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異世界、貴女と笑顔でさよならを  作者: 焼魚
1章:序章の惨禍
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3話:煤けた記憶の中で

ホテルのミーティングルームでの修行を開始してから、三日が経った。

やっとの思いで私とアキサは、エリナのオーラを感じ取るに至った。


その精度としては、エリナが背後でオーラをゼロから出現させた瞬間、直ぐに振り向けるほどだ。


「コングラッチュレーション! おめでとう二人共! やっと私のオーラを感じ取れたね〜」


彼女の言葉に、汗だくの私たちはその場にへたり込んだ。

「はぁ〜……」

「やっとできたぁ……」


そんな私たちへ、エリナは訊いた。

「落胆させるようで申し訳ないけれど、少し説明してもいいかな?」


私とアキサは互いに顔を見合わせ、頷いた。

二人の意見を代表して、私が言う。


「いいよ」


すると、エリナはホワイトボードに文字を書いて縦に羅列し始めた。

そこに書かれたのは、上から順に────


『火 水 風 土 雷 天』


私たちはその文字の羅列の記憶が存在していた。


「この六つ、何かわかる?」


エリナの問いにアキサが答える。

「能力の分類ですよね」


すると、彼女は「その通り!」とグッドポーズをした。

続けて話す。


「能力の分類によってオーラの種類、性質は異なるんだ。今、君たちが感じ取った私のオーラは“風”のオーラ。この意味、わかる?」


…………最悪だ。

絶望によく似た凄惨な喫驚と共に、脳裏にその言葉が浮かんだ。


隣のアキサは口をぽかんと開け、首を傾げながら絶望する私の表情を見ていたため、私は言いたくもない言葉を口にすることとなった。

「……アキサ。私たちが今感じ取れるようになったのは、六つある内の一つだけ。つまりは今日までの行ってきた量の分の修行を、あと五回やらないといけないんだよ」


大きく目と口を見開き、表情が硬直するアキサ。彼女はそのまま固まってしまった。


それに対し、笑うエリナ。

「あはは! やっぱ落胆してるね〜」


人の絶望する様子を見て笑うエリナに呆れる私。

固まるアキサ。


エリナは私たちへ言った。

「よし! それじゃあちょっと息抜きしようか」


    **


エリナに連れられやって来たのは、この国トルンドの北西に位置する「メルド」という地域。

ここは私が最初に訪れた城門のある地で、トルンド最大の市場が存在している。


人々の活気と数え切れぬほどの人が行き交う中、エリナは私たちに「何か奢るよ」と言って人混みの中、私たちを先導した。


最中、数ある出店の中で、私はとある出店が目につき、思わず足を止めた。

「寿命商売」という看板を構え、他の出店とは比べ物にならないほど小さく、注意して見ていないと見落とすところだった。


私が足を止めたことに気がついた二人は、私の元へと戻ってきて、アキサが訊いた。

「どうかした?」


故に、私は視線で寿命商売の出店を彼女らへと見せた。

「いやさ、あれ」


すると、出店を見たエリナが、革命家に追われている時のような表情で私へと言った。

「……アイ。あれは今の君には必要のないものだ。……いや、今もこれからも……ね」


その時この出店の正体はわからなかったが、後々私はこの店を訪れることとなる。

この頃の私には、そんなこと考える由もないことであった。


    **


小高い丘の上、国全体を見渡せるように作られた広場のベンチ。

私とアキサはそのベンチで、エリナに奢ってもらったアイスを食べていた。


見栄えと食感を加えるために振りかけられたであろうスプリンクル。

私はこのスプリンクルが子供の頃から好きだった。


ほとんどの場合振りかけた本体の味の濃さによってスプリンクル自体の味はかき消されてしまうが、何色ものトッピングシュガーによって彩りが添加され、それだけで特別感が感じられた。

私はその特別感が好きだったのだろう。


アイスを食べながら、私は国を眺望する。

知らず知らずのうちに、世界は既に夕方を迎えていた。


夕焼けの赤に染まる国の風景が私の目には映えて見え、あのまま現世で生きていたらこんな風景見れていなかったなと、なんとも形容し難い感情を抱いた。


三人並んで夕日を見ながら、エリナは私たちへと尋ねた。

「二人共。どうしてこのメルドに来たかわかる?」


些少の思案。そして返答する。

「この風景を見せたかったから?」


「それもあるけど、一番は市場の沢山の人が目当てだよ。それ食べ終わったらもう一度市場辺りを歩いてみようか」


    **


それから十分弱が経過し、私たちはあの出店の羅列する市場の周辺へと足を運んだ。

市場に比べれば人通りは少ないが、それでも人は確かにいた。


エリナは私たちにこう言った。

「一度何も考えずに、この一本道を、通行人のオーラを感じながら歩いてみて」


私たちは言われるがままに、そうした。


すると、五十人はいるであろう通行人の中の七人のオーラを明確に感じ取ることができ、その他の十人ほどのオーラをほんの少しだけ感じ取れた。


これが意味すること。それは────

「君たちが大まかに感じ取ったオーラは、君たちが正確に感じ取ることのできる風のオーラの“隣接オーラ”だ」


エリナにそう言われたが、よくわからなかった。

アキサが問う。

「隣接オーラって何ですか?」


「そうだねぇ……じゃあそろそろいい時間だし、ホテルに戻ろうか」


    **


ホテルに戻った後、エリナはホワイトボードに“天”という文字を書き、その下に、左から順に文字を書いていく。


『火 土 風 雷 水』


エリナはそれを私たちへ見せ「これが何を意味しているか少し考えてみて」と告げ、思考時間一分を設けた。


与えられた一分という時間の中、私は思案を巡らせる。

先ほどエリナが言っていた「隣接オーラ」という言葉……順番には意味がある……何故、天だけが他の五つとは別の存在のように書かれているのか。


一分が経過した頃、エリナが手をパンと一回叩いた。

「はいっ! 何かわかったかな?」


私は自信がないため、目配せを行い、アキサへと先に返答を譲った。

彼女は言う。


「オーラと魔素はほぼ同等の存在。つまりは分類されるオーラ同士も元を辿れば同じ存在ということ。分類されるオーラには似通うものがあり、それを隣接オーラという。……合ってますか?」


「御名答」


私は「おー」と拍手をしたが、脳内では彼女と同じことを考えていた。……いや本当に。

詳しい説明は、エリナから行われる。


「隣接オーラというのは、たった今アキサが話してくれたように、分類されたオーラの中の似通ったもの。この順番はその隣接オーラを表しているんだ」


そう言われ、私たちはホワイトボードの文字を再び注視した。

五つの文字が直線上に並ぶ中、天という文字だけは五つから離れた上の部分に書かれている。


「天というオーラの説明は後として、まずは五つの分類から説明を始めよう。風を中心として、火、水の方向へと土、雷が並んでいる。これは火と水が全く異質ということを表すと同時に、隣り合う分類同士が似通った性質であることを表しているんだ」


風は土と雷と似通った性質を持つというように、隣接するものには似通う性質がある。

しかし火と水は全くの異質らしいので、分類されたオーラ同士が円のように隣接しているわけではないのだろう。


エリナは説明を続けた。

「つまり風のオーラを感じ取れるようになった君たちには、隣接オーラである土と雷のオーラを少しは感じられる。割合としては五割程度だね」


五割……確かにそのくらいだったかもしれない。

そう思っていると、彼女は私たちへと尋ねた。


「それじゃあ、次に感じ取れるように修行すべきオーラの分類は何かわかるかな?」


今度は私が即答した。

「水と火」


「おっ、いいね。御名答だよ」


私の返答に疑問を持ったアキサが、私へと訊いた。

「どうして水と火なの? 土と雷じゃないの?」


それに対し、私は少し説明することにした。

「風のオーラを感じ取れるようになって、風の隣接オーラをそれぞれ五割程度感じられるようになった。そこで隣接オーラである土と雷の感じ取りの修行に励めば、確かに風のオーラの感じ取りの修行よりは短期間で済むと思うよ」


アキサは頷き、エリナは口元に笑みを浮かべながら私の説明を聞いていた。

続ける。


「一つの分類に対し修行する期間が約三日。土と雷から始めて、水と火まで到達するまでには四回分の修行が必要となる。だけど、水と火から始めれば、水と火の隣接オーラである、既に五割感じ取れている土と雷の残り五割を感じ取れるようになるはず。つまり、修行の回数は二回で済むということ」


エリナはアキサに訊いた。

「アキサ。わかったかな?」


彼女はハッキリと頷きはしなかったが、ゆっくりと小刻みに震えるようにしながら頷いた。

そんなアキサを見て、私たちは笑った。


それからというもの、水と火のオーラを感じ取る修行に、私たちは専念した。

時に修行、時に観光、時に外食。


異世界革命家とか能力とか、色々と心配だった点は多かったけれど、何だかんだで私はこの異世界を謳歌していた。

一人ではできないことも、アキサと手を取り合って積極的に挑戦し、できなければエリナに教えてもらう。


修行と豊かな日常とが入り混じった生活が始まりを告げ、気がつけばこの世界に転生してから一ヶ月が経過していた。


その頃には五つの分類のオーラの感じ取りが完璧になっていて、エリナは私たちへと言った。

「さて、そろそろ天のオーラについてを話しておこうかな」


いつも通り、彼女は私たちをミーティングルームへと集め、話を始めた。

「天のオーラっていうのはね。基本的にオーラを感じ取れないんだ」


唐突にも衝撃の言葉を言い放たれ、私たちは驚愕する。

「……!? 感じ取れないんですか!?」


アキサが声を荒げ、そう訊くのも無理はない。

オーラを感じ取れないということは、オーラを消した状態と天のオーラを放ち続けている状態との区別がつかないからである。


「そう。人間には感じ取れないオーラ。それが“手が届かない”と表現され、現在では天のオーラと呼ばれている」


驚きを隠せない私たちに、エリナは言った。

「そこで君たちには、そろそろ“能力”を覚えてもらおうと思う」


辻褄の合わない文脈に、私は困惑した。

「どういうこと?」


「天のオーラの人間と敵対した時、その人はきっと急襲してくる。それに備えるためには能力が一番の対抗策だからね。……それじゃあ早速、能力の修行を始めようか」


高鳴る胸の鼓動。

能力を使いたいという、異世界に来てからの私の望みの成就に、今一歩を踏み出そうとしている。


能力を使用した先に、どのような地獄が待ち受けているのか、この時にはまだ知らずに。

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