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29話:草を打って蛇を驚かす

場所は変わり、アキサとネウルスが対立している場所。


「スメラギ・アキサ、異世界政府軍所属の能力者です」

「政府軍……か。そろそろ解放してほしいんだけど」


目を合わせ、ネウルスは確信する。彼女が取るに足らない能力者であると。

彼が感知したオーラがその根拠としてあった。


対するアキサは────

「貴方に、聞きたいことが幾つかあります」


自身の目的として念頭に添えていたことを今、ネウルスへと尋ねようとしていた。

言われ、ネウルスは答えた。


「一応、聞いておこう」


目前に据えていた自分よりも弱い人間に、ネウルスは心に余裕を感じていた。

途端、アキサの表情が一変する。


「“スメラギ・コウイチ”という名前に聞き覚えはありますか?」


瞳の奥に内包された、静かな赫怒が垣間見える形相をした彼女のオーラはその際、飛躍的に向上した。

その量は、驚いたことにインデックスと同等までに。


今アキサの指示により、エランの手で安全な場所まで運ばれているインデックスは、少し前、ユウスの紹介によってアキサを一目見た時、こう言った。


『才能はありそうだ』


その言葉が今、当のアキサによって証明されようとしているのだ。


彼女の飛躍したオーラに少しの衝撃を受けつつ、ネウルスは彼女の問いに関して、自身の記憶を探った。

「……そのコウイチという男のことは知らない。だが同じ苗字を持つ、スメラギ・アヤネとその夫は年齢的に売り物にならなく、どこかの国へ解放した筈だ」


アキサは表情を変えずに、彼の言葉を受け止めた。

だが、アヤネというのは彼女の母であることに間違いはない。故に、アキサは内心、いたく喜んでいた。


ただ、コウイチが行方不明であることは引っかかっていた。


ネウルスは、アヤネの名を正確に覚えていた。

それはつまり、彼、もしくは彼の部下が人身売買に出した人間の名を、一度は目に通しているということ。


それを一つ一つ記憶しているのならば、コウイチの名も覚えている筈。そのために、アキサは引っ掛かりを覚えていたのだ。


ただ、知らないと言うならば、本当に知らないか、秘匿する必要性があるのか、大まかにその二択の可能性がある。

アキサはその前者であると踏み、弟が自分と同じように、善き能力者に救われたのだと思うことにした。


「そうですか。ありがとうございます」

「情報提供したんだし、逃がしてくれるとありがたいんだけど。今日はもう、さっきの人でお腹いっぱいだしさ」


ネウルスはそう言ったが、アキサがそれを承諾するわけがなかった。

アキサは体全体を纏って尚、有り余るそのオーラの全てを炎に変化させる。


その熱量に、ネウルスは圧倒された。

「凄いな。人の心はオーラをここまで強くするのか」


ネウルスは消耗したオーラの残りを功力である四本の触手として顕現する。

「悪いけど、俺も暇じゃないんだ。ヘビの再建に着手しないといけないからな」


対するアキサも、功力を発動するに至る。

「なら、なおさら私は貴方を止めますよ」


彼女が功力を発動した瞬間、ネウルスの目に飛び込んだのは、彼女の周りに生じた落雷の如し“火柱”であった。


アキサは火柱を立てながら、ゆっくりとネウルスに近づいて行く。対する彼は、彼女の周囲に立つ四本の火柱の隙間を突くようにして、触手での攻撃を試みる。


だが、触手は瞬く間に焼き尽くされた。

彼女の功力は、目で追えぬような速度で動くのだろう。つまり、攻撃範囲に踏み込んだ時点でわけも分からぬまま、攻撃を受ける可能性がある。


よってネウルスは一度、全身にオーラを纏い、防御力を極限まで高めた。

アキサが攻撃に転じた瞬間の、カウンターが目的だ。


するとアキサは一度足を止め、両手を水平方向に伸ばした。

同時、ネウルスと彼女を大きく円上に囲う形で、火柱が立ち昇る。


それを見たネウルスは、彼女へと問う。

「俺をこの場に留めるつもりか?」


だが、彼の問い掛けとは裏腹の答えを、アキサは授けた。

「いえ、違いますよ。これが私の功力の発動条件です」


瞬間、等間隔に並んだ火柱のそれぞれが肥大化する。そして繋がり、巨大な火の壁となる。

驚くネウルスに、アキサは少し説明することにした。


「私が生み出すこの火の柱は、生み出す際に一つ一つ座標を設けます。だから発生させた暁、それを動かすためには、一度消す必要があります。そして、同時に発生させた火柱が円環を成したり、繋がることで特定の範囲を囲うに至った場合、私の功力は初めて発動するすることができるんです」


それを聞き、ネウルスは少し身構える。だが焦燥や恐怖の類は一切無かった。


功力によって能力に付与できる能力は自由自在。だが、制約と同じようにある程度の上限は存在している。

自身のオーラ量にそぐわない性質や、支離滅裂な性質。


それらは自身で定めたとしても、再現することはできない。


よって、アキサの功力が“触れただけで死ぬ”などという性質でないことは明らかだ。故に彼の心は安定していた。


とはいえ、警戒はしている。

だからこそ、ネウルスはオーラの集約による身体の防御力の向上を解除しなかった。


それを確認したうえで、アキサは功力を発動する。

火柱で囲われた部分に、莫大なオーラ量を含有した炎の渦が発生する。そう、それはまるで火災旋風のように。


火の塵旋風はネウルスのオーラを貫通して彼の体を焼いた。

結果として、彼は両足で立つことが難しくなり、両の膝で跪くに至った。


そんな彼へと、近づくアキサ。

「威力は調節しました。殺しはしないので、安心してください」


そして指をパチンと鳴らすと、アキサを見上げるネウルスを火の能力によって気絶させた。

それから熱を帯びない火の功力によって縄を生み出し、彼の手足を拘束する。


「捕獲完了……っと」


    **


アイが剣でトーカのオーラを粉砕した時、アイは遠くで立ち上るアキサの火災旋風を視認していた。

だが、それが誰のオーラであるかは、上手く感知できなかった。


アイの感知を妨げる形で、トーカのオーラが強くアイの気を引き付けていたから。


「あなた……やるわね」

「どうも」


隣で驚きを感じていたメル。それに対して冷静なアイ。

両者を少し見た後、トーカは警戒態勢へと突入した。


同じ天の能力者。故に、アイのオーラの悍ましさを身を通じて感じていたからだ。

『氷の女よりも、こっちの女を警戒するのは妥当。天の能力者である以上、何を具現化し、どう活用するのかは当人の自由。故に、その不透明さが戦闘においては足を引きずる』


一方のアイは少し余裕を感じていた。

『この人……強いな。仲間にでもしたら心強そうだ。それに、この政府軍の人も中々のオーラ量だ』


そしてメル。彼女は二人の天の能力者に邂逅したことにより、その気分は少し高揚していた。

『さっき功力らしきものを発動した時、この子のオーラを感じなかった。つまり、この子は天の能力者ってことよね。天の能力者と戦う機会なんて、生きててそう多い回数はないわよね。一度に天の能力者二人と出会えるなんて、かなりラッキーね』


その場にいた三者、ほぼ同時にオーラを解放する。アイは隣のメルへと訪ねた。

「政府軍さん。私の援護を頼めますか?」


それを聞いたメルは、彼女のことを多少信用せざるを得ない心情となっていた。

「貴女……ほんとに私たちの味方してくれるのね。どうして?」

「それ、今重要ですか?」


会話の中途、トーカが二人目掛け、具現化した銃によって発砲した。


アイとメルは反射神経に加えてオーラによって補強されたその高度な反応速度により、メルは氷の壁の具現化、アイは単に体を捻ることによりその弾丸の着弾を避けた。


二人は一度トーカから距離を取り、アイはメルへと焦った様子で言った。

「ちょっ……! 今、あの人、鉄砲撃ってきませんでした!? あり得なくないですか!? あんな精度の功力!」


そんな彼女に、メルは言った。

「彼女の能力は、私が確認した限りでも銃、剣、盾の三つ。どれも精密な具現化で、本物と遜色ないレベルの武器よ。ちなみに、剣は通常のものと大剣の二つ。その斬撃もオーラによって具現化され、飛ばすことで攻撃できるみたいよ。注意して」

「……理解しました」


言葉ではそう言っていても、アイは既に、トーカのオーラを感知した時点で理解していた。

“彼女は、あの寿命商売のおばさんと同じようなオーラをしている”と。


以前、アイがトルンドにて接触した寿命商売を生業とする老婆。

アイは彼女のオーラを鮮明に覚えていた。天の能力者として初めて感知して、天の能力者のオーラ。


それはアルガヨにいたディーチなどの天の能力者のようなものの比ではないほど、グロテスクなものであった。人の命をやすやすと踏みにじるような、そんな雰囲気を醸し出すオーラ。


その片鱗が、トーカにも垣間見えた。それが意味すること────

彼女も寿命商売の道を通った人間であるということだ。


そしてその産物を何らかの形で、能力に利用している筈だ。でなければ、あれほど精密な具現化を可能にする術はないだろう。


アイはそのように判断した。

そして彼女はトーカに向かって走り出す。


故に、メルは援護に回った。


アイの動向に、警戒心を貼るトーカ。彼女は自身を中心として、複数枚の盾を具現化し、防御に転じた。

一方のアイは、その盾の前で強く地面を蹴り、宙で回転し盾の壁を容易に突破した。


その向こうで銃を構えるトーカの姿が、アイの目に飛び込む。


凝縮された時間、絞り出された一滴のように、アイにはその時が長く感じた。

放出された弾丸、それがアイへと向かう間、アイは功力を発動する。


脱却を経て、アイの功力は進化を迎えていた。

引力と斥力。自身の手で触れることが発動の条件。しかし、今の彼女の功力のそれは、異なるもの。


自身のオーラを原子レベルの大きさで辺り一帯に放出し、そのオーラの粒子を浴びたもの全てに、アイは引力と斥力を発動させることができる。


そしてアイは先程、剣にてトーカのオーラの塊を粉砕している。それ即ち、刀身に付与したオーラがトーカのオーラと結び付き、一緒に散乱したということ。


アイはその際、剣を消去して結びついたオーラを原子レベルまで分解することにより、トーカにオーラの粒子を浴びせることに成功していた。


したがって、アイは宙にてトーカに対して斥力を発動するに至る。

強力な斥力を受けたトーカは、地面に体を押し付けられた。よって、銃口の向きが狂う。


アイ、そしてメルはその隙を見逃さなかった。

「政府軍さん!」

「わかってるわ!」


メルが氷の功力を発動し、再びトーカを氷漬けにする。

今度は残ったオーラの殆どを消費した、強靭な氷である。故に、そう簡単に抜け出されることはないだろう。


「クソっ……! またか……!」


身動きが取れなくなったトーカにアイが接近する。

「不憫だよな。いかに功力が優れていようとも、対峙した時に勝るのは明かされた情報の少ない者。結局、不意打ちが一番の武器だなんて」


そう言い、彼女はオーラの込められた拳により、トーカの顔面を殴り、気絶させた。

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