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12.

朝比奈が再びマイクをオンにする。表情はいささか硬いが、目には確信があった。


「編集者は決めました。もう人の人生は編集しないと。しかし、そんな編集者の前に、5人の仲間が現れました」


朝比奈が他の参加者たちを見る。


「一人目は、音楽で人を救いたい青年でした」


タカシが驚く。


「二人目は、家族を愛したかった男でした」


カモシダも目を見開く。


「三人目は、人を助けたかった女性でした」


ミチルが涙ぐむ。


「四人目は、罪を背負いながらも人を救いたい女性でした」


ミサキも胸を押さえる。


「そして五人目は、物語を通じて人と繋がりたい編集者でした」


朝比奈が自分を指す。


「5人はそれぞれ最初は、お互いのことを好きになれませんでした。それはそうです。ただたまたま、同じ時間、同じ場所に居合わせた他人だから、好きになれる方がおかしかったのです。それでも同じ時間と場所を共有しながら過ごすうちに、信頼関係が出来てきて、何となく5人はチームとしてまとまり始めます。時に笑い、時に泣き、悲しいことや辛いことを乗り越える度に絆を強くしていきました。」


朝比奈はそこまで一息で話し、息を吸う。


「5人は気づきました。人生は編集するものではなく、一緒に作るものだと。完璧でなくても、間違いがあっても、苦しいことがあっても、それが本当の人生だと」


朝比奈の声に力が入ってくる。


「編集者は死神に言いました。『もう君の力はいらない』すると死神は怒りました。


『それでは君たちを永遠に苦しめてやる』編集者は笑いました。『苦しみも含めて、俺たちの人生だ』そして5人は手を繋ぎました」


朝比奈の画面の背景が代わり、5人が輪になって手を繋ぐ様子が映る。


「死神は消えました。なぜなら、死神の力は孤独から生まれるものでしたが、5人には絆があったから。もう死神の力なんて必要なかったのです。それから5人は一緒に旅をして命のろうそくの洞窟にたどり着きました」


また背景が変わる。ろうそくの火で明るい洞窟へと、5人が足を踏み入れていく。


「そこには無数のろうそくが燃えており、それぞれが人の命でした。編集者は気づきました。死神が最後に灯そうとするのは、死神自身のろうそくだということに。なぜなら、死神もまた、孤独に苦しむ一つの魂だったから」


朝比奈は間をとった。


「5人は決めました。死神のろうそくを、みんなで一緒に灯してあげようと。5人が来て思わず物陰に隠れた死神は、それを知り涙を流しました。初めて、誰かに理解してもらえたような気がしたから『俺が悪かった』そして死神も仲間になりました」


間。


「6人は洞窟を出て、新しい世界で新しい物語を始めました。誰も一人ぼっちではありません。みんなで支え合って生きていきます。完璧な人生ではないけれど、一緒にいれば大丈夫。困った時は助け合い、悲しい時は慰め合い、楽しい時は一緒に笑い合います」


朝比奈は咳払いをした。


「これが俺たちの『死神』です。死神を倒すのではなく、死神を仲間にする物語です。終わります。」


朝比奈が語り終えると、参加者たちから自然に拍手が起こった。MCリボーンも、複雑な表情で聞いていた。しかし、システム管理者の反応は予想外だった。


『...何ですか、この話は』


システム管理者の声が、急に冷たくなった。


『あまりにもご都合主義で、現実味がない』


朝比奈が戸惑いながら聞き返した。


「ご都合主義...ですか?」


『そうです。現実はそんなに甘くありません』


システム管理者の声に、明らかに怒りが含まれている。


『みんなで手を繋げば問題解決?死神が仲間になる?そんなおとぎ話が現実にあると思っているんですか?』


「でも...」


『現実は孤独です。苦しみです。絶望です。それを綺麗事でごまかそうとするなんて、偽善の極みです』


システム管理者の怒りがエスカレートしている。


『このような毒にも薬にもならない、つまらない物語を聞かされて、私は非常に不愉快です。こんなご都合主義的な展開で人が救われるなら、誰も苦しみません!現実を知らない理想主義者の戯言です』


システム管理者の怒りは収まらない。


『あまりにもつまらない!あまりにも非現実的!こんな物語で感動できると思っているんですか?』


その激怒ぶりを見ていた朝比奈が指摘する。


「あの...システム管理者さん」


『何ですか!』


「今、相当お怒りですよね?」


『当然です!こんな駄作を聞かされて……ある意味、古典落語への冒涜です!!』


「つまり、俺の物語は貴方の感情を大きく揺さぶったということですね」


『は……?』


「勝利条件は『喜怒哀楽のいずれかで感情を揺さぶること』でしたよね?」


『...』


「貴方は今、明らかに『怒り』の感情を示している」


朝比奈が微笑む。


「しかも、さっきのリボーンの『Zoom落語』の時より、明らかにずっとずっと激しい」


システム管理者は沈黙している。


「ということは、俺の勝利ですね」


長い沈黙の後、システム管理者が小さくつぶやいた。


『.……参りました』


リボーンが唖然としている。


「え...マジで?そんなのアリ?」


『朝比奈さんの勝利です』


タカシが飛び上がる。


「やったー!朝比奈さん、やりましたね!」


カモシダも拍手する。


「すげぇ..逆転だ」


ミチルも涙を流しながら喜んでいる。その横の画面でミサキは複雑な表情で見つめている。


「俺の……負け?」


MCリボーンは完全に呆然としていた。


「そんな…まさか…」


朝比奈がリボーンを見つめて言った。


「悪いな。俺の勝ちだ。」


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