38話:助力者たち
「起きろ」
その言葉と、私は目を覚ます。頭痛がした。恐らくは、手刀によるダメージが脳にまで到達していたのだろう。声の主は、見知らぬ男性であった。
「今から幾つか質問を行う。お前はそれに対し、“イェス”か“ノー”のみで答えろ」
「……イェス」
私は椅子に縛られていた。そして目前の椅子に座っている男性の手にはナイフ。歯向かうことは叶わず、それどころか敵意を向けた瞬間に、私の首は飛ぶだろう。
したがって私は素直に質問に応じることにした。
「よし。それじゃあ質問だ。……っとその前に、俺の特性について説明をしておこう」
彼は「一度で理解しろ」と、淡々と語りだす。
「俺の特性は、相手の放った言葉の真偽を百パーセント正しく判断できる。たとえば、真実はイェスであるのに質問に対する答えがノーだった場合、俺はお前を殺す。わかったか?」
「イェス」
「それじゃあ早速質問だ」
百パーセント外れることのない判断。その言葉が嘘である可能性もあるが、そう疑うことよりも真実であると信じることの方がデメリットが少ない。
「お前は、貴族の人間か?」
「ノー」
「政府軍の人間か?」
「イェス」
「ここへ来たのは誰かからの指示によるものか?」
「ノー」
……さて、どうしたものか。
これら三つの質問で私の大まかな立場が直ぐに割れてしまった。とはいえ、抵抗することは難しい。
私のやり場のない気持ちとは関係なしに、彼の質問は着々と進んでいった。
「ここへ辿り着いたのは何者かからの情報によるものか?」
「イェス」
「お前はこのカルトスタウン出身か?」
「ノー」
「それじゃ、最後の質問だ」
私は生唾を飲んだ。そしてその次の質問は、耳を疑うようなものだった。
「お前、アケバナ・アイと関係があるか?」
「……イェス」
すると突然、彼は立ち上がり、私の首にナイフを突きつけた。私は無表情のまま、彼の言葉を聞いていた。
「合格だ」
彼はナイフで私を拘束していた縄を切り落とした。それから私は立ち上がり、歩き始めた彼に付いていく。
「合格という言葉の意味を聞かせてください」
「ああ。ただその前に、紹介したい奴らがいるんだ」
「紹介したい奴ら?」
私がそのまま彼の後ろを付いていくと、私がハルさんに連れられて辿り着いたあの廃墟へと到着した。
そしてそこには、ハルさんを含む三人の男女。彼らのオーラは政府軍十位以内の人間にも匹敵するであろうものであった。
「左から順に」と男は紹介を始める。順に、男、女、ハルという順番だ。
「『グロウド・カルベスタス』、『リオナ・マラザント』、そしてご存知『ハル・マゼリン』だ」
「ハル・マゼリン」。この常世において僅か五人しかいない「五大能力者」の一人。世界中に名が知れ渡っている、著名な人間だ。かつてメルさんから彼らのことは聞いていたので、私は五大能力者についてを知っていた。
ちなみに五大能力者一覧は以下の通りである。
1:インデックス
2:デュラン・ルール
3:ハヤカゼ・アオイ
4:カレン・ダラン
5:ハル・マゼリン
五大能力者の二人が所属しているという事実が、世界の安寧を志す政府軍の格好を良く見せていた。しかし、今となってはインデックスさんはもういない。残るはカレンさんのみだ。
そしてカレンさんを殺害し、政府軍の社会的地位を格下げしようとする輩の出現が今後予想される。そういった意味では、今の私のこの用事も、猶予が二週間もあるとはいえ、その期間を悠々と過ごすわけにはいかないのだ。
「そして、俺が『カル・ドメオ』だ」
「えっと……私はスメラギ・アキサです。どうぞよろしく?」
彼らに敵意は無い。穏やかなオーラの流れがそのことを示唆している。だが、心の奥底に隠す感情についてはオーラを見てもわかりにくい。
とどのつまり、オーラを見てどうこう判断するのではなく、対話を経て情報を掴む方が確実だ。
「それじゃあ説明させてもらおうか。スメラギ・アキサ」
「……お願いします」
カルさんの言葉に、私は耳を傾ける。
「俺たち四人は革命家フウガの使いだ」
「えっ、フウガさんの?」
それから少し話を聞いたところ、どうやらフウガさんは私がコロシアムへと訪れることを予測していたらしい。ヘビの一件もあり、私が止めても止まらない人間だということを理解していたフウガさんは、止めるのではなく護衛という立場に回ろうと考えた。
ただ、コロシアムに革命家本人が出向き、コロシアムの経営を妨害しようとする者の援護をすることは色々と問題が発生すること。もしコロシアムで行われていることが世界に公となれば、革命家の地位は底辺にまで落ちると共に、世界の均衡が崩れる。
その果てに、戦争や独裁などの未来が考えられる。
だからこそフウガさんは、私がここに来るよりも早くに四人を護衛としてコロシアムの付近に配置し、入口に近づいた時点で一度拘束し、説得を試みるよう、カルさんらに指示をしていた。
また、先ほどカルさんが私に「合格だ」と告げたのは、私が私であると決定づけたためだった。
そして今、拘束の後にフウガさんが予め思い描いていたシナリオ通りに事は進んでいるというわけだ。
カルさんの話を全て聞き終えた後、私は問う。
「残念ですけど、私はコロシアムへの潜入を辞めるつもりは毛頭ありませんよ。というか私への助力のために四人もの人をここへ配置したのでしょう? それなら尚更、貴方たちが私を止める必要は無いんじゃないですか?」
カルさんが顎に手を当て、眉間に皺を寄せていると、ハルさんが発言した。
「アキサちゃん。私たちはね、フウガに貴女を止めるよう一度説得してほしいと頼まれている。雇用主と被雇用者という関係性にある以上、私たちはその命令を遂行しなければならない。それが全て」
「…………」
つまり、命令は絶対、と。
ハルさんは続けた。
「ただ、勿論、私たちは貴女への協力を惜しまない。その点では安心して」
「……それはどうも」
「ああそれと」と、ハルさんは言い出す。
「貴女は貴族としてコロシアムに潜入しようとしていたけれど、それは合理的な行動に見えて実は愚行。下民が体裁を高貴に見せ、同じような身分の者に高貴であるかのように振る舞うようなもの」
「……と言うと?」
マズイな。もう少し現代文について勉強しておくんだった。
ハルさんが何を言いたいのか全くわからないぞ。
「要するに、体裁だけ高貴に見せかけたって、その中身が普通の人間である以上、本当に高貴な人間には一発でバレてしまう。私たちが貴族としてコロシアムに潜入したことが露見してしまうと、命の危険があるということ。理解した?」
「理解しました。貴族としてではなく“転生者”として、我々はコロシアムへと潜入するということですね?」
ハルさんは私の問いかけに静かに頷く。
転生者としての潜入、か。確かに、ハルさんが今述べたように、体裁を整えたところで人の本質は変わらない。バレることへのリスクを抱えるよりは、転生者として貴族に飼われることを演じた方が良いという判断なのだろう。
ただ────
「ただ、コロシアムへはどうやって潜入するんですか?」
私のその質問には、リオナさんが答えた。
「コロシアム内の転生者五人と内密に連絡を取り合っているから、私たちはタイミングを伺って彼らと入れ替わる。無論、それぞれの性別や大まかな背丈、オーラは同じの人を選んでるよ」
「なるほど。じゃあ、あとはタイミングを待つだけなんですね?」
「うん。そういうこと」
それから私は、そのタイミングについてを教えてもらった。
時刻は日付が変わってから一時間二十三分後。ハルさんに見せてもらったあの転生者用のハッチ────革命家が捉えた転生者をコロシアムへと送るた出入り口から入れ替わりを行う。
私たちは余った時間を沈黙に費やし、やがて例のタイミングの十分前を迎えた。同刻「そろそろ準備しようぜ」と言うグロウドさんの言葉により、沈黙は解かれた。
ハッチへと向かう私たち。ハルさんが先導し、その後ろに三人が横で並び、私はその後ろを歩く。
彼らの背中を見つめ、思う。
果たして彼らは信じるに値する人間なのか、と。




