トイレの花子さん誕生!
私の大好きな怪異の話です。もし花子さんにうまれかわったら…そんな想像で書きました。
私が最後に見た景色は病院の白い天井だった。真っ白な天井と隣に座る両親や医者に見送られ、私は息を引き取った。
「は?」
次に目を覚ました時は両足が地面についていなかった。ぷかぷか宙に浮かんでいたのだ。
死んで幽霊になったのだから当たり前かもしれないが、私が伸ばしていた髪も短くなりおかっぱ。
服も真っ赤なスカートである。
何より今いる場所は
「なんでトイレ?」
なんだか嫌な予感がしてトイレにあった鏡を恐る恐る覗いてみると…
「花子さんじゃん!」
そう、簡単に言えば私はトイレの花子さんに転生したのだ。
「うぅ〜どうせ生まれ変わるなら人間が良かった。花子さんとか恐怖の象徴じゃん」
ため息を吐いても、もう花子さんであることに変わりはない。花子さんに生まれ変わらせた神様を恨みつつ仕方がないと諦める。
「あーあ、最悪」
投げやりに始まった私の花子さんの人生は幕を開けた。
「花子さん本当につまんない!」
花子さんが居る場所と言えば学校。もちろん私も学校の女子トイレに住み着いているが、学校の端っこのトイレなだけあってほとんど誰も来ないのである。
面白半分で来た人を脅かしてみたが、誰一人として私の存在に気づかずトイレを出て行った。
暇すぎて学校でも探検しようかと思ったが、見えない何かに阻まれてトイレから出る事はできなかった。
ただ、例外として夜の12:00〜12:59分の間は学校の中に限ってトイレから出ることができた。だが1時になると強制的にトイレに飛ばされた。理不尽な事上ないと、憤慨していたが何度やってもダメだったため、諦めた。その1時間での収穫はここが小学校だとわかったくらいだ。
花子さんになって早一週間。
トイレでは暇つぶしになるような物は何一つない。しかも喋り相手も1人も居ない。
花子さんライフ早々に萎えはじめている。
そもそも七不思議と言われている花子さんは、いつも何をして過ごしていたんだろう。噂通り呼び出されないと出て来られないのなら女子トイレをウロウロしている今の私よりも更に暇だったのだろう。
今私が「遊びましょう」と言われたらきっと飛んで跳ねて出ていくだろう。花子さんも頑張っていたんだと同調的な気持ちになりつつ、知りたくなかった花子さんの闇を知ってしまった気分で、いつも通り12時の探索(私が勝手に名前をつけただけ)に出かける。
ちなみにこの時間に、教室にあるの本や紙などをトイレに持ち込んで置いて暇を潰そうと考えた事もあったが、私がトイレに飛ばされる原理と同じなのか、何故か1時になると元の教室に戻ってしまうという不思議な現象を発見した。発見して悲しくなっただけだったが…
「んー何処へ行こっかなー」
トイレ以外の場所へ出られたら不思議とテンションが上がる。誰だってトイレに一日中居るのは嫌なはずだ。たとえ花子さんでも…
真っ赤なスカートにおかっぱ頭を揺らしながら、私は校舎の端っこの教室に入る。それなりに大きな小学校らしく、私が入る教室は今の所毎日違う。今日は音楽室らしい。ギターにピアノ、よくわからない楽器までが置かれている。教室の壁に貼られたベートーヴェンなどの写真?は怖いのはお約束だ。適当な楽器を弾いて楽しんでいたその時に事件は起きたのだった。
ギョロリ
最初は気のせいかと思った。
ギョロリ
見られている気がする。気持ち悪いのでそのまま音楽室を出て行こうとした時、私の後ろに一つの影ができた。
「えっ?」
「こんな真夜中に奇遇じゃな。新入りの怪異かえ?」
ベートーヴェンだった。壁に貼られているはずのベートーヴェンが何故か実体化して私の後ろに立っている。
「いやァァァァァァ」
理解が追いついた途端絶叫を残し、私は音楽室を超特急で出て行った。
行き先はもちろんトイレである。
ぜぇはぁぜぇはぁ
息を切らしながらトイレへ駆け込んだ私は、足が無くても全力疾走は疲れるんだという無意味な事を知ったと同時にベートーヴェンが動いたという事実がそこまで驚く事ではないことに今更気づいた。
だって私、花子さんだし別にこの学校に他にも怪異が居たっておかしくはない。
人間だった頃の恐怖もあり、逃げ出してしまったが貴重な話し相手になったかも知れないと考えると惜しい事をした。
時計を見るともう1時になりそうだから今日の所は諦めるとして、また明日音楽室に行ってみようと決意した。
長い長い長い長い1日を終えて、やっとやって来た12時。
廊下を進み、音楽室に向かう。
ギィ
「失礼しまーす。ベートーヴェンさん、いらっしゃいますか?」
居ると思いながら声をかけるのはそこまで怖くない。じっと壁の絵を見つめていると…
「なんだ、昨日逃げてった花子ではないか」
絵の中からベートーヴェンが出て来た。
「その…昨日は逃げてしまってすいません。初めてだったんです。自分以外のお化けを見るのが」
とって食われるような事はないと思いたいが、初対面の印象はあまり良くないので礼儀正しく見えるように敬語で話す。
「おぉーそうかそうか花子は初めてだったのか。そりゃビビって逃げ出すわな。ともかく初めましてじゃな。わしは見ての通りベートーヴェン。なんとでも呼んでくれ。お主は花子じゃろ?」
思ったより優しそうなおじいちゃんのイメージで安心しつつ、一応礼儀正しく名乗り返す。
「はじめまして、トイレの花子さんです。この学校の女子トイレに住んでいます。これからよろしくお願いします」
「おぉ、小さいのに立派じゃのぅ。この素直さ、人魚にも見習ってほしいわい」
「えっ?人魚が居るんですか!!」
人魚といえば小さい時に海に行けば一度は探す、小さな女の子達の憧れのプリンセスだ。もちろん私にも人魚姫になりたいと思っていた時期があった。そんな事もあって思わず聞き返してしまった。
「花子はプールにはまだ行っていないのか?夜中にあそこでバタバタ泳いでるぞい」
「えー会ってみたいなぁ」
「また明日にでも行ってみると良い。だが今夜は、年寄りの話に付き合っておくれ」
それからおじいちゃんと孫娘のような会話をした。ベートーヴェンの話は面白かったし、私はいつも暇をしている事や喋り相手が欲しい事を話すと、いつでもしゃべりに来ても良いと言ってくれた。
その夜は私はベートーヴェンの事をベートーヴェンのおじいちゃんと呼ぶようになるくらい親しくなった。
楽しい夜だったが、私だけじゃ無くみんないつも暇してるんじゃないかと疑いたくなった。
次の日は校舎の外から出てプールに向かった。
ベートーヴェンのおじいちゃんが言っていた事が本当なら、人魚はプールを泳いでいるらしい。相手が人魚という事もあり、実は結構楽しみにしている。
バシャバシャバシャバシャ
プールに近づくと明らかに誰かが泳いでいるような音がする。
プールサイドに入り、水の中をよく見てみると上半身は綺麗な桃色の髪を長く伸ばした女の人。下半身は綺麗な鱗という古典的な人魚が泳いでいた。
「わぁ」
思わず声を上げると、人魚は私に気づいたらしく近寄って来た。
「ふーん何となく気配はしてたけどやっぱり増えたのね。その見た目からしてトイレの花子さん。正解でしょ」
近くで見るとやっぱり美人だなぁと思いつつも返事を返す。
「はい、トイレの花子さんです。ベートーヴェンのおじいちゃんから人魚さんが居るって聞いて来てみました」
「おじいちゃんにはもう会ったのね。まぁあの人のことだからあっちから声はかけたんだと思うけど。まぁ改めて私は人魚。人魚姫よ、よろしく花子さん…はよそよそしいわね。花と呼ぶわ、よろしく」
「よろしくお願いします」
「ねぇ花、私ずっと妹が欲しかったの!良かったらお姉ちゃんって呼んでくれない?」
顔から火が出るとはこの事なのか。私の顔は真っ赤っかだと思う。人魚姫をお姉ちゃんと呼んで良いのか
「おっお姉ちゃん、よろしくね」
真っ赤っかな顔で私はそう言った。し
「花が来てくれて良かったわ…この学校には私とおじいちゃんしか、怪異はいなかったのよ。おじいちゃんも良い人なんだけどよく対立しちゃうなのよね。それにたくさん居る方が楽しいし」
「お姉ちゃんとベートーヴェンのおじいちゃん以外、誰もいなかったんですか!?」
こういうのは七不思議があるのがお約束みたいに思っていたけど案外そうではないのかもしれない。
そして対立の部分は深く聞かないことに決めた。ベートーヴェンのおじいちゃんから聞いた話からしても、そこまで仲が良い訳ではないはずだ。
「そうなのよ、おじいちゃんだけだと暇で暇で仕方なかったの…プールなんか夏以外使わないから、誰も来ないし」
この人暇って言ったよ暇って!やっぱりみんな暇してるじゃんと心の中で思いながら、プールという最悪な場所に住んでいるお姉ちゃんに深く同情した。
トイレは、端っこだけど何人かは来てくれる。音楽室も音楽の授業でもちろん使う。
「だから花に時々来てもらって話し相手になって欲しいわ。ヒレだと陸地を上手く歩けないの」
「分かったよ、お姉ちゃん!」
こうして私はこの学園でおじいちゃんとお姉ちゃんという家族ができた。