## 11.対決 - 悪魔の囁き、再び
レオンハルトはゲオルクから託された形見の杖をしっかりと握りしめ、王都の巨大な闘技場へと足を踏み入れた。
本大会は王様も観覧する国家的イベント。
会場は興奮と熱気に満ちた観客で埋め尽くされていた。
「さあ、いよいよ魔法大会本戦の開幕です!」
アナウンサーの賑やかな声が会場全体に響き渡る。
「栄光の優勝を手にするのは誰か!賞金と名声、そして未来を掴むのは一体どの魔導士か!今年の注目株は、昨年の覇者ブランタ・アルゼヌス選手!そして、東部地区予選で彗星のごとく現れた新星レオンハルト・ランフォード選手です!」
アナウンスに合わせて出場選手たちが一人ずつ紹介されていく。
そのたびに観客席のあちこちから、家族や友人たちの熱い声援が飛んだ。
「頑張れー!」「○○、やったれー!」
特に昨年の王者ブランタ・アルゼヌスが紹介された際には、会場全体が揺れるようなひときわ大きな歓声が上がった。
白いローブを純粋に着こなし涼やかな笑顔を観客に向けるブランタは、まさに絵本から抜け出して来た英雄のようだった。
(ああ、やっぱり俺には縁のない話だな)
レオンはそんな熱狂を少し寂しい気持ちで見つめている。
今回は執事のアルスも村に残してきた。自分には誰も応援に来ていないだろうと思っていた。
しかしその時、観客席の一角に見慣れた顔を見つけた顎髭を蓄えたでっぷりとした体格のヨーサクと、その後ろには腕組みをして少しばかり緊張した面持ちのゲオルクの姿があったのだ!
「ヨーサク!村長!」
思わず叫びそうになったレオンは、二人の姿を見つけた喜びで胸がいっぱいになった。
まさかこんな遠くまで応援に来てくれるとは!
しかし、その中でセリスの姿だけが見当たらない。
最後の別れ際、ちゃんと話せなかったことが今更ながら悔やまれる。
手加減してしまったから嫌われてしまったのだろうか……
レオンは胸の奥に小さな痛みを覚えた。
ゲオルクはレオンの視線に気づいたのか、簡潔に頷き口の動きで「セリスはすぐに家に帰った」と伝えてきた。
そして力強い眼差しでレオンを指差し「優勝すればきっと彼女の耳にも入る。頑張れ!」と励ましてくれた。
レオンはセリスに手加減した理由を、素直に話せなかったことを後悔した。
まあ、好きだった、なんてあの瞬間に言えるはずもなかったのだが……
そんなことを考えてレオンは自嘲気味に苦笑いした。
その時、前年の王者ブランタがゲオルクのいる観客席に近づき、 深々と頭を下げた。
「ゲオルク様ご挨拶させていただきます」
ゲオルクがかつて王国最高の魔導士だったというヨーサクの話は本当だったらしい。
周囲の観客も伝説の魔導士であるゲオルクに気づき、丁寧にに頭を下げている。
ブランタはゲオルクの側にいたレオンにも気づき、爽やかな笑顔で言った。
「頑張ってください、ランフォード選手。素晴らしい戦いを期待しています」
「あ、ああ……ありがとうございます!」
予想外なエールにレオンは少し慌てて頭を下げた。
ブランタの純粋な瞳にはライバルに対する敬意しか感じられず、レオンは彼に対する敵意が少しだけ薄れたような気がした。
その直後、背後からあの陰湿な声が聞こえてきた。
「フフフ……レオンハルト君。まさか、こんな大舞台まで生き残るとはね」
振り返ると、黒いロングコートを無造作に羽織ったターナー・ハイムが見事な笑みを浮かべて立っていた。
「だが、ここまでだ。お前に二度と俺の邪魔はさせない。絶対に何が何でも俺が勝つ!」
ターナーはレオンに向かって低い声でそう言い放ったが、レオンは本戦に向けて集中力を高めていたため、彼の言葉はほとんど耳に入っていなかった。
ターナーはレオンの上の空な態度を見て、さらに顔を歪めた。
「ふん、そんな態度も今のうちだぞ……すぐ、お前はこの舞台から消え失せるのだからな!」
そう捨て台詞を吐き捨てると、ターナーは不気味な笑みを浮かべながら、他の出場者の方へと歩いて行った。
レオンは彼の陰湿な視線を感じながらも、静かに闘志を燃やしていた。
今度こそ、誰の助けも借りずに自分の力で勝利を掴んでみせる。そしてセリスにもう一度、ちゃんと向き合って自分の気持ちを伝えたい。