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## 12.排除 - 漆黒の炎、悪魔の覚醒

 いよいよ始まった魔法大会本戦。

 形式は予選同様、出場者全員が入り乱れるバトルロワイヤルだ。

 レオンハルトはゲオルクから託された杖を手に、闘技場の中央に立った。

 周囲には強者たちの気配がひしめき合っている。


 開始の合図と共に、あちこちで魔法が飛び交い始めた。

 レオンは最初は様子を見ることに。

 すると早速稲妻が飛んできたので、最近練習を始めたばかりの土魔法で、サッと地面から土壁を作り出して防いだ。


「ふっ、炎だけが取り柄だと思ったか?」


 レオンはニヤリと笑い今度は風魔法で竜巻を起こし、近くの対戦相手を吹き飛ばした。

 見知らぬ村での経験が、彼の魔法の幅を大きく広げていたのだ。

 炎、土、風、そして、ほんの少しだけ氷。

 属性に合わせて魔法を使い分け、レオンは順調に対戦相手を倒していく。

 以前のように、すぐに魔力が枯渇することもなくなった。

 ヨーサクに教わった自然の魔力を少しずつ分けてもらう方法を練習の合間に試してみると、本当に効果があった。


 隣を見ると、昨年の王者ブランタが相変わらず華麗な魔法で敵を颯爽と倒している。

 白いローブは相変わらず汚れ一つついておらず、その動きはまるで舞踊のようだ。


 一方、姑息なライバル、ターナー・ハイムは、戦いから離れて様子を窺っている。

 独自の手下を何人か内緒で参加させているようで、彼らに前衛で戦わせ、自分は安全な場所で魔力を温存する。

 いつもの姑息な戦い方を貫くらしい。


 しばらく戦っていると、さすがに魔力が残り僅かに減ってきた。

 調子に乗って色々な魔法を試したのが祟ったか。

 レオンは魔力の回復に努めようと、ライバルから距離を取って逃げ回る羽目になった。


「しまった、またペース配分を間違えたか!」と、内心で少し後悔した。


 その時、好機とばかりにターナーの手下たちが、レオンに向かって一斉に攻撃を仕掛けてきた。

「逃がすか!」とか「これで終わりだ!」とか、低い声が聞こえてくる。


(くそっ、こんな奴らにやられるわけにはいかない!)


 レオンはヨーサクに教わった呼吸法を思い出し、落ち着くためにも自然に意識を集中させた。

 すると微かに暖かいエネルギーが体に戻ってくるのを感じる。

 魔力回復の後、レオンは反撃に出た。

 土魔法で地面を隆起させ、手下たちの足を掬い風魔法で吹き飛ばす。

 そして最後に小さな火の玉をいくつも放つと……


「ひええええ!」


 情けない悲鳴を上げて、ターナーの手下たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

 レオンはそれらの背中に向かって見事に鼻を鳴らした。


「ざまあみろ!」


 気がつけば闘技場に残ったのはたった三人。

 レオンハルト、あの姑息なターナー、そして貫禄の昨年度王者ブランタだ。


 ターナーは魔力を回復させたレオンの攻撃をまともに食らい、胸元の吸魔石が黄色く点滅し始めた。


「くそっ、まさかあいつがここまでやるとは!」


 焦り始めたターナーは、突然ニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。


「フフフ……ついに、俺様の本気を見せる時が来たようだな!」


 そう不敵な宣言をするとターナーは突然、杖も持たずに強力な雷撃魔法を連射し始めた!

 無詠唱だと!?

 一体いつの間にそんな技を……!


 レオンは咄嗟に身をかわし、セリスに教わった魔法の軌道を捻じ曲げる技で、雷撃を辛うじて避けた。

 しかし不覚にも攻撃が掠ったようで、レオンの吸魔石も黄色に変わってしまう。


 一方、王者ブランタは予期しない無詠唱雷撃を魔法障壁で防ごうとしたもののパワーが予想以上だったらしく、防ぎきれずに直撃を受け、吸魔石は赤色に染まってしまった!


 そこへターナーは追撃の無詠唱魔法をもう一発!

 レオンは今度は落ち着いて上手く雷撃を捻じ曲げ、完全に回避した。

 しかしブランタはまたもや直撃を受け吸魔石は黒く染まり、パリンと音を立てて砕け散ってしまった!

 次に攻撃を受ければ無事では済まない。


「まずい!」


 レオンは傷ついたブランタを見て、咄嗟に魔力障壁を展開し彼を覆った。


「今すぐ退場しなければ命が危ない!」


 レオンが叫びながらブランタに魔法障壁を出したのを見たターナーは、好機とばかりに広範囲に氷の雨を無差別に降らせ始めた!

「邪魔をするな!」と叫びながら、完全に逆上しているようだ。


 レオンは自身に魔法障壁を展開しながら、倒れたブランタにも重ねて魔法障壁を張った。

 降り注ぐ氷の雨が、激しく魔法障壁を叩きつける。

 その合間を縫って、レオンは無詠唱のファイアボールをターナーに向かって放つ。

 予期しない反撃に、ターナーは一瞬たじろいで困惑した表情を浮かべる。

 魔法障壁の中で守られているブランタは、レオンの想像を超えた成長に驚き、目を丸くしていた。


 氷の雨が止むと同時に、レオンの反撃が始まった!

 炎、土、風、そして、最近習得したばかりのまだ小さな氷の魔法も織り交ぜ、レオンはターナーと激しい魔法戦を繰り広げた。

 お互い強力な魔法をぶつけ合い、一歩も譲らない攻防が続く。


 しかし、最後の最後でレオンの魔力がついに枯渇寸前に。

 息切れしながらも必死に魔法を繰り出すレオンに対し、ターナーは余裕を浮かべながら、魔力切れの気配すら見せない戦い方をしている。


「くそっ、なんて持久力だ!」


 レオンハルトに次々とターナーの放つ攻撃魔法が襲いかかる。

 魔力を回復する暇もない。

 必死で魔法障壁を出すのが精一杯だ。

 隙を見て反撃しようとするも、魔力が底をつきかけ、魔法が思うように発動しない。


 気がつけば、レオンはいくつもの雷撃をその身に受けていた。

 痺れるような痛みが全身を駆け巡る。


 その光景を見た場内からは、割れんばかりの大歓声が上がった。

 アナウンスが、「レオンハルト・ランフォード選手の吸魔石、赤になりました!」と絶叫するように告げる。


「俺が一番だああああ!」


 ターナーが勝利を確信したように高らかに喜びを爆発させながら叫んだ。

 レオンは全身の痛みに耐えながら、朦朧とする意識の中で己の敗北を知った。



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