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第3話

『今宵は嫌な予感がしますね』


校門の前で夜空を見上げるのは銀薔薇の貴公子。


遠くの方で叫び声が聞こえ我に返る湊鵺。


助けて!と叫び声が聞こえる。


遠くの方では数人の生徒が倒れていた。


制服からして普通科の生徒であった。


その中心には数匹の獣型の魔物が佇んでいた。


『魔物か……』


この世界には魔物が住んでいる。


学園の敷地の周りは森に囲まれている為、魔物が出ることがある。


その為、夜は特別科の生徒が当番制で警備している。


『あれは下級の魔物。一瞬で片付けます』


右手に意識を集中させると銀色の大鎌が姿を現す。


『光の精霊よ、この地に巣食う悪しき者を貫け、聖天射矢(ホーリーアロー)


大鎌を振るうと幾つもの七色に光る矢が魔物へと放たれる。


『これもまた運命、永久にお眠りなさい』


気絶した生徒に回復魔法をかけて、起こすと生徒達は涙を流していた。


『銀薔薇様にはご迷惑を!』


謝ったのは紅堂(くどう) 美紗(みさ)


普通科の高等部で湊鵺と同じ学年。


人族の名家のお嬢様である。


黒髪でポニーテールをしている。


瞳の色も黒。


『怪我は魔法で癒しましたが、不具合はありませんか?』


『えぇ、私からもお礼を……』


頭を下げたもう1人の女生徒は白鳥(しらとり) (あん)


腰までの栗色のロングヘアに栗色の瞳を持つ。


美紗と同様に名家のお嬢様である。


普通科の高等部で同じ歳である。


『びっくりしちゃって対応、為損(しそこ)なったの』


『夜は魔物が出るから退治するって飛び出して行ったクラスメイトを追いかけたら反対に襲われてしまって』


美紗も庵も困ったように話す。


『魔法で治せるのは怪我までですから、間に合って良かったです。今後は気を付けて下さいね』


その場にいた男子生徒達も謝る。


『今度御礼をさせて下さいませね』


そう言って庵達は太陽の寮へと戻って行く。


生徒達の後ろ姿を見送る湊鵺。


『下級とはいえ魔物を一瞬で滅してしまうのだから恐ろしい事だな』


木の影から現れたのは崇だった。


『居たのですね、下級の魔物相手に手古摺(てこず)ることは有り得ません』


『力を貸すまでも無いようで安心したぞ』


『崇の力を借りる……?色欲魔の力なんて借りたくもありません』


『お前……本当に嫌味しか言わないなぁ?初等部で出会った頃とは別人だぞ』


『え……』


じーと見つめる湊鵺。


『もう少し今より可愛げはあったぞ』


『そうですか?』


考え込む表情を黙って見つめる崇。


『壱から魔力貰ったのだろう?安定してい……』


言いかけた瞬間、倒れ込んだ湊鵺。


袖口から血が滴っており、地面が赤く染まっている。


『湊鵺!さっきの戦闘で怪我したのか!?』


抱き抱えて出血部位を見ようと腕を(まく)る。


『これは……』


『聖属性魔法の反動か……出血が止まらないな』


珍しく焦った様子の崇を黙って見つめる湊鵺。


『大丈夫ですから』


『この馬鹿が!そんな訳あるか!』


怒鳴る崇に、驚いたせいで反応出来ずにいた。


『俺の魔力を傷口に注いで止血だけするぞ』


『え、いや……大丈夫』


『止血するのにジャケットを……』


制服のボタンに手をかけようとすると、湊鵺が慌てて手で制止する。


『何をしている。怪我をしているのだから今は聞けない、手を退けろ……』


怒りが混じる紅い双眸。


『自分でするから……』


『今はお前の意思は聞かん』


力を入れて抵抗しようとする湊鵺の両手首を拘束して、ジャケットのボタンを外す。


きちんと結ばれているネクタイに、シャツの姿になる。


肩から出血しているのか、片腕は血に染まっている。


『崇……大丈夫だから放っておいてくれて構わない』


『ふざけるな、勝手に怪我をする湊鵺が悪い』


どれだけ心配をかけたら気が済むんだ、と耳元で話す。


苦しそうな表情の崇。


観念したのか、力が出ないのか無抵抗になる湊鵺。


『湊鵺……本当はお前が女……』

『おーい、ふたりとも大丈夫だったかい?』


そこへ壱が割って入る。


『遅くなってごめんねぇ、寮長として面目ないよ』


湊鵺の血に染まったシャツを見て。


『じゃあ、僕がしようか?』


『駄目だ』


抱きしめる腕に力がこもる。


『崇……湊鵺が圧死するから力加減しなきゃね』


にこにこしている壱。


『湊鵺、傷口を見せろ……シャツも脱げ』


シャツのボタンを外そうとする。


『崇!それは』


力を込めて抵抗しようとすると。


『傷が開くとマズイから動かない方が良いよ』


壱が珍しく崇の肩を持つ。


『湊鵺……?』


崇が優しい声色で耳元で囁くと、戸惑いの色を見せる蒼い瞳。


『私は……』


『ボタンは全部外さないから安心しろ。傷の状態確認をするのに少し……悪いが我慢しろよ』


肩にある傷口に顔を近付けて舌を這わせて血を舐めると血に反応したのか崇の紅い瞳が仄かに光った。


舐められた刺激のせいか瞳が潤んでしまった彼女を目の当たりにし崇だけでなく壱までも理性が崩れかける。


『崇、身体が反応しているよ。僕が代わるから』


そう言うと湊鵺の身体を抱き締めて傷口から流れ出ている血を舌で優しく舐め上げる。


『ごめんね、恥ずかしいだろうけれど止血しないと貧血になるからね。少し我慢するんだよ?大丈夫、痛くないように優しくしてあげるからね』


しばらくすると傷口からの出血が徐々に治まり始めた。


『止血は出来たけれど、傷は塞げてないから暫くは安静だね』


壱が再度止血を確認している。


『ごめんなさい…………』


ふたりに謝る湊鵺。ただ恥ずかしかったのは内緒である。


『ん、まぁお前が無事ならそれで良い……』


『僕らの親友なんだから心配するのは当然でしょ?』


ふたりの反応に安堵の表情をする。


『だいたい男の貧相な裸なんて興味ねぇよ』


しれっという崇に、冷笑を浮かべる湊鵺。


あぁいつもの光景である、と壱は苦笑する。

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