43話:本物を
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私は着地したヒビキくんに対し、オーラを足に集約させ、勢いをつけたうえで接近した。そして彼が逃げてしまわぬように、両腕をがしりと掴む。
私は小声で話を始めた。
「ヒビキくん、よく聞いて」
その言葉に、彼も戦闘の中断を余儀なくされた。
「……何? やっと体温まってきたとこなんだけど」
「私は、このコロシアムの外から来た転生者。このコロシアムを終わらせに来た」
「……! 何だと……!?」
「君たちを救いに来たんだ。ヒビキくんにも、少しばかり協力してほしい」
すると、彼は私の腕を薙ぎ払った。
「悪いなマイさん。俺はこのコロシアムでの戦闘を心の底から楽しんでいる」
そして、盾を小さくしてから、彼は構えた。
「だからあんたの頼みは聞けない。聞いてほしいんなら、俺を倒すことだな」
「…………」
彼を無視して作戦を実行してもいいのだが、その場合、私のリスクが倍増する。即ち、 作戦の成功率が下がることになる。そうなってしまえば、後に控えている策の全てが無に帰す。
つまり、結論は簡単だ。ヒビキくんを倒す。それ以外に選択肢は無い。ただ、殺しはしない。というか、殺したくない。
「私が勝った場合、君にも協力してもらうよ」
「ああ、約束だ」
私はオーラを制限し、ゼロにする。
「……!」
彼はその行為にすぐさま気がついたようだが、何の考えもなしに突っ込んでくるような馬鹿ではなかった。寧ろ一度距離を取り、私の様子を見ていた。
一方の私は、安心して新たな功力を発動することができた。
熱・可燃物・酸素。
火は、これら三つの要素から成り立っている。
しかし、能力を扱う場合これら三つの要素は不要となる。オーラさえあれば万事オッケーだ。そしてオーラを使用した火の再現には、一つのメリットがある。
火の能力者は、火に耐性がある。但し、ここで言う火というのは、オーラで再現した能力を指す。火の三要素から成り立つものに関しては、火の能力者も他の人間と同じく、耐性は無い。
そこで私が思いついた功力は『本物の火を再現する』というもの。そしてこの時『自らにダメージが蓄積され続ける』という制約を負うことにより、功力の威力は底上げされる。
功力の性質の設定は自由。ゆえにリアルな火へと変えることは造作もない。だが、少しでも威力を上げたかったがために、私は頭を捻った。
火の再現。そのためには火の三要素を満たす必要がある。
熱:代用不可能。功力による具現化。
酸素:空気中のものをそのまま使用する。
そして可燃物。ここは予め定めていた制約を利用することにした。自らにダメージが蓄積され続ける。それによって功力の威力が向上する。
よって定めるのはこうだ。
可燃物:私の皮膚。
そして功力の発動時、およそ1秒間、私はオーラを制限した状態へと移行する。これも発動時、威力の底上げのために行うべき制約。
制約の重ねがけにより、私の火は初めて機能する。
腕全体に火を纏う。皮膚が焼ける痛みと共に、この炎が本物のものであると実感する。ただ、試用の際、この痛みは既に経験している。今更怯んだりはしない。
「今は時間が惜しい。すぐに決着をつけさせてもらうよ」
「……今までの火とは異なるオーラの流れ……功力だな?」
「御名答」
私は先のプロミネンスと似た攻撃を彼に仕掛ける。彼がそれを避けた瞬間、功力により火柱の座標を彼と私を囲う位置に三つ設けた。今の隙ではそれが限界だった。
そして避けた先、ヒビキくんは全身に風を纏った。功力の類ではない。風の能力者にはよくある状態だ。特に警戒する必要はない。
私は彼へと殴りかかる。この功力の火は、他の功力や能力の使用にそのまま利用できる。つまり、攻撃力の向上がこの功力の一番の利点。
私の攻撃は見事彼の風を貫通し、彼を強く吹き飛ばした。
「チッ……!」
彼は空中でくるりと回転し、着地する。そしてオーラを急激に増加させた。それに気づき、私は一度足を止めた。
一つ、私は勘違いをしていたようだ。試合開始時、増加したあのオーラが彼の全てだと思っていた。だが違った。あの時の二倍、いや三倍。彼の体に内包されていたオーラの量は莫大なものだった。
そして再び、彼のオーラの悍ましさを感じる。風と、“雷”。二つのオーラが一つの体に混在している。理由は知らないが、アブノーマルなことだけは理解できる。
そしてそれだけ、彼は危険だ。
私が全身を普通の能力で纏おうと試みた瞬間、私の全身に鋭い痛みが電撃のように走った。同時、大量に吐血する。気合で立っているが、今にも倒れてしまいそうな痛みだ。
「痛いか? マイさんよ」
「…………」
確実に、彼の功力だ。それ以外はあり得ない。ただ、功力であるということは、その発動条件を満たしているということ。だが実際、彼はオーラを増幅させている間、一歩たりとも動いてはいなかったし、何かするような仕草も見受けられなかった。
……条件を満たしたのは私自身?
そんな思考を巡らせている間にも、彼の功力は私の体内を蠢くようにして発動し続け、私に痛みを蓄積し続けている。短期決戦。それがベストだ。
私は体に巡るオーラを功力の火に変え、それを巨大な剣の形に固める。形成された剣を両手で握り、構える。
「剣……ねぇ。武器を使わないところを見るに、そっち系の能力者じゃないと思ってたんだけど、違ったかな?」
彼の言う通り、自覚する通り。武器を扱うのは私にはできない。ただ、たった一振りならば、そこに技量など必要ないのだ。私は彼の頭を目掛け、剣を大きく振りおろす。
無論、彼に避けられる。だが、私の剣は地面をひび割れさせ、大きく削った後で爆弾のようにその破片が弾け飛んだ。その破片のうち幾つかがヒビキくんの体に突き刺さる。
刹那、私は一瞬怯んだヒビキくんの見逃さなかった。足へのオーラの集約により、爆発的速度で彼の背後へと回り込み、その首に手を当てた。
「動いたら殺すよ、ヒビキくん」
私の言葉に、彼はため息を吐いた後、盾を捨て両手を挙げた。
「オーラも消して欲しいな〜」なんて私が言うと、彼はそれに素直に従った。
「完敗だマイさん。あんたの計画に協力するよ」
「ありがとう。それじゃあ一気に説明しちゃうから、よく聞いてね」
私がヒビキくんの動きを封じたことにより、観客が沸く。滞ることを知らぬ歓声の中、私は急ぎで彼に説明を始めた。
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「コロシアム全体を火の渦で消滅させる?」
「そうです」
私はその場にいた者たちへ、私のプランを説明をしていた。
「そうだ、その前に私の功力の説明をしないとですね」
「ちょっと待ったアキサちゃん。……いいの?」
「ハルさん。制約ですよ。こうでもしなければ、コロシアム全体を消すことなんてできませんから」
自身の功力を無闇矢鱈に誰かへと教えることは危険だ。もし敵対するとなった時、それは自身を破滅させるだけであるから。ただ、唯一のメリットとして、功力の詳細を相手へと知らすという制約が生じる。その制約によって、功力の威力は底上げされる。
ハルさんはまだ何か言いたげな表情をしていたが、私はそれを見なかった振りした。
「私の功力は、発動までに幾つかの手順があります。まず初めに、小さな火柱を生じさせ、それに座標を設けます。座標は、私を中心として半径六メートル以内の範囲であれば自由な位置へと設けることが可能です」
その場にいた者たちは軽く頷きながら私の話を聞き続ける。私は続けて話した。
「そして四つ以上の火柱で一定の空間を囲うことによって、その囲われた空間に巨大な火の渦が出現します。少しばかり手順が多いので、威力もそこそこなものです。少なくとも人は殺せます」
そこでグロウドさんが手を挙げた。
「質問。いいか?」
「ええ。何ですか?」
「今の話から察するに、スメラギはコロシアム全体を囲う形で火柱の座標を設置するのだろう? ただ、設置のためにはスメラギが半径六メートル内にいなければならない。そこの問題はどうするんだ?」
「いい質問ですグロウドさん。今それを説明しようと思ってました」
百聞は一見に如かず。私は実演することにした。
「皆さん。少しそこ開けてくれますか?」
私は周囲にいた人々を両の壁側へと移動させ、真ん中直線上に人のいない状態にする。そして私は、その直線上、片方の壁に立つ。向こう側の壁までは、少なくとも六メートル以上の距離があった。
私はその距離を挟み、向こう側の壁スレスレに小さな火柱を出現させた。そして今したことの説明をする。
「私が火柱を出現させることのできる範囲は、半径六メートル。だけど、今みたいにその範囲を線のように伸ばせば、その分だけ火柱は小さくなりますが座標を設けることは可能です」
「つまり、問題無いんだな?」
「はい。発動さえできればこちらのものですから」
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私は既に、コロシアムの外へ火柱の座標を五本ほど定めていた。ただ、これだけの広範囲を覆うとなれば、完全な発動までにはそれなりの時間を要する。
そこで必要となるのがヒビキくんの協力だ。
「何をすればいいんだ? マイさん」
「私はこれから、コロシアムよりも背丈の高い火の壁を外壁の外側に発生させて、コロシアム全体を囲う。その時、君には逃げようとする革命家を止めて欲しいんだ」
「全員か?」
「極力ね」
ヒビキくんはため息を零す。
「生憎だが、流石に一人では手が足りねぇ」
「そこは安心して。私の仲間が二人、革命家として潜入しているから。合計三人だよ」
カルさんとハルさんに転生者らの避難を任せ、グロウドさんとリオナさんに私の援護を任せた。そしてそれに加えてヒビキくんの助力まで得られた。
「それじゃ、作成開始するよ。準備はいい?」
「ああ。どんとこい」
抜かりはない。
私はコロシアム全体を覆う火の絶壁を発動した。




