『忘却の都市』都市オブリビオン
数日後、ついに目的の場所に辿り着いた。
「……すっげぇ。」
思わず声が漏れる。
目の前に広がるのは、想像を遥かに超えた光景だった。
都市の外周をぐるりと囲む、白く巨大な壁。
まるで要塞のように無機質で、どこまでも高く、どこまでも滑らか。
その中心には、空を突くような塔がそびえていた。
都市の心臓——そう呼ぶにふさわしい存在感だった。
だが、何より目を引いたのは、都市の入り口に設けられた巨大なゲート。
住民の出入りを厳しく制限する、都市の“境界線”。
ここを通らなければ、都市には入れない。
そして、ここを通れるのは、あらかじめ許可された者だけ。
ゲートの内部では、遺伝子レベルでの本人確認が行われるという。
「……本当に、来たんだな。」
胸の奥がじんわりと熱くなる。 あの家を出て、ここまで来た。
もう、引き返す理由なんてない。
俺は深呼吸をひとつして、ゲートへと足を踏み入れた。
「認証開始——」
ゲートの中に入った瞬間、背後の扉が静かに閉まる。
淡い光が全身を包み、何かが体の奥深くまで読み取られていくような感覚があった。
数秒後——
「……認証完了。住民番号100157、早川悠人様。確認取れました。 ようこそ、都市オブリビオンへ。 我々は、あなたを歓迎します。」
どこからともなく、女性のような柔らかな機械音声が響く。 同時に、正面の扉が静かに開いた。
「……すげぇ。」
さっきも同じことを言ったような気がするが、本当にそんな言葉しか思い浮かんでこない。
扉の向こうに広がっていたのは、まさに俺が夢見ていた光景だった。
空気が違う。 澄んでいて、どこか甘いような、冷たいような。
都市全体が、まるで呼吸しているみたいだった。
整然と並ぶ建物は、どれも白を基調にした美しいデザインで、まるで芸術作品のよう。
道路は広く、清潔で、無駄がない。 人々は静かに、しかし迷いなく歩いている。
その姿すら、都市の一部のように見えた。
都市名:『オブリビオン』
人口約十万人の都市。
都市内部の気温は常に快適な温度に保たれ、清掃は全自動の清掃ロボが24時間徘徊、仕事においても住民にとって最も適切でストレスの少ない職業を選んでくれる、などなど、都市住民の満足度ランキングは常に1位。
派手さこそないが、完璧に整えられた“理想”の都市。
俺は拳を握りしめた。
「……間違ってなかった。」
ここなら、やり直せる。 ここなら、俺の理想が叶えられる。
そう、心の中で強く誓った。
——この都市で、俺は変わる。