第7話
翌朝。
『湊鵺、……崇は居ないようだね』
湊鵺と崇の部屋へと入って来て、にこにこしている壱。
『そうですね』
『わざと逃がしたのかな……?裏切り者を』
笑っているのに凍てつきそうな表情をする。
『えぇ』
はっきり言い切る彼女の頬に手を添えると、蒼い双眸は強気な視線を向ける。
『湊鵺、……君は揺るがないんだね』
分かったよ、と言うといつもの穏やかな壱の雰囲気に戻った。
『崇は私が必ず……』
『湊鵺の言わんとする事は分かっているよ。大丈夫。友人を取り戻そう。君の願いは僕の願いだから』
『壱……』
湊鵺の頭を優しく撫でた。
『湊鵺の傍に在り続けるからね。僕達は友人だろう?全く……崇の存在は大きいのだね。少し嫉妬してしまいそうになるよ。崇はそんな表情をさせてしまうのだからね。湊鵺、心配しなくても良いよ』
ひとりじゃない、だから大丈夫だと言う壱の言葉に心が暖かくなる湊鵺。
『そうだぞ!全く、……弟はいつもひとりで抱え込む悪い癖があるから困ってしまう』
『悠……』
いつの間にか部屋に入って来ていた悠も湊鵺に言葉をかけた。
『大丈夫だよ、僕等には一緒に闘ってくれる学園の仲間がいる』
『俺達ならどんな敵が来ようとも乗り越えられるさ』
3人が廊下に出ると。
部屋の前に特別科の生徒が集まっていた。
『おはよう!話は聞いている。俺も華架院達を手伝うつもりだ。安心すると良い!』
大きな声で第一声をあげたのは白藤 真凪。
胸元までの赤紫色の髪の毛を紐で括っている。
金色の瞳を持つ純血魔族のひとりで炎属性の魔術を扱うのに長けた高等部1年の男子生徒。
華架院 壱を尊敬しており、竜臣 崇とは魔法稽古したりする仲。
崇と同じ位に魔法戦闘術に長けている為、崇が稽古しない時は玖皇 湊鵺に稽古をつけている事が多い。
因みに紅薔薇の貴公子と呼ばれている。
『俺も俺も〜!湊鵺の援護するよ〜』
『泰……いきなり抱きつくのはやめてといつも言ってるじゃないですか』
湊鵺に抱き付いて笑顔を振りまいている小柄な男子生徒は桜架院 泰。
湊鵺と同じ小柄な体型で更に身長が低いので本人も気にしている。
短めの群青色の髪の毛と同じ色の瞳を持っている。
得意とする魔法は水属性で高等部1年の純血魔族のひとり。
翠薔薇の貴公子と呼ばれている。
因みにいつも湊鵺とは魔法稽古して切磋琢磨している仲。
実は初等部の頃から崇が湊鵺に魔法稽古をしており、それを見ていた真凪や泰が後に加わり今の関係に至る。
湊鵺が闘えるようになったのは、崇のお陰である。
そんな魔法稽古の様子をいつも傍で見守っていたのが壱。
『悠に殺されるぞ?湊鵺に抱きついてると』
注意をしたのは天牙咲 藍。
短めの灰色の髪に紫色の瞳を持ち、雷属性の魔法を得意としている。
悠と同じ高等部の2年生で純血魔族の男子生徒。
いつも悠の弟馬鹿の超絶長い話を聴いてあげている。
弟馬鹿過ぎる兄を持って可哀想だな、といつも思っているから湊鵺に同情していたりする。
白薔薇の貴公子と呼ばれている。
『湊鵺とは同じ男同士なんだから別に良いじゃんか〜』
あっかんべーと藍にする。
『泰、弟から離れろ……』
悠が修羅の表情をするも気にしていないのは泰。
『初等部の時から思っていたけど、いい加減さぁ弟離れした方が良いですよ〜お兄さん』
湊鵺にしっかり抱きついたまま言い返す泰に、悠の頭の血管が切れたような音がしたのは気のせいだろうか。
『テメェ、許さんぞ……湊鵺にベタベタと』
『いつもベタベタしてるのはお兄さんじゃないの〜?』
2人の言い合いが始まってしまった。
湊鵺が絡むと馬鹿になる悠。
些細な言い合いから廊下で魔法稽古?にまで発展し出してしまう。
『これは暫く止む気配が無さそうだ!毎度ながら湊鵺も苦労するな!』
真凪は悠と泰の様子を豪快に笑いながら観ている。
『真凪が止めてくれたら助かりますけどね……』
『そうか!だが俺が止める理由が見当たらない!だから湊鵺の横で静観しようではないか!』
湊鵺を挟んで反対側には壁に背を預け壱が静観している。
真凪は片手を前に構えると大刀が宙に現れた。
『ふむ、更にヒートアップしているな!これはいかんな……炎の精霊よ、障害より我を守護し給え……火炎防御陣!!』
大刀を構えて詠唱したと同時に悠と泰の流れ弾のような魔法攻撃を弾いた。
辺り一面に紅き花弁が舞い散った。
『流石は真凪だね』
攻撃魔法を一瞬にして相殺する真凪を褒めたのは壱。
『俺がしなくとも湊鵺がしただろうがな!』
豪快に笑っている真凪。
『そろそろ喧嘩は止めろ、悠!年長者が馬鹿してるなよ』
藍が仲裁していた。
いつも仲裁するのは藍の役目だったりする。
辺り一面氷の世界化してしまっているので、ちょっと遅すぎたが何とか喧嘩は止む。
『喧嘩も収まった事だし今後どうするかを学園長に指示を仰ごうか』
壱が皆を引き連れて学園長室へと向かうと、学園長室の扉の前でひとりの男子生徒が立っていた。
『華架院が居て来るのが遅いよ、俺かなり待ってたんだけど。玖皇と桜架院が問題でも起こして時間を無駄にでもした?』
ちょっと毒づいた発言をしているのは、胸元まである薄い桃色の髪に同じ色の瞳を持っている純血魔族の特別科の1年生。
名前を天凰司 藤。
得意とするのは地属性の魔法。
いつも毒づいた発言をしているが本人に一切の悪気は無い。
華架院 壱を尊敬している。
壱を寮長と呼び、悠を副寮長と呼ぶ。
玖皇 悠には年上に敬意を払わないといつも叱られていたりする。
弟の玖皇 湊鵺とは実は仲が良く、ふたりで学園内にある展望台の塔で夜空を眺めている事があるのだとか。
星や月を眺めるのが大好きな一面がある。
『天凰……』
『て……』
悠と泰が同時に抗議しようとするも。
『ふたりは五月蝿いから黙って』
ピシャリと藤に言われて言えず仕舞い。
壱がある程度宥めてから学園長室の扉をノックする。
入りなさい、と学園長の返答がありそれぞれに緊張感ある表情をしながら、部屋へと足を踏み入れたのだ。