらいたい」という欲求が強いのだろう。
「君は、誰かに見てもらえないと不安なのか?」
「不安っていうか...」
タカシが画面の向こうで手をもじもじさせる。
「やっぱり、一人は嫌っすよ」
「でも、死ぬ時は結局一人だ」
「そうかもしれないっすけど...」
その時、画面の右上に小さくミサキの顔が表示された。『観察中』という文字と共に、彼女がこのルームを監視していることが分かる。
「あ、審査員が見てるっすね」
タカシが手を振る。ミサキは無表情のまま、画面越しに二人を見つめている。その視線が、なぜか朝比奈には冷たく感じられた。




