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22話:摂理と脱却、灰吹きから蛇が出る

「『摂理』。これは言葉通り、この世の摂理を表す。能力者同士の巡り合わせは、神によって操作されているとする考え方だ」


「急に何を言いだしたのだろう」と、アキサはほんの少しだけ顔を顰めた。何せ、倫理や定説などという事柄は、彼女の苦手とする分野であったから。


インデックスは続けた。

「アキサ。確かアキサには亡くなった師がいると聞いたんだが、合ってるか?」

「……ええ、まあ」


唐突にそう言われ、アキサは少し驚きながらも、彼の言葉に耳を傾け続けた。

「予想しようか? その師匠さん、恐らくは“功力”を知らなかっただろう?」

「功力……? 何ですかそれ」

「うん?」

「えっ?」


アキサは功力の存在を知らなかった。そこでインデックスは呆れながらも功力というものを説明することに。

「功力というのは、難しく言えば至速の応用だ。簡単に言えば、能力に対して自由な性質を付与できるというもの。俺も実際、戦闘時においてはこの功力がメインだ」


説明を受けた時点で、アキサの頭上にはクエスチョンマークが浮かんでいた。インデックスはそれを悟るように、例示をすることとした。


「少し具体例を出そうか」


そう言うと、彼は両の手を五指を合わせる形で己の胸の前に出し、その手で形成された間にある空間にオーラを流し込み、オーラの塊を具現化した。


その塊は、アキサの目に飛び込んだ。


「今、俺はこの手中で自分のオーラを固めた。そこで問題。俺はこの具現化したオーラにとある性質を付与した。それが一体何なのか、アキサには当ててほしい」

「ほうほう」


アキサは目を凝らし、彼のその手中にあるオーラの塊を見つめた。

そう、“見つめた”のだ。


オーラは通常、目で視認することができない。能力であれば話は別であるが、今、彼の手中にあるオーラはただの塊。

能力と呼ぶには少し拙いものだ。


よって、彼女は答えた。

「“目で見える”っていう性質、ですか?」


すると、彼は鼻で笑った。

「フッ、見事に引っかかったね。オーラは極限までその密度を高めることで人の目でも見ることができるようになるんだ」


アキサは唸る。未知の事実が彼女をそうさせた。

「じゃあ、どんな性質を付与したんですか?」

「このオーラの分類を感知してみようか」


言われるがまま、アキサは彼の指示に従った。

すると、そのオーラの分類は────

「これって……“雷”?」

「正解」


瞬間、アキサの脳裏で今まで得た情報と情報とがそれぞれ結びついていった。

「なるほど。功力であれば、付与した性質によってオーラの分類自体も変えられるんですね」

「そういうこと。この功力の技術を、中でも『分類付与』と言うんだ。但し、分類付与の威力はオリジナルのそれと比べると、出力はやや落ちるけれどね。そしてこの分類付与を利用したのが──」


同時、分類付与を利用してインデックスは右手に水のオーラ、左手に風のオーラを生み出した。そしてそれをわかりやすく、ぶつけるようにして混合させた。

すると忽ち、その混ざりあったオーラが“雪”へと変わり、彼の手中で、雪玉が生まれた。


「二つの分類付与で生じたオーラを混ぜ合わせることによって、新たなオーラを自ら作る。このオーラは『派生オーラ』と呼ばれるものだ。派生オーラは基本的に混ぜる割合によって変化する絵の具のようなもの。だからその組み合わせは数多くあるし、功力で与えた性質によっても簡易的な派生オーラを作ることはできる。故に、その組み合わせは無限大だ」


分類付与、派生オーラ。初めて耳にするその言葉は、アキサの脳内をかき乱した。

そんな彼女の様子を見て、インデックスは話を戻すこととした。


「ごめんごめん。大分話が脱線したね。今アキサに覚えてほしいことのメインは“摂理”と“脱却”だ。わかりやすく説明するから、もう少しだけ耐えてね」


それからアキサが耳にしたのは、彼女にとって、そして常世に暮らす殆どの人類にとって途轍とてつもない衝撃を与えるものであった。


    **


「『摂理』と『脱却』……ですか?」


時は遡り、アルガヨ国内。アイと首長は、ユキの家にて話をしていた。

その間、ユキは買い出しに出かけており、家の中にはいなかった。首長は敢えてそのタイミングでアイにその話をすることに踏み切ったのだ。


「ええ。本来、この話をするのは政府軍によってタブーとされているのですが、元よりアイさんは追われる身。そんな貴女に協力した我らも、政府軍によってその行為が明らかになれば、追われる身となるでしょう。なので、話したところで痛くも痒くもありません」


沈黙を挟み、アイは訊いた。

「……で、その摂理と脱却っていうのは何なんですか?」


首長は言う。「一から説明しましょう」と。

先ず彼は、摂理についての説明を始めた。


「摂理とは、主に能力者同士、転生者同士、能力者と転生者の巡り合わせの際に用いられる考え方です」


アイはその説明を静かに、時々相槌を入れながら聞き続けた。

首長は続ける。


「能力者同士はお互いに引力のように引かれ合い、転生者もそれと同様に引かれ合う。そして引かれ合うのが能力者と転生者の二者であった場合、転生者が転生した際に相性の良い者と引かれ合うとされています」


そこでアイは口を挟むことにした。

「……私には、エリナという名の師がいます。私は転生者として転生した際、彼女によって救われました。首長の説明で言うと、私と彼女の出会いは偶然などではなく、その摂理とやらで決まっていたこと。その認識で合ってますか?」

「その通りです。アイさんとユキが出会ったのも、アイさんと我々が出会ったのも、全て摂理という名の運命の上で操作されていたことなのです」


アイは思案に浸った後、「にわかには信じ難いことですね」と言った。

それに対し、首長は「ですが既に政府軍によって検証された事実です」と返した。


二者間に暫くの間、沈黙が滞った。それを破ったのはアイである。

「わかりました。取り敢えず、その摂理とやらは信じましょう。そのうえで、脱却とは何なのかを教えてください」

「ええ勿論。脱却というのは────」


    **


インデックスは言う。

「脱却というのは、外部から刺激を与えることによって、摂理を崩壊させること」


そこでアキサの脳内には、とある疑問が生じた。

「……? 何故そんなことをする必要があるんですか? 別に崩壊させる必要は無いんじゃないんですか?」


インデックスは問われ、答えた。

「確かに、アキサの言う事はごもっともだ。だけど摂理というのは、能力者同士の巡り合わせに関して、人間をある程度制約する概念なんだ。故に、摂理の上に立って生活している以上、人の強さにはいつか限界が来る。だから壊すんだ」


そこでアキサは彼の思考を悟った。

インデックスさんは自分より強い能力者と対峙した時に、その経験が自分を成長させると考えている人である、と。


確かに、そういった考えはアキサにとっても賛同できるものであった。

人は死地におかれて覚醒を果たす。そんな言葉を、どこかで聞いたことがあったから。


「……なるほど。ちなみに、どうやって壊すんですか?」

「先程も言った通り、脱却には外部からの刺激が必要だ。それ即ち、“能力者としての自分を殺すこと”を意味する」

「それってつまり……どういうことですか?」


能力者としての自分を殺害するというのはどういう行為に値するのか。

少しは考えようと試みたアキサであったが、結局その答えはインデックスへと尋ねることにした。


「これから三日間、アキサのオーラを強制的に使えなくする。この指輪でね」


そう言い、彼がポケットから取り出したのは、二つの指輪。

それはワーパーを彷彿とさせる形であったが、取り付けられていた宝石は白では無く、赤いものであった。


補足するように、彼はその指輪に対する説明を始める。

「これは『シアラー』。二者間でオーラをやりとりできる魔道具だ。こいつを俺とアキサにそれぞれ付け、俺がアキサのオーラを全て使用する。そうして二日も経てば、アキサは晴れて摂理に縛られる能力者ではなくなるだろう」


アキサは心の中でアイの顔を思い浮かべた。

その顔は暗く、淀みが溜まり、かつての彼女とは似ても似つかないものとなっていた。


アイは、一人で背負いすぎている。

革命家殺しとしてこのまま生きていたら、いつかは殺されてしまう。


アイの救済のためには、自分自身が彼女よりも強くなければならない。強くなれるのなら、アキサは自分がどうなろうと構わなかった。

心は決意で満ちていたのだ。


「原理はわかりませんが、それで強くなれるのなら私はそれで構いません。早めに始めましょう」


不敵とも形容できるであろう笑みを、インデックスは浮かべた。


    **


ジョーガル国内。

白髪のアイはゆっくりと歩いていた。


彼女は既に、首長との訓練の末に脱却を経ている。そしてそれからアルガヨを発つまでの期間で、周囲が心配する程の修行の量をこなし、かなりの力をつけていた。


そんな彼女に近寄る、一つの足音。

彼女はそれを目線のみで追い、背後、自分がギリギリ相手よりも先に触れることのできる距離にて振り返り、手を伸ばした。


しかし、そこに人影なんてものは無く、アイは少々混乱した。

彼女が明確に相手の位置を把握できていたのは、相手のオーラを感知し、足音さえも耳に届いていたから。


だがいざ振り返ってみると、そこには何もなく、呆気にとられてしまった。


瞬間、アイの視界はグラグラと不安定なものとなり、途端、意識を失った。

その彼女の背後に、佇む一人の男。彼のオーラは制限されており、その手には、先に何かが塗られた針が握られていた。


彼はアイの意識が無いことを確認し次第、彼女を背負い、国外へと歩み出した。


その目的地は、組織ヘビの本拠地。

革命家殺しアケバナ・アイは、至って呆気なく、ヘビに誘拐されたのであった。

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