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異世界、貴女と笑顔でさよならを  作者: 焼魚
間章1:灼然と
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19話:邂逅

「おっ、早いねアキサ君」

「ユウスさん。お疲れ様です」


ルータナ国内。ユウスとアキサの二人は待ち合わせ場所で出会っていた。

彼らは定期的にこうして出会っている。アイに関する情報を共有するためだ。


今回、こうして集ったのは、アイの死が新聞等で掲載されたから。そしてアイの生死確認の担当がユウスであったから。


「率直に言おう。アイ君は生きていたよ」

「……やっぱり、そうですか」


ユウスの期待していた安堵の反応とは裏腹に、アキサの反応は至って落ち着いて見えるものであった。

「“やっぱり”、というと?」


ユウスがその理由を尋ねると、アキサはほんの少しの笑みを浮かべ、答えた。

「アイが死ぬわけないじゃないですか」


「立ち話も何だから」と、アキサは歩きながらアイのことについて話すことを要求した。


この国ルータナは、中央に大きな城があり、国を縦断する形で川が流れている。国中は人々の活気に満ちた声で飽和しており、駆け回る子供は良く笑っていた。


二人はそんな声に包まれながらも、静かに歩いていた。


「アイ君の死は、偽装されたものだった。恐らくは、そこそこ頭の切れる協力者と死体を捏造できる程に腕の立つ協力者がいたんだろうね」

「……協力者……ですか」


アキサはその言葉を受け止め、少々の思案に浸る。

もしアイが自分のように、政府軍の協力者を持っていた場合、その技術はユウスが把握している筈だ。そうでないということは、アイは引き続き、政府軍に追われる身であるということ。


表面上の立場は変わったが、政府軍が彼女を見る目は何一つ変化していない。今回、ユウス以外の政府軍がアイの生死を確認していたら、アイの死は事実となっていたかもしれない。


「その言い方からして、協力者は二人以上いるってことですよね。もしアイの生存が正式に確認された場合、その人達はどうなりますか?」

「まあ、規則に則ってアイ君と同等か、もしくはそれ以下の償いをしてもらう可能性があるかな。彼女に協力する以外の罪を犯していなければ、本人よりも重くなる場合は皆無だよ」


「そりゃそうだ」と思いながらも、アキサは顎に手を当て、考える仕草を行う。少しして、彼女はユウスへと訊いた。

「じゃあ、近い将来、私がアイに協力した時、ユウスさんは私の敵となりますね」

「そゆことだね」


改めて、アキサはユウスのオーラを感知した。


本人はセーブしているようだが、それでも強く感じるこの独特のオーラ。身近で感じると、その詳細が少し見えてきた。


“火”だ。


彼のオーラの中には、火がある。火と、何か得体の知れないものが含まれている。その正体が何かはわからないが、それが彼のオーラの悍ましさをこと更に上げている。


「僕のオーラが気になるかい?」


悟られぬように細心の注意を払いながらユウスのオーラを感知していたアキサは、それだけあって、少し驚く。

「え、何で私がオーラ感知してることわかったんですか?」

「“逆感知”っていう技だよ。今度教えるね」

「へぇ〜。じゃあお願いします」


それから二人は少しの間話しながら歩いた。そしてその末に、城の前の広場へと辿り着く。

城を見上げながら、アキサはユウスへと言った。


「それじゃあ、今日はありがとうございました」

「……ちなみに、これからアキサ君はどうするつもりなんだ?」


ユウスがふとそんなことを訊くと、アキサは目前に据えていた城を指差す。

「あそこに革命家がいるそうなので、その人に会いに行きます」


放たれた言葉が意外性を含有するものだったので、ユウスは脳内で一つずつ整理するように尋ねた。

「何故? アイ君と同じように、革命家を殺すのか?」

「いえ、違いますよ。ただ単に話を聞きたいってだけです」

「何の話?」

「私の……家族についてです」


その時、ユウスは思い出した。彼女がアイを探すことと並列して、この世界を渡り歩いているその理由を。

彼女は現世にて家族と共に皆殺しにされ、常世へと転生してきた。


自身と同一の地点へと転生しなかった家族の行方を探すため、彼女は旅をしている。


探している家族はもういないかもしれない。そんな考えがユウスの頭に過ったが、他人の自分が他人の家族の事情に口を出すべきではないと思い、口にするのは控えた。


「そうか。じゃあ、くれぐれも死ぬことのないようにね」

「ええ。ご忠告痛み入ります」


やがて、二人は別々の方向へと歩み始めた。


    **


「異世界政府軍のスメラギ・アキサです」


私は異世界政府軍であることの証明書を城の門番へと見せた。これは少し前、インデックスさんの承諾を得てから取得したもの。

今の私は冒険者兼政府軍。二つの職を掛け持ちしているのだ。


門番が城の案内人を呼んでくるまでの間、私はその場に残ったもう一人の門番と話していた。先に話しかけてきたのは門番の方だ。


「凄いですね。その年齢で政府軍の一員だなんて」


私には、門番はみな男だという先入観と偏見があったがために、彼女が女の人だということに少し驚いた。


「お互い様じゃないですか? 女性の門番なんて初めて見ました。もちろん、いい意味で」

「あはは、ありがとうございます。確かに、女の門番は全国で僅か五人ですからね。それ程、女性には好まれない仕事なんです」

「あ、そうなんですね」


それから私たちは他人同士なりに会話に花を咲かせ、案内人が来るまでの間、時間を潰した。

やがて城の案内人がやって来て、彼女とは別れた。

とは言っても、どうせまた帰る時に会えるのだから、別れを惜しむ必要はない。


「ここの案内人をしております、“セロイ”と申します。本日は何用でこちらへと出向かれたのでしょうか?」


問われ、自らの地位の向上をひしひしと感じながら、私は静かな口調で答えた。


「“革命家フウガ”さんに、会いに来たんです」


途端、案内人の目つきが変わった。

今までその瞳の奥に警戒心が存在していたが、その瞬間にその警戒心は殆ど無くなり、ニコニコと穏やかなものへと変わったのだ。


「そうですかそうですか。では案内致しますね」


私は些かの不信感を抱きつつも、彼を信用した。

「ええ。よろしくお願いします」


    **


城の内装は、私が勝手に想像していた高貴な金色に包まれているようなものではなく、白を基調として落ち着いた雰囲気のある、まるで教会の内装のようなものであった。


そんな空間にて、何度か階段を昇り、やがて辿り着いた。


「失礼します。フウガ様に会いたいと仰っていられる政府軍の方をお連れしました」


私と似た白っぽい赤色の髪色をしており、開けられていた窓から差し込む風でそれが靡く。

朗らかな笑みを浮かべ、フウガさんは告げた。


「ご苦労さま」


後、案内人は私を室内へと入れ、自身は退室して扉を静かに閉めた。


静寂に包まれた室内、先に言葉を発したのは私だ。

「急に押しかけてしまい、申し訳ございません」

「いやいや、構いませんよ。お会いできて光栄です。この俺に、どういった用事ですか?」


私情が含まれているが故に、少し切り出しにくかった。それでも、この立場を最大限利用しなければ有益な情報は得られない筈だ。


「私は、私の家族を探しているんです。もしもフウガさんが何か情報を持っていたら、と思いまして」


まともに取り合ってくれないことも視野に入れていたが、彼はそうではなかった。優しいままの口調で、彼は言う。

「うーん……何か特徴とかってありますか?」

「ええと────」


それから私は、彼へと自身の家族の特徴を話し始めた。


私たち皇一家は四人で構成されており、家族構成としては父、母、私、弟だ。


父は長く生え揃った髭と中年太りで少し出た腹、穏やかな性格の持ち主である。身長を正確には把握していなかったが、私よりも少し大きいため、170は優に超えているだろう。


母は茶髪、そしてショートヘアー。母もまた穏やかである。小柄で顔立ちは美しい。幼い頃に火傷を負い、今も尚その傷跡が右の手のひらに残っている。


弟は父よりも背が高く、逞しかった。同級生からはよく家に押しかけられていたし、顔立ちは秀麗で、異性からすればどこか惹かれるところがあったのだろう。私はそうは思わないが。


家族に関する情報を一通り話し終えた時点で、フウガさんは思い出したようにこう言った。

「わかりました。僕も探してみます。……そういえば、風の噂でしかないのですが、最近『蛇』が大量に転生者の人々を捕らえたという話がありました。もしかすると、そこにアキサさんの家族も含まれているかもしれませんね」


突如として現れた“蛇”というワード。文脈的に聞き覚えの無い言葉であったがために、私は尋ねた。

「蛇……って何ですか?」

「ご存知ないですか? 全国各地に広がる犯罪組織です。最近では寿命商売にまで手を出したとか。とにかく、かなり危険な組織であることは間違いないです」

「へぇ〜、そんな組織があるんですねぇ……」


そこに、私の家族がいる可能性がある。

確証を握っているわけではないが、それでも可能性がゼロというわけではない。手がかりすら無かった頃と比べると、大分進捗は良くなった。


私はフウガさんへと言う。

「ありがとうございます、フウガさん。有益な話を聞けました」


そして去ろうと、くるりと方向転換をした時、私は彼に呼び止められた。

「ちょっと待った、アキサさん」


したがって、私は振り返り、彼へと訊いた。

「どうしました?」

「まさか、蛇の所に行くつもりじゃないですよね?」


……心配、してくれているのだろうか。だとしたら無用だ。

「いえ、違いますよ」


言葉ではそう否定した。彼に余計な心労を煩わせないために。それが私なりの感謝の形だ。

「……そうですか。なら構いません。お気をつけて」


どこか私を疑っている様子だったが、私は彼のその感情を無視して、彼の部屋を後にした。

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