『忘却の都市』出発の朝
こちらは、『忘却の都市』のサイドストーリーです。
早川悠人の目線で作っていきます(^^♪
最初の2~3話は都市のイメージを補完する感じですが、以降はネタバレになってしまう可能性がありますのでもし宜しければ本編を先に見て頂く事をオススメ致します。
本編はこちら:https://ncode.syosetu.com/n5463kr/
「いよっしゃー!」
狭い部屋に俺の声が響いた。
ドカドカと音を立てながら、家の中を小走りで駆け回る。
テンションが抑えきれない。まるで、体の中から何かが爆発しそうだった。
「おい、聞いてくれよ!ついに……ついに俺の時代が来た!」
リビングにいた父と母が、ぽかんとした顔でこっちを見ている。
その反応すらも、今の俺には心地いい。
「そう!今、人気沸騰中のあの都市——『オブリビオン』に移住できることになったんだ!」
「オブリ……なんだって?」
母が首をかしげる。
「オブリビオン!世界有数の都市で、最先端の技術、便利で整った街並み、犯罪は年間を通してもほぼゼロっていう、まさに理想の都市!今、大人気なんだよ!」
少し間を置いて、俺は続けた。
「……ちなみに、オブリビオンって“忘却”って意味らしいんだ。 なんかさ、過去の失敗とか、嫌なこととか、そういうの全部忘れて、一からやり直せる気がして……俺には、ちょうどいい場所だと思ったんだ。」
何度も応募して、ようやく当選した。俺は、あの都市に行ける。
この瞬間を、どれだけ待ち望んだことか。
部屋の中をくるくる回りながら、まるでダンスでも踊り出しそうな勢いだった。
そのとき、父の低い声が空気を切った。
「お前……そんなところに行ってどうするつもりだ。また、逃げ出す気か?」
足が止まる。 胸の奥に、冷たいものが落ちた。
「お前にはしっかりと教育を受けさせて、就職先も用意してやったのに……どの職場でも1ヶ月も続かないとはな。」
「それは……ごめん。でも俺は、自分のやりたいことが——」
「黙れ。」
父の声が鋭く刺さる。
「ひと月も仕事が続かないようなやつに、やりたいことを語る資格はない。どうせ今回も、ただの思いつきだろう。」
その言葉に、頭がカッと熱くなる。
「いつもそうだ……親父は、俺の話なんて聞こうとしない!」
「俺は……俺自身の意志で、この家を出る!」
怒鳴るように言い放ち、そのまま部屋を飛び出した。
背後で母が俺を呼び止める気配があったが、父はふんぞり返ったまま、微動だにしなかった。
自室に戻り、ドアを閉める。
壁にもたれかかりながら、深く息を吐いた。
「……なんだよ、本当に。」
せっかく、自分の意思で動こうとしたのに。 ようやく、自分の足で立とうとしたのに。
「でも……今回は、絶対に逃げない。」
拳を握る。
「俺自身が決めたことだから。」
——俺は、この都市で変わるんだ。
——翌朝。
玄関先で、母が少し寂しそうに笑った。
「じゃあ……気をつけてね。困ったら、いつでも帰ってきていいから。」
「ありがとう、母さん。でも……しばらく戻ってこないと思うよ。じゃあ……二人とも元気でな。」
その言葉を最後に、俺は玄関の戸を開けた。
結局、親父とはあの後、一言も話さなかった。 けれど、不思議と後悔はしていない。
必ず、あの父親を見返すくらい立派になって帰ってくる。
それが、今の俺のすべてだった。
俺はその決意を胸に、新たな新天地へと旅立った。