表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/15

## 3 決意 - 封じられた力、見知らぬ村

「う……ん?」


 レオンが薄ぼんやりと意識を取り戻すと、見慣れない木の天井が目に飛び込んできた。埃っぽくて、ところどころシミになっている。まるで安宿の天井みたいだ。心配そうな顔を覗き込む若い女性と、その隣にでっぷりとした体格のいかにも田舎者といった風貌の農夫が立っている。


「あ、気が付いた!」


 ぱっちりとした瞳の女性が、ほっとしたように声を上げた。そばかすがチャームポイントの、可愛らしい娘さんだ。しかしレオンはすぐに違和感を覚えた。自分の両手首にゴツゴツとした、黒曜石のような腕輪が嵌められているのだ。


「こ、これは……?」


「ああ、それはね、魔法を封じる魔道具だよ」


 農夫が悪びれる様子もなく、こともなげに言った。「昨日の夜、あんたが森をめちゃくちゃにして、橋まで壊しちまったからな。村の自警団が捕まえてきたんだ」


 レオンは自分の置かれた状況をようやく理解した。ワイバーンに襲われ意識を失い、気がつけばこんな場所に……しかも魔法まで封じられているとは!


「ふざけるな!俺は東部地区大会の……」


「うるさい!お前さんのような、わけのわからん連中の都合なんて知ったこっちゃねえんだ!」


 農夫はレオンの言葉を遮り大きな声で怒鳴った。「村の平和を乱したんだ。大人しく罰を受けろ!」


 罰?一体何の罰だというのか?レオンは、手首の魔道具を外そうと魔力を込めた。しかし、微かに魔力が戻ってきている気はするものの、びくともしない。


「無駄だよ」


 農夫が冷静な声で言った。「この魔道具は封じた者より強い魔力を持たなければ外れない。あんたを捕まえたセリスは、剣も魔法も達人だからね」


 セリス?このひ弱そうな娘が?レオンは信じられなかった。まだ魔力が完全に回復していないだけだ。そうでなければ、自分がこんな小娘に魔力で劣るはずがない。


 その時、部屋の奥から低いけれど威厳のある声が響いた。「一体、何が騒がしいのかね?」


 現れたのは、くたびれた作務衣を着たどこにでもいるような昼行燈のような老人だった。しかしその目は鋭く、レオンを一瞥しただけで全てを見透かされているような気がした。


「ゲオルク村長!」


 農夫とセリスと呼ばれたそばかす娘が、慌てて頭を下げた。この老人がこの村の村長、ゲオルクらしい。


 ゲオルクはレオンを一瞥し鼻で笑った。「ほう、これが噂の暴れん坊かね。冒険者気取りでワイバーンに手を出して、痛い目に遭ったのだろう。生半可な力で自信をつけてしまうから、そんなことになるんだ」


 そしてレオンの手首の魔道具を指さし、「魔法を増幅する杖もなく、魔法を封じられてはただの役立たずじゃろう」と、追い打ちをかけた。


「魔法さえ使えれば……!」


 レオンは反論しようとしたが、ゲオルクは冷たい視線を向けた。「お前さんは自分のことしか考えていない。周りの迷惑など、これっぽっちも考えていないのだろう!」


 そばかす娘セリスも、腕を組んでレオンを睨みつけた。「あんたのせいで、村人たちがどれだけ迷惑したか!森は焼け、橋は落ちて……」


 村人たちもどこからともなく集まってきて、レオンを非難の目で見た。


「貴様!一体何をしてくれたんだ!」


「うちの畑にも火の粉が飛んできたぞ!」


「こんな奴、追い出せ!」


「いい加減にしろ!俺は東部地区大会予選で優勝した魔導士だぞ!ランフォード家のレオンハルトだ!損害は実家が必ず弁償するから、さっさと帰らせろ!」


 レオンはそう叫んだが、村人たちはポカンとした顔で彼を見返すばかりだった。ここはあまりにも辺鄙な田舎だったらしい。彼の名前を知る者など一人もいなかった。


 騒然とする中、ゲオルクは静かに口を開いた。「ランフォード家の若様か……魔導士ならば、当然、責任は取ってもらうぞ」


 レオンはほっと胸を撫で下ろしかけた。金で解決できるなら安いものだ。


 しかしゲオルクが言い放った責任の取り方は、レオンの予想を遥かに超えるものだった。「焼け落ちた橋を、お前さんの手で再建してもらう。そうしたら村の転移魔法陣で返してやろう!」


「はあ!?」


 レオンだけでなく、セリスも思わず声を上げた。


「石造りの土台は残っておる。魔導士ならば、魔法を使えば簡単に直せるだろう」


 ゲオルクの言葉にレオンは言葉を失った。土魔法や水魔法など、派手な炎魔法しかまともに使えない自分に、橋の再建などできるはずがない!


「村長、それはあまりにも……」


 セリスが何か言おうとしたが、ゲオルクはそれを制した。「セリス、お前は村に滞在させてもらっておる身だ。責任を持って、この若様の監視役を頼む」


「ええ……」


 魔法大会本戦まで、あとわずかしかない!そんなことをしている暇はないのだ!レオンは必死に抗議しようとしたが、ゲオルクは聞く耳を持たず、一方的に話を終えてしまった。


 こうしてレオンハルト・ランフォードは、見知らぬ田舎の村で魔法を封じられたまま、橋の再建という途方もない罰を受けることになったのだった。事実上の軟禁状態。彼の華麗なるエリート街道は、思いもよらない場所で、完全に道を逸れてしまったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ