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27話:蛟竜毒蛇

アイは走っていた。


ラントとの戦闘後、彼女は自らの体にすぐさま治療を施し、回復を経た。

その足で向かうのは、遠くで感じる、強靭な天の能力者────インデックスの元である。


この穴の中で最も強力なオーラ同士がぶつかり合うその場所、アイはそこに組織のボスがいると考えていた。


アイはユウスのあのおぞましいオーラを、肌身を通じて明瞭に覚えている。

ネウルスと思われた者を殺して尚、この穴の中で彼のオーラが戦闘に赴いているということは、あのネウルスは偽物であったと考えるのが自然だ。


故に、アイは走っていたのだ。本物のネウルスの元へと。


一方、アイが走り出してから少しして、ユウスも始動した。

彼はインデックスの元へと向かうのではなく、周囲に散らばっていたヘビのメンバーたちを狩ることに専念することとした。


そこには、インデックスへの絶対的信頼がある。


ユウスには革命家と対峙し、死にかけた過去がある。その時、自分を救ってくれたインデックス。

命を救われておいて、信頼しないのは間違っている。


ユウスは彼の強さを心の底から信頼していたのであった。


    **


『おかしい……これほど攻撃を当てているのに、俺の毒が一向に効く気配がない』


ネウルスは脳内にて、些か困惑していた。

確かに、インデックスの体内には、ネウルスの功力によって毒が蓄積されていた。


だが、彼は体内を常にオーラで飽和するという無茶苦茶な策を取っているため、毒の効力は殆ど失われていた。しかし、このままいくとインデックスのオーラはすぐさま底をつく。


故に、インデックスは戦闘を急ぐ筈であるが、彼はそうでなかった。

少し離れた位置からこちらへと急速に近づく、“彼女”のオーラを既に感知していたから。


とはいえども、インデックスは自身の実力でネウルスとの決着をつけるつもりでいた。

インデックスは、オーラを塊にし、銃弾のように勢いよくネウルスへと射出する。


ネウルスはそれが功力であることの可能性を考慮し、自らの体を宙で極度に捻ることにより避けた。

瞬間、宙にて隙が生じたネウルスに、インデックスは凄まじい速度で彼へと近づき、その腹部へと拳をくらわせた。


その威力は凄まじい程で、ネウルスは血を吐きながら、後方へ吹き飛ぶ。

攻撃が当たる、それはインデックスの功力の開始を意味していた。


地に転がるネウルスへ、インデックスは言う。

「起点だ。次はこの威力の2乗をくらわせる」


加速する焦燥。ネウルスは一度距離を取るため、後方へと飛んだ。

焦慮、しかし冷静さを欠いてはいない。ネウルスは触手を四つに増やし、二本で着地、もう二本でインデックスからの攻撃に備えた。


だがその時、インデックスは既にネウルスの元へと飛んでいた。攻撃の手を緩めないためだ。


彼は触手が増えたことに気が付かず、そのままネウルスに殴り掛かった。

故に、腹部を二本のオーラで貫かれた。


吐血。同時、インデックスは怯むことなく二度目の拳をネウルスへとくらわせる。

肩に彼の攻撃をまともにくらったネウルスは、先の威力の2乗の威力が肩へのダメージとして入り、右肩はもう使い物にならなくなってしまった。


右肩を押さえ、無表情のまま俯くネウルス。

そんな彼の顔面へとインデックスの三度目の攻撃が襲い掛かる。


死すらを覚悟したその時──ネウルスは思い出していた。

自身の過去についてを。


    **


俺は────自由だった。そうだ。自由だった。

握りしめた一枚のコインが高価に感じられた頃、街の外れにある駄菓子屋に駆け出すあの時だけは、自由でいられた。


俺の家庭は貧しかったから、事あるごとに消費者金融に頭を下げては、生活の足しにもならないような金額を借金していた。俺達家族が懸命に生きようと藻掻き、藁にも縋る思いで彼らの元へ出向いても、とどのつまり、揶揄われて終わりであった。


だが、そんなカスみたいな金額でも、借金は借金だ。

俺が物心ついた頃には父母は共に消費者金融の者たちに殴り殺された。借金の長期滞納が理由だ。


とは言え、やり過ぎだ。

そう判断した近所に住む者が、異世界政府軍へと連絡を入れ、俺達家族を崩壊させた消費者金融は政府軍によって倒産した。


身寄りのなくなった俺は、その後少年院へと送られた。

そこで出会ったのが──


「俺は『トラド・バラン』。お前は?」

「僕は……ネウルス。……ただのネウルス」


苗字は言わないよう、両親から言われていた。私達の息子であると知れたら、恥をかくだろうから、と。


俺とトラドは互いに歳が近く、直ぐに仲良くなった。そして少年院の外にある自由を夢見て、日々談笑した。


少年院に来てから半年程経った頃、トラドは俺に言った。

「なあネウルス。お前、人を殺せるか?」


唐突な質問に、幼かった俺は当然のこと、困惑した。

「えっ? えっと……僕は……」


そんな俺を、彼は笑った。

「あはは。冗談だよ冗談」


その時は、本当に冗談なのだろうと、俺は思っていた。

だが、後に彼にその時明確な答えを授けなかったことを後悔することになる。


翌日、トラドは俺の隣で死んでいた。

そして彼の傍らには、法務教官の屈強な男も横たわっており、彼も同様に、首と胴体が泣き別れとなり死んでいた。


何があったのか、当時は知る由もないことであったが、後にヘビの情報収集家に依頼するとその真実は明らかになった。


トラドは法務教官を殺そうと試みたらしい。恐らくその目的は、俺や他の子達と共に少年院の外へと出るため。

当時、少年院には「外へ出てはならない」という鉄則のルールがあり、それを破った者は例外なく消息を絶っている。


だが、俺達は外の世界に自由を求めた。だからこそ、トラドは俺と協力して法務教官を殺そうとしたのだろう。


しかし、俺はあの時、言葉をつまらせてしまった。

もしもあの時、俺が彼に協力できるという姿勢を見せていたのなら。今でもそんなことを考えることがある。


トラドは法務教官を殺す際、せめて俺だけでも自由にさせるため「相手を殺せるだけの威力を引き出す代わり、自らの命を代償とする」という制約を自らに課し、相手の命を絶つと同時、自分も命を落としたのだ。


トラドが横で死んでいる中、俺は窓から見た。

他にいた少年院に収容されていた子供たちが、一斉に施設の外へと飛び出していくのを。


この少年院は小さく、法務教官の人数は死んだ彼一人。そのことを理解していた子供たちは、外に自由を求め飛び出したのだ。


そんな中、親友の死体を見て唖然とする俺に、手を差し伸べた者たちがいた。

順にその名を、ラント、トーカ、ミウイ。


「お前、名前は?」


そう言われ、俺はトラドの顔を思い浮かべていた。


俺達は自由を求めた。毎日、繰り返し夜空に願った。

だが、天が俺達に授けたのはクソみたいな現実だった。


だから、トラド。お前は自らの手で自由を勝ち取ったんだ。そしてそれを手放し、俺へと授けた。そうしなければ、俺を自由にできなかったから。


トラド。俺達は兄弟だ────

「ネウルス・“バラン”」


そして自由だ。


    **


ヘビを組織し、この世界の不条理を壊す。

欲しいものは全て手に入れ、したいことは全てやる。


……その筈だったのにな。


ネウルスの手前、インデックスの拳が徐々に己の顔面へ近づいてくるのを、ネウルスはコマ送りのようにゆっくりと見ていた。

『これが走馬灯……というやつだろうか』


そんなことを思い浮かべていると、ネウルスはふと気づいた。

ゆっくりになっていたのは、インデックスの拳であると。


彼のオーラが底をつき、その体に毒が飽和してしまったのだ。

ネウルスは拳を避け、倒れてくるインデックスを体で受け止めた。


インデックスの意識は、既に無かった。


ネウルスは彼を地面へと突き飛ばし、一息吐く。

「ふぅ……何とか、助かったな」


『危なかった。初撃の3乗の威力を顔面にくらっていたら、恐らく俺は死んでいた。……にしても、これほど長くオーラを体に飽和させ続けることができるとはな。異世界政府軍、やはり侮れないな』


ネウルスは四本のオーラを大きな一つにまとめ、強度と威力を向上させた。そしてそのオーラの先を地面に横たわるインデックスへと向ける。

「じゃあな。インデックスさんよ」


そしてネウルスは、オーラを彼の体に突き刺そうと試みた。


その瞬間。目でも感知でも追えぬような速度。

インデックスの体はネウルスのオーラの向かう先から、いなくなった。


同時、ネウルスの背後から声がした。

「インデックスさん。お疲れ様です」


彼が振り返ると、そこには一人の少女の姿。

「貴方が、ネウルス・バランですね」


ネウルスは彼女の姿を視界に入れると同時、彼女へと尋ねた。

「君は……誰だ?」

「スメラギ・アキサ、異世界政府軍所属の能力者です」


    **


遡ること十数分前。

瞑想の修行を開始してから二日半が経とうとしていた。


よってアキサはヘビの本拠地へと向かうため、あの真っ白な空間から外へ出た。

エレベーターにより最上階から一階にまで降りると、そこには三人のスーツを着た男達がアキサを待ち構えていた。


「アキサ様。お待ちしておりました」


手を前に重ね、お辞儀をする三人。そんな彼らの姿を見て、アキサは無論戸惑った。

「えっ? えっと……取り敢えず、頭を上げてくれると有り難いです。というか誰ですか? 貴方たち」


周囲の目を気にし、アキサはそう言った。

横に並んでいた彼らの内の一人が前に出て、彼女へ、頭を上げて言う。


「私は『ウォルス』。インデックス様直属の部下です。貴女様のことを手伝うように、インデックス様から命令を受けております」


アキサは脳内で思案を巡らせた。

『このビルは政府軍の人、若しくは許諾を貰った人しか入れない。つまり、彼らが嘘をついていることはない。インデックスさんの部下……か。よし──』


「それじゃあ、私今からヘビの本拠地に行くんで、その援護をお願いできますか?」

「ええ。容易い御用です」


アキサはシアラーをつけたまま、ワーパーを装着し、彼ら三人と共にトルンドの国境付近へと飛んだ。


アキサは三人へと言う。

「さてと、それじゃあここからジョーガルまで直線距離で進みましょう」


その時、三人の内の一人が言う。

「アキサ様。申し遅れました、私『エラン』と申します。私の能力を活用していただければ、目的地まで一瞬で到達できます」

「へぇ〜。どんな能力なんですか?」


興味と見方の能力を把握しておきたいという気持ちから、アキサは尋ねた。

すると、エランは自身の功力を発動した。


瞬間、アキサらの目の前に“車”が具現化された。

原寸大、エンジンの音。それはまさしく、車であった。


「……マジですか」


アキサはエランが車を具現化したことに対して、驚愕する。物体を具現化するということは、天の能力者であるということと、具現化するまでの過程で、その物を十分に熟知し脳内で容易にその隅々を再現できるに至る必要があるからだ。


「さっ、お乗りくださいアキサ様」


ドアを開け、車へと招き入れるエラン。

彼自身は運転席、ウォルスが助手席、そしてもう一人の男はアキサの隣へと座った。


車が動き出し、尚の事驚くアキサに、隣の男は言った。

「アキサ様。私は『ギルト』と申します」

「あ、よろしくお願いします」


その後で、彼は続けて言う。

「仕事の都合上、今からアキサ様には、私たちの能力を把握してもらいます。良いですか?」

「ええ勿論。ついでに私の功力もお教えしますよ」


それからアキサは彼ら一人一人の能力を説明され、後に自身の功力を説明し終えた頃、彼女らはヘビの本拠地へと辿り着いた。


巨大な穴が空いていることに驚きつつ、アキサはウォルスとギルトにメルとラントの援護を任せ、自身はエランと共に穴の中へと飛び込んだのであった。

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