『忘却の都市』真実の入り口
その後、目の前でしばらく、二人の女性が言葉を交わした。
後半の内容はよく分からなかったが、どうやら何かの確認をしていたらしい。
そして、なぜか——
長身の女性は俺にひとこと告げた後、そのまま部屋を出ていき、俺と最初に出会った女性だけが残された。
……いやいやいや。 さすがに意味が分からない。
俺の思考は、もはや考えることを放棄しかけていた。
たぶん、さっきの長身美女はこの施設の責任者的な立場なんだろう。
彼女が何かの確認に出ていくのは分かる。
でも、なぜ俺とこの女性を二人きりにする?
俺はただの“迷い込んだ外部の人間”だぞ?
警戒されるならまだしも、放置されるってどういうことだ。
脳をフル回転させて考える。
罠? 監視? それとも、何かのテスト?
……いや、俺一人にそんな手間かける意味、あるか?
そんな堂々巡りをしていると、目の前の女性がふいに口を開いた。
「ええと……早川悠人さん、でしたっけ?」
声をかけられた瞬間、思考が一瞬飛んだ。
慌てて言葉を探し、しどろもどろになりながらなんとか返答する。
「は、はい。そうです……」
我ながら情けないが、この都市は俺の弱点を容赦なく突いてくる。
会話はぎこちなく始まったが、俺の不注意により、思いがけず共通の話題が見つかった。
——霧崎凛。
彼女は、俺と霧崎が都市で住民登録をしたことを知っていた。
なぜ知っているのかは教えてくれなかったが、どうやらこの施設の職員たちは、都市の住民の様子を“観測”しているらしい。
「警備隊に興味があるんです。何か知っていることがあれば教えてくれないですか?」
彼女はそう言って、霧崎のことをもっと知りたがった。
俺も、警備隊には憧れがあったし、霧崎や夏希さんのことも知っていたから、話せる範囲でいろいろと話した。
もちろん、重要なことには触れないように気をつけながら。
彼女は、驚いたり、感心したり、時には黙り込んで考え込んだりしながら、俺の話を真剣に聞いてくれた。
特に、霧崎や夏希さんの“人となり”を話したときは、彼女の表情が明らかに変わった。
「……そんな人たちなんですね。私の想像とは、少し違いました。」
その言葉が、なぜか印象に残った。
会話が少しずつ自然になってきた頃—— 突然、ノックの音が響いた。
俺は、さっきの長身の女性が戻ってきたのかと思い、椅子に座ったままぼんやりと扉を見ていた。
だが——
扉が開いた瞬間、目の前の女性が何者かに拘束された。
「えっ……!?」
思わず立ち上がる。何が起きたのか分からない。
目の前の光景が、現実とは思えなかった。
そして—— 扉の向こうから現れたのは、信じられない人物だった。
「……夏希さん……?」
そこに立っていたのは、確かに夏希さんだった。
地下施設にいたはずの彼女が、なぜここに?
しかも、彼女の表情は、いつもの柔らかさとは違っていた。
鋭く、冷たく、何かを必死で訴えるような目。
俺は、言葉を失った。
……とまあ、そんな感じで、俺は気づけばとんでもない場所に足を踏み入れていたわけで。
ここから先の話は—— そう、本編『忘却の都市』で語られる物語の中へと、すべてが繋がっていく。