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異世界、貴女と笑顔でさよならを  作者: 焼魚
1章:序章の惨禍
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6話:至速

絞首、斬首、焚殺、刺殺、毒殺。

人間を殺す方法はいくらでもある。


その中で手段を選択するのは個人であったり、団体であったり、規則であったりする。

だが殺人を犯せば、無論、法で裁かれる。


この世界もそうだ。

そうなのだが、革命家の手にかかれば法さえも味方につけてしまう。


故に、裁かれる筈の人間が裁かれない、なんてことも屡々(しばしば)。

革命家は、市民にとって正義の象徴。


しかしその裏の顔は────

奪いたいものは是が非でも奪い、殺したい相手は確実に殺し、自分に従わない者は金と暴力で無理に服従させる。


革命家というのは、残酷で非道な奴らなのだ。


今ここで革命家の印象を悪くするような話をしたのは、これから私が話すことによって革命家に対する誤解が生じないようにするためだ。

よく聞いてほしい。だが、無理に同調するする必要はない。


私は、ただ知ってほしいんだ。

この世界の状況、そして革命家がどういった人物なのかということを。


    **


修行二日目、私とアキサは視覚による補足とオーラによる感じ取りとを同時に行い、エリナの動きを追えるようになった。

そして単純な打撃ならば、それを避けられるようにもなっていた。


しかしそれでも当たらない私たちの攻撃。

そこで私とアキサは二日目の修行終わりの夜に集い、話し合いを行った。


「どうして当たらないのかな?」


私が疑問をそう呟くように言うと、アキサが反応した。

「わからない。でも、能力の応用が関係しているのは確かだね」


「まあ、それはそうだね」


エリナと私たちの体つき────筋肉の量や体重等は、さほど変わらない。

本来の身体能力で言うと、ニートのような生活を送っていた私とほぼ同じだろう。


となれば、私たちとの間に生まれる差は能力による差なのだろう。

風の能力利点は速度と持続力。


きっと、エリナはそのうちの速度を上手く活用しているのだ。

「問題は、どうやって応用しているのか、ということ」


「そうだね」


私たちは少しの間、思案した。

しかし考えるだけでは結論を出せず、私の風の能力により、色々と試してみることにした。


最初に私は、自ら行っている自分なりの応用方法をアキサに説明した。

「相手に攻撃を与える一瞬、拳であれば肘あたたりに攻撃方向への風を吹かせ、拳を加速させるんだ」


「なるほど。エリナもそういう原理で素早い動きをしているのかな?」


「……かもね。あれほど素早い動きならば、それなりの精度を要する筈だけれど、エリナならば可能かもしれない。でも、非現実的だ」


そう、非現実的だ。能力の連発は、脳に重度の負荷を与えるうえに、あの速度ならば脳の処理速度が追いつかない。

……だが、もし魔素によってその処理速度を強化できるとしたら?

不可能が可能となる。


私は立ち上がり、早速試してみることにした。

「アキサ。今から十秒たったら、私に攻撃を仕掛けてみて」


「……? わかった」


深呼吸、そして深い集中に入る。

身体の補強は、能力のみではなく、オーラや魔素でも可能だ。


自分の集中に魔素を流し込み、補強するイメージ。

そうして八秒ほど経ったところで、私は瞼を開いた。


瞬間、私の正面に立ち、額へとデコピンをしようとしているアキサの姿が目に入った。

しかしながら、少し様子がおかしく、彼女を見つめ始めてから体感で三秒ほど経過した。


即ち、時間がゆっくりと流れているということだ。

……どうやら上手くいったようだな。


私は彼女のデコピンを避けられる位置へと移動し、脳の処理速度の補強を解除した。


同時、彼女の指が空を切った。

「ありゃ?」


不思議そうに、私が元いた場所を見つめるアキサ。

私はそんな彼女の横から話しかけた。


「多分こういうことだよ、アキサ」


「うわおっ! いつの間に!」


それから私は、アキサへと今自分が行ったことを説明した。


その翌日、私たちはエリナとの修行でそれを試行してみることに。

昨日の試行で判明したのは、脳の処理速度を向上させると、途方もない体力を消費するということ。


処理速度の向上はエリナのような素早さを手にすることができるが、それは同時に自分の体力を凄まじい速度で削っているということ。

それを理解することで、私たちのエリナに対する尊敬度は殊更に上がった。


故に、この技術を使うのは一瞬だ。

相手に明確な隙が生じるのは、相手が攻撃を仕掛けた瞬間。

その瞬間に脳の処理速度を向上させる。


昨日寝ずに修練したために、この技術の発動は瞬時にできるようになった。


そして全ての条件が整い、高速なエリナの攻撃を交わした時、私とアキサは彼女に初めて拳を当てることができた。

とは言っても、二人共彼女の前腕によってガードされてしまったのだが。


「お見事! 二人共よくできました!」


しかし、エリナは私たちのことを認めてくれた。

それが修行開始から三日目のこと。


「「やったあ!」」


二人で声を揃え、喜びの情に身を投じた瞬間。

あの瞬間を、私は生涯忘れることはないだろう。……そして、これまでの生活も。


煤けた過去の記憶は、焦土と化すことはなくほんの少しの淡い光で照らされ、僅かながら脳内に充満する。

きっと、それだけで人間は幸せだと言えるんだ。


たとえ、明媚めいびな記憶よりも遥かに色濃く残る、陰惨で鮮明な記憶が脳裏に焼き付いていたとしても。


    **


翌日。

私たちはトルンド南方の「ベイド」という地方へとやって来た。


エリナの修行を完全に終えた私たちは、一先ず“旅”への準備を行わなければならなかった。

私の最初の目的は、アキサの家族を探すことだ。


異世界革命家を倒すことは二の次。

本当ならば、今直ぐにでも革命家を倒すべく立ち上がりたいが、そうはできない。


私は、エリナとの修行を続行させた本来の目的をアキサには告げていない。

彼女は人一倍、思いやりの強い人間だからだ。


故に私が「革命家を倒すために旅立つ」なんて言った暁には、鬼の形相をして止めてくるだろう。

もしかすると「協力する」なんてことも言うかもしれない。


そういったことを防ぐために、先ずはアキサの家族を探し出し、彼女を幸せにする。

家族さえ自分の周りに生きていれば、それで十分だろうから。


「ねぇねぇ! アイ! あれ見て!」


子どものように無邪気な笑顔で、何処かを指差すアキサ。


「おお〜、ピエロってこの世界にもいるんだ」


その指の先には、人だかりの中心にて、火の玉でジャグリングするピエロの姿があった。


そんなピエロと人だかりの横を通り過ぎながら、私はアキサの微笑む表情を見ていた。

エリナは先導しながら、私たちへと言う。


「旅で必要になるのは、個人を証明できるものと“職”だね」


私は前方の彼女へと尋ねた。

「個人を証明できるものはなんとなくわかるけど、職は何で必要なの?」


エリナは話し出した。

「この世界で無職の人の立場は少し厳しいんだ。例えば、国への入国が許可されたとしても、少し行動が制限されたりすることがある。だから、職は持っておいた方がお得だよ」


それを聞き、アキサは微妙な表情を浮かべた。

「職か〜……」


言葉にはしなかったものの、私もアキサと同じような感情を抱いていた。

『この世界にまで来て労働はキツイな……』


しかし、エリナから放たれた言葉は、私たちのそれを覆すものだった。

「あっ、言っておくけど職ってのは働く必要ないからね」


表情の固まるアキサ。私は彼女の横で尋ねた。

「というと?」


「ん〜……肩書っていった方が正しいかな。もしくは資格? とかね」


「おお!」


私はアキサに小さめの声で言った。

「働く必要は無いってさ。良かったね」


彼女も同様にして私へと言う。

「ね。でも肩書ってどうやって取るんだろうね」


すると、聞こえない程度の声量で話していた筈なのにも関わらず、エリナがアキサの疑問に答えた。

「役所で申請すれば簡単に手に入るよ。無論、試験はあるけどね。まっ、二人なら簡単だろうけど」


    **


ベイドにある役所へと辿り着き、私たちは長い行列に並んで自分たちの順番が来るのを待つことになった。

約一時間ほど並んだ頃、その時はやって来た。


「本日はどのようなご用でこちらに?」


役所の方がそう言い、エリナが答える。

「この二人の職を獲得しに来ました」


「承知しました。それでは少々お待ち下さい」


すると役所の彼女が後方の棚から取り出したのは、下敷きのような丈夫さを持ち合わせた一枚の紙だった。

それを私らに提示し、私とアキサはそれを見つめた。


「こちらは職一覧とその職に就くための条件とをまとめたものです」


そう言われ、箇条書きで示された言葉の羅列の内の一つを見てみる。そして呟くように読み上げた。

「『上級魔法使い』……『上級魔法二つ以上の習得が必須』……」


すると、職員が言った。

「その職であれば、国によって様々なサービスを無料で受けられますよ」


なので、思わず訊いた。

「サービスっていうのはどういったものなんですか?」


「そうですね……サービス業を行う店のサービスが無料になったり、ホテル代が無料になったりしますよ」


「へぇ~」


それはかなり凄いな。ただ、それだけ厳しい条件の職ということなのだろう。

上級魔法というのが何なのかは皆目検討もつかないが。


エリナが私たちに言う。

「その職も良いけど、二人に就いてほしい職は『冒険者』だ」


“冒険者”という言葉を聞き、とことん異世界だなと、私は思う。

アキサがエリナ、職員へと訊く。


「冒険者はどういったサービスを受けられるんですか?」


すると、エリナは言う。

「何もないよ? ただ他の国に入国できるようになるだけ」


他の国に入国できるようになるだけ?

「それなら」と私は発しようとしたが、それよりも早く眉をひそめたアキサが告げた。


「なら私、別の職がいいんですけど」


全く持って同感だ。得というのは、得られれば得られるほどいいもの。

せっかく修行を積んだんだ。何かもっといい職があるのではないだろうか。


そう思って、再び紙に目を通そうとしたその時、エリナが私らに言った。

「欲をかけば失敗するよ? それに、アイにとっては目立たない職の方が得だろうからね」


唐突に名を出され、私はその言葉の意味を捉えた。

目立たなければ私に得が訪れる理由────革命家を倒すためには、目立たないことが必要だからだ。

……多分。


アキサは首を傾げていたが、エリナは職員へと話した。

「この二人は冒険者で申請をお願いします」


「かしこまりました。ではお二人の名前を教えてください」


彼女の言葉に、アキサと私は答えた。

暁花あけばなアイです」

すめらぎアキサです」


後、私たちは役所の中にある、とある部屋へと連れて行かれた。

白を基調とした明るさに、殺風景の空間。


そこには二人の男性が立っており、彼らは私たちへと言った。


「冒険者たるもの、それなりの強さが必要だ!」

「冒険者という職を得るためには、俺達を倒す必要がある!」


つまり、彼らを倒すことが冒険者となるための試験ということ。


私たちは今一度心を整え、それぞれ男性の方たちと向き合った。

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