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34話:漸次

人生は経験の連続である。誰かがそう言った。

年の功という言葉があるように、人間は年齢をその身に刻む度に経験値が蓄積されていく。寿命を前借りするという行為は、その分の経験値を今の自分に瞬間的に与えているということだ。


肉体がその経験値に耐えられず、死ぬこともある。だから奥義だ。いざという時、死にかけた時、火事場の馬鹿力のようにして己の命を削る、一種の制約。


カレンの見解において、トーカは通常の人間では考えられぬような寿命を残しているため、寿命の前借りに対して臆することを必要としない。それが彼女の精密な具現化などを導いているのだと、カレンは考えた。

そして彼女は、インデックスの首にも届き得る強さであるとも。


それから、インデックスの死亡に関することをある程度話し終えたところで、カレンは議題を変えることにした。

「さてと。それじゃあ本題。『革命家連合』の発足についてだ」


インデックスの死を受け入れ、次のことを見据える政府軍メンバーの諸々。カレンは続けた。

「彼らの目的は、革命家殺しの鏖殺。とは言っても、この世界で存在しているのはたった二人だけどね」

「二人……アイのことは知っていたが、もう一人革命家殺しがいたとはな」

「西側大陸の方で革命家三名を殺害してる。アイと同等の革命家殺しだよ」

「東と西の革命家殺し、か。中々面白そうだ」


ケイルが静かに心踊らす中、九位のフラードがカレンへと訊く。

「カレンさん。我々は今こうして集められているわけですが、革命家連合の目的が革命家殺しの皆殺しならば、我々がわざわざ集まる必要はなかったんじゃないんですか?」

「もっともな意見だね、フラードくん。でもね、それには一つ、明確な理由があるんだ」

「何です?」


カレンはアキサと共にこの場へと足を運ぶ前、このビルの最上階にある上層部の人間の部屋を訪れ、今回集められた理由をはじめとする様々な情報を上層部と共有していた。

だからこそ、知っていた。


「上層部、そして僕は革命家連合の刃が僕たち政府軍にまで及ぶと思っている」


その言葉に、十位のハルトが言葉を発する。

「どうしてですか? 今の話の流れでいくと、革命家連合の狙いは革命家殺しですよね?」

「そうだねハルトくん。君の意見も、もっともだ。その理由は、どうせだし新参のアキサに説明してもらおうかな」

「えっ、あっはい」


何の文脈もなく唐突に指名されたことにより、アキサは少し驚いたが、直ぐにいつも通りの彼女へと戻った。

「えっとですね……革命家連合の目的は、あくまでも革命家殺しを倒すことなんですよ。で、殺すとなればそれは明らかに犯罪です。だから私たちも彼らを止める義務があるんです」

「……なるほど」

「カレンさんの言葉を否定するわけではありませんけど、彼らの刃が私たちに到達するというよりは、剥き出しの刃を振り回していたところ目掛けて、私たちが一斉に刃を突き刺すんです」


カレンはアキサの説明を聞きつつ、「うんうん」と頷いた。


    **


「つまり俺が言いたいことはだな、アイさん」


広大な森林の内部、アイとリラは会話をしていた。そんな二人を遠くから眺めているうちに、その後ろのフィル、トーカとヒュウゴ、ラッドらはほんの少しだけ会話を弾ませていた。


もちろん、ラッドとヒュウゴからの一方的な会話であるが。


リラはアイへと話を続けた。

「功力は一つ、最大でも二つに絞るべきだと、俺は思う」

「二つ……ですか」


功力の数に応じて、脱却の効力は弱まる。その理論のもと、二人は話をしていた。

功力は二つに絞るべき。その助言を、アイは正面から受け止めることにした。


「じゃあ、引力と斥力ですね。一番使い勝手が良いですし」

「ああ。俺もそれが良いと思う」


その時、ふとアイの脳裏に疑問が生じる。

「リラさん。“脱却”ってなんですか?」

「……? というと?」

「『外部から刺激を与えることにより、摂理を崩壊させる』。その行為が脱却であると、私は教えてもらいました。でも、それだけじゃないんですよね?」


摂理。人間同士の巡り合わせの際に用いられる考え方。

脱却。その摂理を壊すこと。


「どうしてそう思うんだ?」

「ただの直感です」


リラはほんの少しの間沈黙した後に、アイへと告げた。

「残念だけれども、俺も脱却については良く知らないんだ。でも、アイさんや俺が知っていることが全てだと俺は思うよ。功力の数に応じた効力の薄れをアイさんが知らなかったのは、恐らく東と西の大陸の違いみたいなものなんだろう」

「……そう、ですか」


再び、場に少しの沈黙が生じる。それを突き破ったのは、トーカであった。

「アイ様。少し良いですか?」

「どうしたんだ?」


問いかけに対し、トーカは答える。

「二キロ先に、強力なオーラの反応がありました。恐らく、ボスよりも強いかと」


感知。トーカの感知の範囲は、アイの半径一キロを凌駕する半径三キロである。

ただし、感知の範囲というのは、オーラの量や経験によって増減するものではない。どれだけ遠くのオーラを感じられるか、どれだけ遠くに自分のオーラを放出できるか、こればかりはセンスという観点に重点が置かれるのだ。


そんなセンス溢れるトーカが、強力なオーラを感知したと申してきたのだ。アイはすぐさま警戒態勢を取った。


逆感知は恐らくもうされている。あれには範囲という概念が存在しないからだ。

そして、ネウルス以上の実力だと、身近で彼のオーラを感じていたトーカが言った。相手が腕の立つ人間であることなど、寄り道せずとも辿り着く明確な事実であった。


「トーカ。今その人物はどこに?」

「……もの凄い速度でこちらに近づいてきています。あと一キロも無いですね」


瞬間、その場にいた誰もがそのオーラを感知する。

目に止まらぬ速度で、そのオーラの持ち主はアイらの目の前に姿を現した。


「久しいね。アイくん」

「貴方は……」


政府軍現三位、ユウス・デバイドであった。

「ユウスさん……! 何故ここに?」


彼の登場に驚きつつ、完全なる敵でないことに、アイはほんの少しの安堵を覚えた。とは言っても、警戒態勢は解いてはいないが。

彼はアイの問いかけに対し、自身の右手首を左手で指さした。


それを受け、アイは自身の手首を確認する。

そこには、目を凝らし、数秒見つめてやっと見える程の細く小さなオーラの針が刺さっていた。


「……! いつの間に……!」


彼女はこのオーラの針によって、自分たちの居場所が常に把握されていたのだと理解した。

速やかに抜き、針を地面に捨てると、それは自然と消滅した。


ユウスがアイに針を仕込んだのは、彼女が以前ヘビに囚われた時、彼女の手足を拘束していた有刺鉄線を短剣で切断した時である。


「さて、今回は君らに忠告をしに来たんだ」


忠告。その言葉でアイは察した。

「革命家連合の件ですよね」

「そうだ。君たちは彼らに関してどこまで知っているんだい?」

「報道されたことだけですよ。革命家十名による構成、私たち革命家殺しを狙っていること、その程度です」


それを聞き、ユウスは続けた。その間、リラや他の者たちは彼の話を沈黙したままに聞き続けていた。

「いいかいアイくん。奴らの強さは格が違う。君や僕が対峙したところで瞬殺されてしまうだろう」

「……やっぱりですか」


自分の実力など、過去の数々の戦闘から把握していた。たとえ今まで数人の革命家を殺せてきていたとしても、それは摂理による、定まった巡り合わせ。

実力が拮抗している者同士が巡り合ったというだけの話なのだ。


アイは脱却を経ている。その事実が今回、アイを強者との対立に導いたのだ。

そのことを十分に理解していたアイは、それ故に「やっぱり」と表現した。


「悪いことは言わない。今回の件は僕たちに任せて、君たちは手を引いてほしい」


アイは少しの間、考えた。それからリラ、ヒュウゴらの顔を見て、ユウスへと言う。

「ユウスさん。狙われてるのは貴方たちではありません。私たちです」

「……君はそんなに物わかりの悪い人間だったかい? このままいくと確実に殺されると、わざわざ忠告しているんだ」


「違いますよ」アイはそう否定した。

「私は、私たちが見つからなければ彼らも行動を起こせないと言っているんです」

「……? 何が言いたいんだい?」

「私たちはこれから、力をつけるために数ヶ月身を隠そうと思っています」


彼女の言葉に、リラが反応した。

「アイさん。俺も丁度そう思ってたんだ」


リラが発言したことにより、ユウスは彼女の存在に触れざるを得なくなった。

「君は確か、西側大陸の革命家殺しのリラくんだったね。……それじゃあ、何となくもうわかったけれど、君たちの意見を聞かせてくれ」


リラが続けた。

「今の俺たちじゃ、奴らに太刀打ちできない。だから、確実に勝つためには力を蓄えなければならない。そして奴らの狙いは俺たち。上手く身を隠し続けることが可能であれば、俺たちはその分、時間を得ることができる。それに、あんたらにとってもその方が楽だろう?」

「……確かに、それはそうだよ」


そこでユウスは反対するかのように、リラとアイに言う。

「でも、僕たち政府軍としては、君たちにこれ以上強くなってもらっちゃ困るんだけどね」


彼は続けて言う。

「ただ、声を大きくしては言えないけれど、僕たちは裏で悪事をはたらく革命家と対立する君ら革命家殺しを重宝しているんだ。だからこそ、こんなところで死なれちゃ、強くなる以上に困る」


同時、ユウスはポケットからワーパーを取り出す。そしてそれを指にはめ、発動する。

移動する寸前、彼は彼女らに微笑み、告げた。


「期待してるよ。アイくん、リラくん。また然るべき時に会おう」


そして彼の姿はその場から無くなるのであった。

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