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32話:結団

「アキサ。どこに行くつもりなんだい?」

「遊びに決まってるでしょ? カレンさん」


今回のヘビの一件、アキサの多大な活躍により件が収まったということもあり、アキサは数日間の休暇をインデックスより与えられていた。

そしてそれとは別に、月末のために残った有給を使う政府軍二位のカレン・ダラン。


彼女らは休みが一致したということで、現在スピチュードの至る所を二人で巡ろうとしている。

ちなみに、対面したのは今日が初めてだ。


「何かプランがあるの?」

「いえ?」


プランも無しに上司を誘ったアキサに対し、カレンがほんの少しため息を吐き、鼻で笑った。

「いいね君。ユウスくんが気に入ってるのも納得がいくよ」


アキサはその言葉の意味がよくわからなかったので、取り敢えず微笑むことにした。カレンは彼女のその表情を見て、無表情のまま言った。


「プランが無いのなら、僕が君を案内してもいいかな?」

「……! 本当ですか!? お願いします先輩!」


    **


「『アケバナ・アイ 革命家殺し』、か」


かつて全国に頒布されたアイの指名手配書を見つめる男。政府軍一位のインデックスである。

彼は先日、魔獣の背の上でアイと初めて邂逅した際、彼女の体裁を鮮明に記憶した。そしてその記憶と指名手配書に写る彼女の写真とを照合していた。


その理由としては、彼の心底に渦巻くアイへの懐疑心があった。

『彼女は何ゆえ革命家殺しを行っているのだろうか。……まあ、過去に何かしらの因縁があるとみるのが普通だ。革命家の大半は、政府軍への報告を無しに違法行為に手を染めている。彼女もきっと、それら違法行為の被害を被った者なのだろう』


政府軍は、革命家の違法行為の存在は認知している。

ただ、それは根拠のない単なる推測に過ぎず、事実としては扱うことのできないものだ。


革命家は、政治的地位において重要な役割を果たす。国から実力を認められた者が、国の正式な手続きを経て革命家となることを許されるため、彼らは社会において圧倒的に、国民を守る“善”だ。


だからこそ、根拠のない推測を政府軍の方で事実として認定し、逮捕するなど、できるわけがない。

故に、革命家殺しは重罪として扱われているのだ。


社会的地位につけ込んで違法行為を繰り返す犯罪者。それが今の革命家だ。

そしてそんな革命家を、殺すという形ではあるが、確実に無効化する革命家殺しは本来、称賛されるべきだとインデックスは考えている。


『変えなければならない。悪人が評価され、本当の善人が罪人とされるこんな世界は』


    **


カルトスタウンでの邂逅から数日、アイはトーカとフィルを連れ、ヒュウゴらと再会を果たしていた。

ヒュウゴらが連れてきたのは、一人の女性。アイの求めていた、同族であった。


「貴女が西側大陸ウエストコンテの革命家殺し『リラ』さんですか?」

「…………」


リラ・ナツリ。西側大陸西端の一国「ショウファ」の革命家を二人殺害した張本人である。

彼女は黙ったまま、頷く。


それから背中に背負っていた鞘から、剣を抜き、その剣先をアイへと向けた。

その動作に、アイは両手を上げ、敵意がないことを示した。


「私、何かしましたかね?」


アイの問い掛けに、リラは答える。

「俺も革命家連合の殲滅は大賛成だ。一人でも軍隊レベルの強さを持つ革命家が手を組み、俺たち革命家殺しを狙っている。それに対抗するためなら、誰とだって協力するさ。だが、それなりの強さでなきゃお断りだ」

「……つまりは、お手並み拝見ってことですね」


アイは体に風の能力を纏う。戦闘態勢である。

それから振り返り、自身が連れてきたトーカ、フィルに言った。

「お前ら、少し下がってろ」


対するリラも、ヒュウゴとラッドへと言う。

「ヒュウゴさん。ラッドさん。少し下がっていてくれ」


二人は向かい合い、そして互いに構えた。

「アイさん。手加減は無しだぜ?」

「ええ、もちろん」


静寂に包まれた森林の中、両者は戦闘を開始するのであった。


    **


東側大陸イーストコンテ東端、『ランドロン』と称された国。

そこでは、革命家十名が集い、集会が行われていた。


進行役兼組織のリーダーとして抜擢されたのは、今回複数の革命家に声を掛け、革命家連合を発足させた本人、アタラシ・フウマ。


「革命家連合の発足にあたって、皆さんに改めて確認しておきたいことが幾つかある。聞いてくれ」


他の革命家らは巨大な円形のテーブルに沿う形で配置された椅子に腰掛けたまま、黙ってフウマの話を聞いていた。彼らはフウマの定めた条件の下、従者を一人同伴させ、この場に足を運んでいた。


「一つ、『本組織は革命家殺しの殺害が目的のもとで発足されたもの』だということ。一つ、『本組織は一時的なものであり、目的を達成した暁には解散する』ということ。そして一つ、『全体の利益のためならば、自らの命を放棄することを選択せよ』」


計三つ。

フウマは自身の考えや他の革命家の意見を反映させたうえで定めたそれを言葉にした。だが、それらの事項は集会以前にフウマの従者であるルークによって各革命家へと一度伝達されていた。


そのため、一人の革命家『オルアス・カナル』がうんざりしたような表情でフウマへと言った。

「それはお前の従者から何回も聞いたよ。耳が痛くなる程な」


そこでフウマは、話題を次に進めることにした。

「俺のとこの従者が世話になりました。……さてと、ここで皆さん。一つ提案があります」


その場にいた革命家と従者とが、彼の発言に注目する。そんな中、フウマは穏やかな表情のままに、言った。

「皆さんで殺し合いをしませんか?」


その正気とは思えない提案に、無論、反論する者は現れる。その筆頭を務めたのは、西側大陸の革命家『ヴェルナード・スレイン』。

「おいおい、ちょっと待てよ。文脈がおかしいだろうが」


「確かに」とフウマは共感した後、その提案に至った理由を事細かに説明することとした。

「失礼しました。殺し合いとは言っても、死なない程度の殺し合いです。言わば、“組手”ですよ」


そこに今まで黙っていた『ブレイガン・ジューラ』が口を挟む。

「フウマ君、といったかな? 君は一つ勘違いをしているようだ」


彼は立ち上がり、フウマの座る椅子へと足を進めた。故に、従者であるルークがフウマの前に立ちはだかるが、それはフウマの指示によって拒まれた。

「構わない、ルーク」

「……わかりました」


フウマは椅子の方向を変え、ブレイガンと座ったままで向き合う。ブレイガンは言う。

「俺たちはあくまで、表面上の協力関係だ。それ以上でも、以下でもない。だから手の内は明かさない。そうするのが妥当だろ」


内に少しの怒りを含んだその言葉は、フウマの嘲笑を誘った。

「フッ……そんなにキレないでくださいよ。ちょっとした戯言じゃないですか」


両者は暫く見つめ合った後、ブレイガンの方が折れるようにして自分の席へと歩いて行った。

「ご理解いただき助かります」


フウマは口先ではそう言ったが、本心はそれと異なった。

『正直、ここまで反感を買うとは思わなかったな。俺としては、手の内を明かすことになったとしても革命家殺しを殺すことを優先したかったんだけどな』


ブレイガンは座った後、フウマへと言った。

「フウマ。俺はお前の提案を否定したが、完全にってわけじゃない。能力及び功力なしでの戦闘なら大歓迎だ。他の奴らだって、それくらいなら許してくれると思うぞ」

「おっ、本当ですか?」


思わぬ彼の言葉に、フウマは内心飛び跳ねていた。

「じゃあ、やりましょう! 賛成の人は挙手を!」


彼が全体に対してそう呼びかけると、革命家十人のうち八人が手を上げた。

「決定ですね。それじゃあ、早速────」


そう言い、彼が指さしたのは────

「ブレイガンさん! やりましょう!」

「ああ。構わないぜ」


立ち上がる両者。円形テーブル横の空間には何も無く、丁度そのスペースを利用しようとフウマは考えていた。


八人の革命家に注目される中、フウマとブレイガンは向かい合う。

「いつでも来い」

「ええ、遠慮なく」


その時、ルークが組手開始の合図を行った。

「開始!」


同時、一度の瞬きをするに満たない程の時間、フウマは動き出した後、ブレイガンの顎、鳩尾みぞおち、大腿にそれぞれ三発ずつ打撃を加えた。


ブレイガンは何が起こったのか知る由もなく、その場で倒れた。


だが、フウマを注視していた何人かの革命家は、彼の動きをほんの少しではあるが捉えることができていた。


『恐ろしく速い……この中だとトップレベルかもな』

『敵に回すと厄介そうね』


内心、思ったことは言わないものの、革命家らのフウマに対する警戒心は急激に高まった。

「さてと。今の打撃でブレイガンさんは気絶してしまったわけですけど、他に誰か、俺とやりたい人います?」


フウマはそう呼びかけたが、手を挙げる者はいなかった。故に、フウマは椅子に戻り、ブレイガンの従者に彼を任せ、再び進行役に徹することにした。


「それじゃあ、次からは俺が適当に組み合わせを決めるんで、どんどん戦ってってください」


集会の主な目的。それが今、互いの実力を大まかに確認することへと移行しようとしていた。


    **


「美味しい!」


スピチュードの都心、アキサはベンチに座り、カレンの横で団子を頬張っていた。

「それは良かったよ」と、微笑むカレン。


満足そうに団子を平らげたアキサを見て、ふとカレンの脳裏に一つの疑問が浮かんだ。

「そういえばアキサ。君はなぜ政府軍に来たんだ?」


訊かれ、アキサは頭を整理してから答えた。どこまでを明かすべきか、どこまでを隠蔽すべきか。それを見定めるために。

「私は、生き別れになった家族を探しているんです」


カレンはアキサに訊く。

「アキサ。君ってもしかして“転生者”?」

「えっ……?」


今までは隠してきていたことだし、誰かに悟られるようなことはなかった。それがこの一瞬によって、一人の人物によって解明されてしまった。

アキサはその事実に、少々の間、言葉を失っていた。そんな彼女を見て、カレンは少し慌てた様子で彼女へと言う。


「あっ、大丈夫大丈夫。誰にも言わないから」

「……本当ですか?」


途端に声が小さくなったアキサに、カレンは微笑んだ。

「僕が他言したところで、僕に利益はないよ」


それから視線を下の方に移し、自身の膝の上で組んだ手を見ながら言った。

「アキサ。この世界は、弱肉強食だ。だからこそ、無知な転生者の殆どは革命家らによって狩られる」


アキサはそのカレンの言葉を黙ったままに聞いていた。彼女は続けて言う。

「でもね、弱い存在だって、手を組めば打ち勝つことがある。そうでしょ?」

「そう……ですね」

「だからきっと、アキサの家族だって生きているよ。いつか見つかる筈だ。そのためなら、僕も手伝うよ」


励まされ、アキサはカレンという人物を少し理解できたような気がしていた。アキサは笑顔で、感謝を告げる。

「ありがとうございます先輩」


カレンは微笑んだ後、立ち上がる。

「よし、それじゃあそろそろ────」


そう言いかけた時、彼女らの足元に、一羽の鳩が舞い降りた。鳩の足には紙が括り付けてあり、カレンとアキサは即座に、この鳩が伝書鳩だと理解する。

「伝書鳩か……」

「私、見たの初めてですね」

「あ、本当?」


カレンが鳩の足の紙を解く中、アキサは何とも形容し難い忌避感に見舞われていた。

刹那、アキサの脳裏には過去数日間で話した人物たちの様々な言葉がフラッシュバックのように、水に浮かぶ気泡のように、脳内へと訪れた。


『実は、ちょっと悪い予感がしまして』

『こいつの予感は、命中率百パーセントです』

『アキサ。オーラの量、少し増えてないか?』

『僕も手伝うよ』


カレンが届けられたメッセージを読み上げる。

「『革命家十名による“革命家連合”が発足。順位が十以上の者は至急、本部に迎え』、だそうだ。アキサ。向か……ちょっと待った。もう一枚あるようだ」


ふとその時、カレンは紙が重なっていたことに気がつく。メッセージを伝える紙は一枚ではなく、二枚だった。

その事実が、アキサの嫌な予感を加速させた。


「『政府軍一位インデックスの死亡により、本組織の順位は一ずつ繰り上がる』」


気泡が弾けるような感覚が、アキサを襲った。

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