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## 8 試練 - 橋の完成、師との再会

 昨日のセリスとのちょっとしんみりとした、会話のおかげだろうか。

 今日のレオンは珍しくやる気に満ち溢れていた。


「よし!今日こそ、この橋をある程度形にしてやるぞ!」


 昼過ぎ、セリスの相変わらずの監視の元(もっとも、昨日の今日で、その眼差しは幾分か柔らかくなったような気がする)レオンは切り出した木材を運ぼうと、風魔法を試みた。


「ふんぬっ!」


 しかし、彼の起こす風は今日もまた木の葉一枚すら揺らす程度の微風にしかならない。


「くそっ!なんでこんな簡単なことができないんだ!」


 苛立ちを隠せないレオンを見て、セリスはクスッと笑った。


「焦らないでください。魔法は力任せじゃありませんよ」


「うるさい!お前に俺の苦労がわかるか!」


 と、言いかけたところで、背後から陽気な声が聞こえてきた。


「おーい、レオン!困ってるみたいだな!」


 振り返ると、ヨーサクが大きな牛に引かせた荷車いっぱいの木材をニコニコしながら運んできた。


「これでも使え!友達が困ってるのを見過ごすわけにはいかねえからな!」


「ヨーサク!ありがとう!」


 レオンはヨーサクの友情に素直に感謝した。

 これで重い木材をヨロヨロと運ぶ手間が省ける。


 しかし新たな問題が発生した。

 木材は手に入ったものの、それを橋の形に加工する方法がレオンにはさっぱり分からないのだ。

 見よう見まねで斧を振り上げてみるものの、なかなか真っ直ぐに切れない。

 ノコギリを使ってみてもギコギコと情けない音を立てるばかりで、作業は一向に進まない。


「もー!こんなのどうすればいいんだよ!」


 レオンが頭を抱えていると、ヨーサクは呆れたように言った。


「お前なあ、魔法使いなんだろ?もっと魔法を使えばいいじゃないか!」


「魔法って言っても……こんな木を切ったりする魔法なんて、知らないんだよ!」


 レオンがそう答えると、ヨーサクは目を丸くした。


「ええっ!?炎魔法しか使えないのか、あんたは!?」


「う……うるさい!」


 結局、ヨーサクに手取り足取り教えてもらいながら、魔法に頼らずなんとか木材を加工していく二人。

 不器用なレオンは何度も手を滑らせ、危うく指を切りそうになる場面も。

 その度にセリスが心配そうな顔で駆け寄ってくるので、レオンは内心ドキドキしていた(もちろん、表面上は「心配するな!」と強がっていたのだが)。


 日が暮れ始め空が茜色に染まってきた頃、ようやく橋の骨組みがなんとか形になってきた。


「ふう……今日は、ここまでにするか」


 レオンはへとへとになりながら、地面に座り込んだ。

 まさかこんな肉体労働が、魔法使いの仕事の一部になるとは夢にも思わなかった。


 夜、村長の家で夕食を終えたレオンは、ドキドキしながらゲオルクに話しかけた。


「あの……村長、今日の橋の具合は……」


 ゲオルクはいつものように腕組みをして、レオンをジロリと睨みつけた。

 しかし、その前にセリスが落ち着いた声で言った。


「レオンが、一生懸命頑張っていましたよ」


 セリスのその一言で、ゲオルクはそれ以上何も言わなかった。

 ただ「明日はもっと頑張ってやるんだな」と、ぶっきらぼうに言い残して、奥の部屋へと消えていった。


(セリス……あの一言はもしかして、俺を庇ってくれたのか……?)


 レオンはセリスの方をチラリと見たが、彼女はもう何事もなかったかのように食器を片付けていた。

 レオンの胸には小さな、けれど確かな喜びの感情が湧き上がっていた。

 こんな田舎での不慣れな橋の再建作業。

 しかしヨーサクという親しい友達ができ、そして少しだけセリスとの距離が縮まったような気がした。


 明けて次の日。

 レオンは昨日のヨーサクとの共同作業で得た閃きを元に、新しい魔法を試してみることにした。

 土台に残った石材に魔力を集中させ、イメージを膨らませる。

 以前の頼りない木の橋ではなく、もっと頑丈で雨風にもびくともしない石造りの橋を!


「ふんっ!」


 レオンが一声気合を入れると、土台の石がゴゴゴゴと音を立て始めた。

 まるで生きているかのように石同士が組み合わさり、みるみるうちに立派な石橋が姿を現したのだ!


「おお!すげえ!本当に魔法で直しちまった!」


 ヨーサクは目を丸くして完成した橋を見上げた。


「結局、昨日運んだ木は使わなかったな!」


「ああ、これはこれで、後で別の物を作るつもりだ」


 レオンは満足げに頷いた。

 石橋は以前の橋よりもずっと立派で耐久性も高そうだ。


「よし!じゃあ、ゲオルク村長に報告に行こうぜ!」


 ヨーサクが得意げに胸を張った。

 しかしレオンは首を横に振った。


「いや、まだ、やるべきことがある」


 そう言うと、レオンはヨーサクを連れて焼け野原となった森へと向かった。


「え?どうしたんだ、レオン?」


 ヨーサクが不思議そうに尋ねると、レオンは真剣な表情で答えた。


「あのワイバーンのせいで、森がこんなになってしまった。少しでも元に戻してやりたいんだ」


 二人は協力して土魔法で焼け焦げた土地を均し、風魔法で灰を吹き飛ばした。

 そしてヨーサクに教わった通り、優しく語りかけながら、水魔法で土地を潤していく。

 すると驚いたことに、黒い地面から小さな緑の芽がちょこんと顔を出し始めたのだ!


「おお!芽が出たぞ!早すぎないか⁉︎」


 ヨーサクは目を輝かせた。


「後は、時間が解決してくれるだろう。魔法で無理に急かすと、土地が痩せてしまう。自然に任せて、ゆっくり見守るんだ」


 少し離れた場所で、セリスもその様子を静かに見守っていた。

 彼女の表情は穏やかで、その瞳には微かな笑みが浮かんでいるようにも見えた。


 森の整地を終えたレオンは、ヨーサクに手伝ってもらい、昨日運んだものの、結局使わなかった木材で斧を片手に、ヨーサクの畑に頑丈な柵を作り始めた。

 不器用ながらも一生懸命に木を打ち付けるレオンの姿を見て、ヨーサクは嬉しそうに笑った。


「ありがとな、レオン!本当に助かるよ!」


 夕暮れ時、ようやく柵が完成した。

 レオンは達成感に満ちた表情で、出来上がった柵を眺めた。


「ふう……これでやっと、村長に報告に行けるな」


 ヨーサクがそう言うと、レオンは大きく頷いた。

 見慣れない村での予期せぬ足止め。

 しかしヨーサクとの出会い、そして少しだけだが人の役に立てたという実感。

 レオンの心にはこれまで感じたことのない、温かいものが満ちていた。

 そしてあの頑固な村長に、自分が成長した姿を見せてやりたい、という気持ちが強く湧き上がっていた。


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