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21話:鬼が出るか蛇が出るか

東側大陸イーストコンテ西端、アルガヨ。

一人の者の旅立ちをリウタウンの住人の多くが見届けようと、国境の端にまで集まっていた。


彼らの視線の先に映るのは、二人の少女。アイとユキの姿。

多くの者に見つめられながら、二人は話す。


「ユキ。君には本当に感謝してもしきれないよ。ありがとう」

「よしてくださいよ。私たちの仲じゃないですか」


互いに微笑み、最後に固い握手を交わす。

ふとアイが横に視線をやると、首長の姿が視界に入った。


彼の表情は穏やかで、尚且つアイのことを強く信頼している目をしていた。対しアイは、感謝の意を告げる眼差しで彼へと少しばかり微笑んだ。


訪れた別れの時。アイは馬車に乗り込み、多くの者の視線と声援とに包まれながら、アルガヨを後にした。


そして、馬車に揺られながらアイは思案に浸る。彼女の手には、先日全国に発行された、革命家ネウルスの指名手配書が握られていた。


『革命家ネウルス・バラン。犯罪組織「蛇」を統率している恐れあり。見かけ次第、至急連絡を』


強盗、殺人、薬物、密売、転生者販売、寿命商売。

数々の犯罪に手を染めている犯罪組織「蛇」。


その所属人数は一万を超えており、全国に発足している。数年前から発足し始めた頃より、その勢いは滞ることなく、現在は寧ろその程度が著しいものとなっていた。


そして、その筆頭が『革命家ネウルス・バラン』。

その事実はアイの心を揺るがした。


もしヘビの筆頭を潰し、組織全体を壊滅させることが出来たのなら、それは全国単位で犯罪の数が減るということ。加えて、統率している者が革命家なのなら、自分の目的の成就に一歩前進できるということ。


故に、アイは組織ヘビと向き合うことにした。


馬車に揺られながら、アイは御者へと告げた。

「すいません。今回も乗せてもらって」


今回依頼した馬車は、以前トルンドからアルガヨまで利用した馬車、そして御者と同じであった。

理由としては、アイは彼を信用しているから。


「いえいえ。アイさんのためなら、どこまででも飛んで行きますよ」


彼の名は『ヒュウゴ』。アイと同じ転生者である。

彼は親友を目の前で革命家に殺され、その命を犠牲として命からがらで難を逃れた。


そんな彼は革命家に激しい憎悪を抱いており、アイが革命家殺しだと自ら語った時、自分も手を貸したいとアイに申し出たのだ。つまり、彼も協力者である。


親友を殺された時から、復讐のために彼は革命家に関する情報収集を、密かに“情報屋”として続けており、その情報が今のアイの情報源である。

以前アイがジョウの犯罪経歴を把握していたのは、ヒュウゴからの情報があったからだ。


そして今回、彼女が所持するヘビに関する情報の殆ども、彼からのものである。


「ありがとう。ヒュウゴさん」


アイはそう告げ、引き続き馬車に揺られ続けた。


    **


アイの死を上書きする形でネウルスの指名手配が発行されたために、人々のアイの死に対する認識は格段に薄れていた。

だが、それでもアイは警戒を緩めない。革命家殺しというその所業が、世界に認められるその瞬間まで。


故に、アイは以前アルガヨを訪れた時のように、フードの付いた外套を深く被り、行動することにしていた。


そんな彼女が次に訪れたのは、『ジョーガル』。

この国は今、混乱の危機に陥っていた。理由としては、ネウルスが指名手配されたことに関係性がある。


ジョーガルには以前、ネウルスが滞在していた。そして表向き、革命家として国民へ支持を行っていた。故に、ジョーガルの住人たちは彼の存在を認知していたのだ。


そこに突如として流れ出した「ネウルスがこの国へとやって来る」という噂。誰かが何かの目的を持って、勝手に噂をでっち上げたのだろう。

その者の狙い通りかどうかはわからないが、その噂の影響もあり、ジョーガル国内には今、空前の国外逃亡ブームがやってきていた。


故に、アイがジョーガルへと辿り着いた時、人はすっからかんであった。

「……観光したかったんだけどな」


人一人いない国内を見て、そう呟くアイ。顔を隠す必要がないため、深く被っていたフードから顔を出し、深呼吸する。

それから“染めた白髪”を靡かせた。


指名手配から外れ、死亡扱いになっている。そしてネウルスの指名手配が発行されたこともあり、アイに対する記憶は薄れつつある。

とは言え、警戒は怠ることができない。


そこでアイは、髪を染めるという単純な対抗策を取った。一気に白髪にしたのだから、多少顔を出した所で誰かに見つかるなんてことは、今の状況であればそうそう無いこと。


アイはそのように考えた。


さて、それではそろそろ、アイがこの国を訪れた理由を説明しておこう。


先ずは前提として、アイは情報収集のためにヒュウゴと毎日のように文通をしていた。

その都度気になることは必ず聞くようにし、アイが揃えたい情報は今日この日までに大体揃っていた。


だからこそ「今ジョーガルには革命家がいない」という事実が頭に入っていた。

しかし、アイの目的は革命家の殲滅。ならば何故この国を訪れたのか。


それはひとえに、彼女がヘビの殲滅を志しているから。


この国には革命家がいない。つまりそれは、ある程度の秩序の安定さと不安定さとを意味する。

革命家ネウルスがいた頃のことをアイは知らないが、その当時、国民から熱烈な支持を得ていたとするのなら、それは国全体が彼の手によって安定していたのかもしれないということ。


実際、革命家というのは政治家と同等、若しくはそれ以上の地位として国に扱われている。そんな存在が、国民たちを支えていると形容したところで、些かの不可解も無い。


今、国民には空前の国外逃亡ブームが到来している。

それは、国全体の不安定さが表面上に出た証拠だと言えないだろうか。


だが、逆に国にとって国民がいなくなることで安定する可能性もある。

“政治家が陰謀を企てていた場合”だ。


もしその陰謀が国内で行われる場合、国に人が多すぎることはかえって不利になる可能性を孕んでいるその場合、政治家は国外へと人を移動させようとする筈。


そして、ここで重要になってくるのが、ヘビの本拠地の座標。

単純に考えて、犯罪組織がどこぞの国の中に本拠地を置く筈が無い。伴うリスクが高すぎるから。加えて、世界全体に組織のメンバーが散っているのなら、命令を伝達する速度が適当に分散していた方が、いざという時────本拠地が襲われた時等の援助要請の情報伝達の速度が迅速なのではないだろうか。


となれば、その本拠地は世界の中心、トルンド。若しくはその周囲に分散する国の付近。

そこでアイが情報屋であるヒュウゴに頼んだ情報は、アルガヨを含まない、トルンド付近にあるルータナ、ジョーガル、その二つの国の状況。

細かなことではなく、大まかなことでいい。国に何か大きな変化があった時、その時は自分に知らせてほしい。アイはそのように頼んだのだ。


そして訪れた、アイが推測していた大きな変化。ルータナではなく、ジョーガルに起こったその変化。国民の国外逃亡が相次いだ。


したがって、アイはこのように考えた。


組織ヘビの統率者ネウルスとジョーガルの政治家は繋がっている。

繋がっていたとして、ネウルスが政治家に支持を出し、出された者が国民へと悪質な噂を流し、国外逃亡をさせた。もぬけの殻となったこの国ジョーガルにて、何かを行う手筈である。


アイが行うべき行動は、政治家の元を訪れ、ネウルスとの繋がりを明らかにすること。

彼女は人一人いない国を、白髪を揺らしながら、ゆったりと歩き始めた。


    **


一方のアキサ達、政府軍の面々。

彼女たちがネウルスの指名手配書を全国に発行してから二週間と数日が経っていた。


しかし、一向に集まらないネウルスの目撃情報。

それとは裏腹にインデックスは世界各地に蔓延るヘビのメンバー達の殆どを捕らえ、彼らを投獄した後、一度本部にいるアキサらの元を訪れていた。


「よっ。今どんな状況?」


“会議室”と称されたこの部屋、中にはアキサ、ユウス、ケイル、メルの四人が集っていた。

代表して、アキサがインデックスへと言う。


「お疲れ様です。インデックスさん。今はヘビの本拠地に突入する際のフォーメーションを考えていました」


本来、彼女らの作戦は比較的平和的なものであった。

ネウルスの目撃情報があり次第、その場所へとワーパーで向かい、彼を捕らえる。そしてヘビのメンバーへ彼の姿を晒し、一斉に逮捕する。


それが当初の計画であった。

しかし、目撃情報が無い今、本拠地へと突入し、ヘビを壊滅状態に陥れなければならない。


「なるほどね」


インデックスはそうとだけ言った後、アキサへと続けて訊いた。

「アキサ。今この場からアキサを抜き取っても問題ないかい?」

「……? まあ、はい」

「お〜しっ。じゃあ付いてこい」


不思議に思いながらも、インデックスへとついていくアキサ。彼女は部屋を出る前、残る三人にペコリとだけお辞儀をしてから出ていった。


アキサは彼の行動の真意を理解していなかったが、他の三人は理解していた。かつて自分たちも、同じことを彼にされていたから。

「このタイミングで教えるのか」

「……まあ、ちょっと遅いけれど、妥当と言えば妥当なタイミングかもしれないわね」

「確かにそうだね。突入するとなれば“アレ”は最低限念頭に置いていた方が、僕達にとっても安心だ」


インデックスがアキサを連れて向かった先は、本部最上階にある、フロア丸ごと特訓のために設けられた大きな空間であった。

何もなく、ただ真っ白な空間。空気循環のために設置されていた換気扇の音のみが、その空間に響いていた。


空間の中心辺りまで歩いた時点で、インデックスは足を止めた。

したがって、アキサも足を止める。


インデックスはアキサの方へと振り返り、言った。

「今からアキサには、『摂理』と『脱却』を覚えてもらう」

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