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26話:蛇に見込まれた蛙

穴の上、地上にて。

政府軍メルとヘビ所属の女とが対峙していた。


メルが訊く。

「貴女、名前は?」

「……『トーカ・キジラ』」

「そう。私はメル・テラスドラよ。よろしくね、トーカ」


トーカが彼女を見る。

『この女、分類付与によって氷のオーラを作り出していた。となれば、その威力は元よりも乏しい筈だ。そこを叩く』


メルが彼女を見る。

『……オーラを感知できない。恐らくは天の能力者ね。先程オーラの弾丸をインデックスに放った時でさえ、オーラを感知できなかったのだから』


トーカ・キジラ。

寿命商売を生業とした天の能力者である。故に彼女の寿命は残り230年ある。


寿命商売とは、相手の寿命と引き換えにその相手の望みを叶えるというもの。だが実際それは公正な取引などではなく、寿命を差し出した当人のみに喪失を被る取引である。


「寿命を削る」加えて「削った寿命を他者へ差し出す」という、人間が最大限差し出すことのできるような“制約”において自身の願いを叶えているに過ぎないのだ。無論、制約のみでは願いというものを叶わせることができぬため、基本天の能力者である寿命商売の主の能力による補助も同時並行で行われている。


アイとアキサの師エリナは、以前「今この世界に存在する天の能力者はたったの六人」という風に彼女らへ教えていたが、それは計測上の数値であり、寿命商売の人間や犯罪組織の人間のように、政府から認知されていない人間は、その数に含まれていないのだ。


トーカもその内の一人、ということ。

彼女やネウルスのように、政府軍にそのオーラの分類を知られていなかったり、経歴が無い存在は「未確認能力者」と呼ばれる。


メルに対し、トーカが仕掛ける。

彼女は自らの手中に本物と遜色ない拳銃を生み出し、その中に装填された実弾をメル目掛け、撃つ。


至速により警戒を怠っていなかったメルはその結果として、自身の足元から自分自身の盾となれる程の大きさの氷の壁を生み出し、寸前にして弾丸を防ぐことに成功した。弾丸は分厚いその氷の壁に亀裂を生じさせ、やがてメルが能力を解いたことにより、それは彼女の手中へと吸い込まれた。


弾丸をまじまじと見ながら、メルはトーカへ言う。

「この精密さ、再現するには余程の時間と労力を費やさなければならないはず。貴女、若いのに大した努力家なのね。そこだけは褒めてあげるわ」


メルが何か勘違いをしているようなので、トーカはそれに便乗することにした。

「それはどうも」


そんな彼女の目を見て、メルは彼女が嘘をついていると理解した。

『この子、嘘ついてるわね。……だとすると、どのようにしてあの拳銃を具現化するに至ったのかしら? もしありとあらゆる武器を今のような速度で、尚且つ本物と遜色のないレベルで具現化できるとするのならば、それは非常に脅威だけれど』


故に、メルは彼女の手札を探るため、防御の姿勢に入る。

自身の能力を鎧のようにして纏い、身体の防御力を極限まで向上させる。先の氷よりもオーラの量を上げ、強度を上げた。

故に、そう簡単にはこの鎧は突破されない。


全身に氷を纏ったメルは、トーカへと告げる。

「貴女の実力、測らせてもらうわ」


途端、トーカは無表情のまま残弾を打ち尽くす。メルは放たれた弾丸を氷の壁にて防ぐ。


その間、一時的に閉ざされた視界の奥から、氷を突き破る形でトーカが剣を具現化し、メルを襲った。

彼女の顔面目掛け、突き出されたその剣は、彼女に触れる寸前、突如としてその剣先が伸びた。


既に避けるために仰け反っていたメルの頬に、その剣先は伸び、彼女の頬を掠めた。


メルはトーカの足元の地面を凍らせることにより、彼女の足を滑らせ、剣の軌道をほんの少しズラすことに成功したのだ。


そうでなければ、今頃メルの瞳は使い物になっていなかった。


メルはトーカの剣を見た。そして今起こったことを理解する。

彼女が氷の壁を突き破ったのは一般的な長さの剣。だが、今彼女が持っているのは大剣。


つまり、攻撃の瞬間トーカは、剣の具現化を解くとほぼ同時、大剣を自らの手中に具現化し、剣先が伸びたように見せかけた。


そう理解してから一息つく間もなく、トーカは次の攻撃を仕掛けた。

次、彼女が具現化したのは、またもや剣であった。


彼女が剣を振るう瞬間、その刹那。メルは剣を能力によって受け止めようとしていたが、その剣の刀身に込められた異様な程のオーラを見て、高く飛ぶことにより避けることに決めた。


トーカがその剣をメルに対して横薙ぎに振るう。


瞬間、斬撃が多大なオーラにより、形となって放出された。それは地と平行に直進し、メルの背後にあった建物の瓦礫を綺麗に真っ二つにした。


その驚異的破壊力から、メルは今の攻撃は功力によるものであると推測した。

トーカは同様の手段で攻撃を続け、メルはオーラの補強による移動速度の上昇で彼女の斬撃を回避し続けた。


攻防の最中、メルはトーカを分析する。

『精密さを求められる武器の具現化と、豊富な攻撃手段。この子が天の能力者であるという事実よりも“何か”大きなことが彼女の能力には関わっているような気がする』


その勘とも形容できうる推測は、メルの動きを鈍るに至らせた。トーカの能力の殺傷力は、あの切れ味を見るに恐らく、自身の鎧を簡単に突破するものであるから。更に、“何か”が攻撃力をより一層強くすることが可能であったのなら、怪我どころでは済まないだろう。


ならば、先手必勝。

メルは攻撃の合間、強く踏み込み、トーカとの距離を一気に縮めた。その時、トーカの斬撃により、鎧は半壊したが、メルはそんなこと、気になどしていなかった。


彼女は「トーカに攻撃を当てる」というそのことにだけ集中したのだ。体に傷をつけられながらもトーカへと直進する彼女の瞳は、どこか狂気を帯びていた。


そして、メルはトーカに触れることに成功する。

瞬く間、メルはトーカの下半身と腕を氷漬けにし、固定した。肌の表面を凍らせると同時、それを地面から生やした氷の塊によって更に凍らせたため、そう易易と破ることのできない固定の術だ。


鎧は跡形もなく消え去り、服はズタボロに、肉体からは斬撃による幾つもの負傷箇所から血が滴り落ちているメルは、固定したトーカの正面にて胡座をかいた。


「……さて、私は貴女を殺すつもりはないのだけれど、貴女はどう?」


今まで冷静沈着でいたトーカが、呼吸を荒げながら歯を剥き出しにし、赫怒の表情を浮かべるのを見て、メルはそう言った。

「ふうっ……ふうっ……! お前を……! ぶっ殺してやる……!!」


冷静さの欠片もないトーカを見て、メルは嘲笑した。

「ふっ……無様ね」


    **


少し離れ、ケイルと一人の男。

ケイルが言った。


「正直、戦闘なんて俺は面倒くさいんだ。話し合いで済ませないか?」

「悪いが、俺は戦闘が好きなんだ。自分の強さを誇示するのに役立つからな」


戦闘狂と対峙した時、戦闘から免れることはできない。数多くの戦闘経験を積んだケイルにとってそんなことは、地球が自転をしているのと同等程度の常識であった。


「……仕方ない」


ケイルはそうとだけ告げ、構えた。彼の戦闘の方法は、定まっていた。

『能力はいざという時だけにしか使わない。副作用がデカいから』


オーラの基本的な操作による身体能力の向上。それのみにて、相手を葬る。

勿論、相手は能力やら功力やらを使用して戦闘に臨んでくるため、ケイルの方が不利である。


しかし、ケイルには、常人離れしたオーラ量がある。

それこそインデックスには多少劣るが、彼と同じ程度の量だ。


ケイルはそのオーラを、一気に解放した。そして、オーラを両の拳に集約させる。

「勝負だ。ヘビ」


すると忽ち、男はケイル以上のオーラを全身に迸らせた。

ケイルはそれに驚愕する。今まで自分以上のオーラを誇る人間を、たった一人を除いて見たことが無かったから。


男は言った。

「そう言えば、まだ名を聞いていなかったな。俺は『ミウイ・シュイ』だ。お前は?」

「ケイル・アインだ。……さすが戦闘好きだな。俺以上のオーラの持ち主なんて、数年ぶりに見たよ」


同時、ケイルはそれなりの犠牲を払う覚悟無しでは、この男に勝てないと悟った。そのため、ケイルはオーラを全て抹消し、言った。

「よしっ、やめだ」


瞬間、彼の足元の地面に数え切れない程の花と雑草が生い茂った。

「小細工無しじゃあ、お前には勝てなさそうだ」


雰囲気が急変し、オーラが一切なくなった。だがその代わりに、花萌葱色のベールのようなものを体に纏っていた。だが、それ自体にオーラは感じない。


そんな彼の体裁を見て、ミウイは口元に笑みを浮かべた。

「その特徴的な雰囲気、姿。『生命の能力者』だな?」

「ああ。その通りだ」


派生オーラ“生命”。

オーラ全体を十とした時、火三、水三、土四といった程度のオーラの合成により生み出されるこのオーラは、その名の通り生命を生み出すことのできるオーラである。


「生命の能力は、ハイリスクハイリターンなんだ。だから基本的に、弱い奴には使わないようにしてる。だから誇っていいぞ、ミウイ・シュイ。この俺の功力を見れることをな」


彼の言葉と共に、ミウイが鼻血を流す。

同時、一方のケイルは口から血が流れ落ちた。


「時間がない。雌雄を決するのは早めにしよう」


    **


「俺の功力の性質。お前にわかるかな?」


インデックスに煽るようにして問われたネウルスは、今起こったことを脳裏で分析しつつ、答えた。

「攻撃の度、倍数とは比にならない程度の威力の向上。自乗……いや、『累乗』ってとこかな」

「その通り。俺の能力は『累乗』だ」


インデックスは自らの功力について説明を始める。

「功力の起点、俺がオーラを込めた拳で対象を殴った時その威力を、例えばの話2とした時、次の攻撃の威力は2の2乗、4となる。つまり打撃が当たった分の回数乗ということだ。ちなみに、上限は5乗だ」


ネウルスはその説明を受け、脳内で少々の思案に浸っていた。

『累乗……か。かなり厄介な功力だな。上限が5乗となると、起点の威力が計り知れないものであった場合、それをまともにくらうと取り返しがつかなくなる。……いや、次の打撃の威力は自らのオーラ量で起点の威力を再現する必要があるのか? もしそうでなかった場合、理論上はオーラを込めていないヘロヘロの打撃でも起点の威力の2乗となる。……何にせよ、初撃をくらわないということが、今の俺にできる唯一の対処法だ』


ネウルスがインデックスを睨んでいると、瞬間、彼は瞬く間にして彼の視界から消えた。ネウルスは感知で彼の行方を追う。


──上だ。インデックスは上空へと飛び上がっていた。


手中に収めていた小石を、彼はネウルス目掛け、勢いよく投げ飛ばす。

ネウルスはそれをオーラの解放のみにより、弾いた。


刹那、上空にてインデックスは考える。

『奴の功力は、毒を含んだオーラを任意の方向に曲げることのできるもの。少なくとも、視認した限り。これが厄介だ。体の表面をオーラで覆ったところで、奴の毒は防ぐことができない。つまりは、簡単に近づくことができない、中距離タイプの功力ということだ。それに比べ、俺は近距離タイプの功力。……本当、厄介な好敵手だ』


インデックスとネウルス。

彼らの戦闘において勝敗を分かつのは、単純な功力のみでの戦闘ではなく、その戦略。


そのことを理解していた両者は、再度互いを難敵であると認識するに至る。

同時、インデックスは落下すると同じくして、ネウルスに向け、オーラの塊を投げつけた。


『触れた瞬間、爆ぜる』というその性質を付与されたその塊は、ネウルスが避けたために地面にて弾け、地を抉った。

後方へと飛ばされたネウルスは、功力のオーラを二本、地面に突き刺し、体勢を立て直す。


インデックスは着地すると同時、それを見て理解する。

『なるほど。本質は毒ではなく、強靭な強度を誇るオーラを触手のように扱えることか』


次にネウルスがインデックスの姿を視認した時、それはインデックスが彼の顔面を左拳で殴りに掛かってきていた時であった。

だがその拳はネウルスのオーラによって弾かれ、軌道が逸れ、地面へと直撃した。

瞬間、地面が先程インデックスが拳で何度も叩きつけ、掘られた時と同じ深さに凹んだ。


刹那、ネウルスは推察に至る。

『地面が先程と同じ深さにまで削れた。それ即ち、彼の攻撃力が先より落ちていないことを示す。5乗だ。……だが今この人は、打撃を連続で当てるどころか、功力の起点と言ってもいい初撃である筈であった。俺の顔面を目掛け、殴るということは、功力を発動していたということであるから。つまり、時間の経過による功力の解除はない。そして、対象が同一のものであれば、その回数は続きからカウントされる。そのように考えていいだろう』


地面という同一の対象を殴ったために削れた地面の底、しゃがんでいたインデックスは静かに立ち上がり、ネウルスの方に向かうため、強く地面を蹴った。


勢いよく飛んだインデックスは、再度仕掛ける。

自身の体を蝕む毒など、その一切を気にせずに。

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