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異世界、貴女と笑顔でさよならを  作者: 焼魚
2章:アルガヨ解放
9/27

9話:功力

表裏一体。

この言葉を扱うにあたって、人間という存在を挙げようと思う。


ただ、人間の表面上に現れる事物ではなく、内面に現れる事物に関して。

その代表例として、性格というものがある。


他人に見せる表の顔──性格は陽気で、誰にでも明るく接する。

しかし、裏ではただひたすらに暗く、サバサバとしている。


この二つのものが、深く結びつき、切っても切り離せない関係となっている。それがご存知、表裏一体という状態だ。


革命家だって一人間である以上、性格は二種類存在している。

ただそれは、公に見せる姿とそれ以外の姿。


公では公衆に協力的な姿を見せているが、裏では転生者で人身売買を行うような連中だ。


私は、そんな転生者に両親を殺された。


    **


「アケバナ・アイ……全国指名手配者、か」


『革命家殺し』は全国で重罪。

リオンを殺害したアイは、翌日、即座に全国で指名手配された。


異世界には、この世界に転生した瞬間にその者の顔が瞬時に撮影されるという技術が存在する。

革命家が主となって開発されたものだ。


目的は勿論、転生者を捕らえるため。


その技術によって撮影された写真がアイの指名手配書に張り出され、全国に急激に拡散された。


そんな顔つきの指名手配書を、こぢんまりとした部屋でどことなく眺める一人の男。

彼の名は「ジョウ・ラノン」。異世界革命家の人間だ。


「歳は二十歳前後、冒険者、能力は不明、協力者はおらず」


ジョウはある程度読み込んだ後、その紙を丸めて捨てた。

それが本日の午後三時頃のこと。


何故彼がこのタイミングでアイの指名手配書を読み込んでいたかというと、本日の午前十時頃、この国「アルガヨ」にアイらしき人物がやって来たという(しら)せがあったためだ。


彼女が国を出たという報せは未だ無い。つまり、現在もこの国にいるということ。


国の代表者的立場にいるジョウは、アイの処分についてを考えていた。


考えた末、結論は出る。

アイの首に賞金二百万を施す。

それを国民全体に告げたのが、つい先程のこと。


ジョウは部屋の窓から空を眺めながら、アイが捕えられるのを待つのであった。


    **


「よぉ! 腰抜け!」

「う……うるさいっ!」


アルガヨ国内。

正面から貶され、食い気味に怒りの言葉を放つ少女。


彼女の名は「ユキ」。

アルガヨ国民の、少女である。


アルガヨは革命家のジョウともう一人の「ディーチ」という男によって統治されている。

そのためか、国内部の地域ごとによって、貧富の差が生じてしまった。それが今のアルガヨの課題だ。


ユキは国内の貧困層に含まれる地域「ウリス」で、日々を暮らしている。

彼女が腰抜けと呼ばれている理由は、彼女自身の性格が理由である。


何をするにも腰が引けていて、尚且つ臆病。

ユキ自身もそれを自覚していたため、周囲の友人たちからの貶しに反発することができないでいた。


そんな彼女が暮らすウリスでの生活は目まぐるしいものだった。水は汚染されていて、人一人が得られる分の食料は極めて少ない。

そして暮らしの貧しさに反して住人は極めて多いため、治安はそこそこ悪い。


窃盗や暴行は日常茶飯事であるし、能力による戦闘も多々ある。

ユキは人との戦闘を行ったことはないものの、日頃から自分なりに修行を積んでいた。


故にオーラの探知範囲は革命家並みに広い。

そんな彼女がウリスにて、歩きながら感じ取った、自分が知るどの系統にも当てはまらないオーラ。


「何……? このオーラは……」


不思議に思った彼女は、恐る恐る、そのオーラの元へと移動してみることにした。

距離は比較的近い。徒歩にて二分にも満たないだろう。


彼女が歩いていった先には────

「にゃああ~」


不揃いな毛並みの黒猫がいた。ユキに対し、甘い声を出す猫。

彼女は猫の視線に合わせるようにして、しゃがんだ。


猫の瞳を見つめながら、ユキは声を出す。

「君、一人?」


そう言いながらも、ユキは確かに感じ取っていた。

目の前にいる猫の不可解なオーラを。


とは言えども、人以外にオーラは存在しない。そのために、この状況は異常なのである。

そのことを理解していながらも、ユキは猫を撫でていた。


とその時、背後に感じる不気味な気配。

ユキが慌てて振り返るとそこには────


「君、強いね」


一人の、顔を隠すようにして外套を頭から被る女が立っていた。


「貴方……誰ですか?」


ユキはそう尋ねると同時、右足を半歩ほど後方へと下げ、逃げの態勢を取った。

今目の前にいる人物からは、オーラを一切感じ取ることができない。

つまり、オーラを隠している臨戦態勢であるということ。


逃げの姿勢を取るのが自然な行動である。決して臆病から成る行動ではない。


訊かれた女は少しだけ微笑んで、自身の名を告げた。

「私は“ユウリ”。外国から来た冒険者だよ」


ユウリは続けて言う。

「怖がらなくていい。オーラを制限しているのは、君と戦うためなんかじゃないから」


「じゃあどうして……?」


恐る恐る訪ねたユキに対して、静かな口調で言う女。

「私は、この国を支配する“革命家を倒すため”にやって来た。だから彼らに探知されないためにオーラは常に消しているんだ」


革命家を倒すため。

その言葉に、ユキは下げていた右足を逆に一歩踏み出した。


彼女は今まで死んでいた感情が湧き出したかのようにして、希望に満ち溢れた視線で女を見上げた。

「それ、本当ですか……!?」


思っていた反応とは異なるものを示したがために女は「う、うん」と、言葉に詰まるようにして頷いた。

すると、ユキはその場で彼女に頭を下げた。


「お願いします! 私を仲間にしてください!」

「へ……?」


驚き、胴体を後方へと反らした拍子に女の外套がほんの少しずれる。

そして、彼女の顔がユキの視線へと飛び込む。


女の正体は、現在指名手配されているアケバナ・アイであった。


    **


「どうぞどうぞ」

「お邪魔しま〜す……」


立ち話もなんだからと、ユキの自宅に招待されたアイことユウリ。

彼女はユキの家の内装を見渡す。


殺風景という言葉が良く似合うその内装は、一人の少女が家族と共に暮らしているようには思えなかった。


ユキに先導され、室内にあった椅子へと座るアイ。

座る過程で彼女は飲み物を用意してくれているユキへと尋ねた。


「ユキは一人で暮らしてるの?」


その問いかけに対し、急須で茶碗にお湯を注ぎながら、ユキは返答した。

「ええ。両親は私が幼い頃に亡くなりましたから」


言葉を正面から受け止め、同情や哀れみなんかよりも先に、疑問を抱いたアイ。

何故ユキの両親は亡くなったのだろうか。


その疑問と、先のユキの不可解な行動────革命家殺しに加担しようと願い出たこととがアイの脳裏で結びついた。


「……もしかしてそれ、革命家が関係してる?」


アイの正確な推理に、ユキは目を見開いた。

「……! よくわかりましたね」


隠す必要性を感じなかったがために、アイは自身の推理をユキへと聞かせた。

ユキによってテーブルへと置かれたお茶を時々啜りながら。


「社会的に見たこの世界の表面、革命家は常世の住人にとって、世界をより良い方向へと導こうと試みている善人。だけどそれは一面的で偏った人々の思想から生じた誤認。とは言えども、彼らが偽善者だと知っているのは、転生者を筆頭としたごく一部の人間。故に、君みたいな子どもが知っている筈が無いんだ」


アイのその話を、ユキはどこか心を弾ませながら聞いていた。


「だけども君は革命家殺しに加担したいと私へと願い出た。それはつまり革命家に対する明確な恨みがあるということ。両親が革命家に殺された、そう見るのが一番妥当かなって思っただけのことだよ」


全てを聞き終えたうえで、ユキは深く感銘を受けていた。


まさに、彼女こそが自分の欲していた人物。

彼女の瞳には、アイこそが本物の革命家のように映っていた。


だからこそ、彼女は自己の全てを彼女に包み隠さずに曝け出すことにした。

「ユウリさん。私の話を聞いてくれますか?」


唐突に投げかけられたその問いに、アイは首を傾げながらも、頷いた。


    **


ユキの両親は、どちらも転生者であった。

転生者同士、同様の苦労を経験して来たために惹かれ合い、結婚に至った。


やがてユキを授かり、幸せな家庭を築き上げた。


だが、いつまでも続くと思っていたそんな日常は、やがて革命家によって壊されてしまうことに。

理由は明確ではないが、彼女の両親が転生者だという情報が革命家へと流れ込んだのだ。


間もなくしてユキの両親は彼女の目の前で革命家によって殺されてしまった。


目の前で両親を殺されながらも、何をすることもできなかった自分自身に憤りを抱き、尚且つ自分が臆病でいざという時は何もできない人間なのだと、ユキは自覚した。


だからこそ臆病者と周りから称されても、何も言い返せずにいた。


    **


「両親が殺されてからは、能力の開発に勤しみました」


アイは開発という言葉に疑問を抱き、尋ねた。

「具体的に、開発って言うのは?」


すると彼女が一言。

「そうですね……私は至速しそくの応用から始めました」


「至速の応用?」


「ええ。至速で能力のイメージを補強することで、具現化を更に具現化する感じです」


補足されたとて、アイにその言葉と行動の意味を理解することはできなかった。

「具現化を具現化? 一体どういうこと?」


ユキは少し迷ったような素振りを見せた後、アイに対して言う。

「……それじゃあ少しお見せしますね」


瞬間、アイはエリナに初めて能力を見せてもらった時のような懐かしさに包まれた。

その懐かしさに耽るいとまも無くして、ユキはテーブルに手のひらを向けた。


「行きますよ」


アイは、彼女が包み隠さないがために、ユキのオーラの系統を知っていた。雷である。


彼女のオーラが手のひらへと瞬時に集中し、その表面から紫電が糸状になって放出された。

やがてその紫電は何かの形へと見る見る内に変貌していった。


その形を形容するならば、そう。

テーブルを十に分割した時、その一にも満たない微々たる大きさの「狼」だ。


まじまじと見ているアイに、ユキは説明し始めた。

「まず初めに、雷という存在を具現化します。そしてその雷を、至速でイメージの補強を行いながら、狼という存在を具現化し、模倣する。これが能力と至速の応用『功力くりき』です」


“功力”。一人の少女のその言葉に、アイは能力の新たな可能性を見出す。


時代は変わり続ける。

現代を後世の者たちが凌駕する世界も悪くはないのだろう。

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