第69話(最終話) ロング・ウェイ・トゥ・ザ・トップ
俺たちはコボルトの追撃を振り切り、何とか鉱山フィールドを脱出した。
中級ダンジョン一階層から地上へ。
そして冒険者ギルドに戻ってきた。
捜索隊に参加した他の冒険者パーティーは、既に戻ってきていた。
アンのお父さんたちが冒険者ギルドに入ると、ギルド内はドッと湧いた。
「うおお! 生きてやがったのか!」
「心配させるなよ! この野郎!」
「ガハハ! 死に損ねたな! バカ野郎!」
アンのお父さんたちは、強く背中を叩かれたり、小突かれたりと、冒険者から手荒い歓迎を受けた。
俺たちは冒険者をかき分けて受付に進む。
受付嬢のドナさんが、俺を見てニコッと微笑む。
アンのお父さんは受付で帰還を報告し終えると、冒険者たちに向き直り礼を述べ始めた。
「みんな! 俺たちを見捨てずに捜索をしてくれてありがとう! おかげで娘と再会することが出来た!」
アンのお父さんがアンをグッと抱き寄せた。
ギルド内が盛り上がる。
「おう! 娘さんを大事にしろよ!」
「家に帰ったら、母ちゃんも大事にするんだぞ!」
乱暴だが仲間への愛情がこもった言葉が、冒険者の口から次々と発せられ、冒険者ギルドの中は温度がグッと上がった。
「ユウト君のパーティーが俺たちを救出してくれた。決死の行動だった! 群がるコボルトを蹴散らして、新人パーティーとは思えなかった! ミレット様! ユウト! そして娘のアンに感謝を!」
アンのお父さんが、アンを抱き上げた。
アンもお父さんも嬉しそうだ。
俺は心底ホッとして、隣に立つミレットに気の抜けた声で言葉をかけた。
「無理はしたけど、助けられて本当に良かったね」
「はい。領民を守れて、私も満足です」
ミレットは誇らしげな表情でアンとアンのお父さんを見つめた。
受付嬢のドナさんが微笑みながら俺とミレットに寄ってきた。
ドナさんはキチンとした口調と姿勢でミレットに頭を下げた。
「ミレット様。冒険者の救助に感謝いたします」
「領主一族として務めを果たせたことに満足しています」
ドナさんは頭を上げると、俺の方を向いた。
一気に態度が崩れる。
「ユウト! お疲れ~。やるじゃない!」
ドナさんの態度は非常に気安い。
だが、それが嬉しい。
俺は頬を片側だけ引き上げて微笑む。
「結構、ギリギリだったけどね……。まあ、なんとか!」
「そう? 新人としちゃ上出来よ! あら? 表情がイマイチね……。疲れてる?」
「ちょっと無理したから……。腕が上がらないよ……」
「見せなさい!」
ドナさんは、俺を受付カウンターの椅子に無理矢理座らせた。
ドナさんが、俺の装備を外そうとするが、痛くて腕が上がらない。
「痛い! ドナさん! 痛い!」
「我慢しなさい! 男の子でしょ!」
ドナさんは、俺の革鎧をはぎ取り、シャツをはぎ取った。
「ちょっと! ユウト!」
「何ですか! これ!」
ドナさんとミレットが、俺の体を見て驚いている。
俺は痛くて首を動かすことが出来ない。
「どうかしたんですか?」
ドナさんが、眉根を寄せて答える。
「内出血してる……。これは筋が切れたわね……」
「えっ!?」
筋が切れてる!?
どうりで腕が上がらないわけだ……。
「スラッシュを連発したからかな?」
「……」
ドナさんは、無言で俺の肩をなでる。
ドナさんの手はヒンヤリとして、とても気持ち良い。
「ユウト! よくやった! うん? どうした?」
今度はタイソン教官がやって来た。
ドナさんが、タイソン教官に呆れた声で俺の行動を教える。
「スラッシュを連発したんですって! まったく!」
「それで、これか……。随分、無茶したな。必殺技は強力だが、体に負担がかかるのだ。ここぞという時に使うようにしろ」
「わかりました。ちょっと連発しすぎましたね。でも、アンのお父さんたちが助かったから良かったです」
俺が痛みを堪えてタイソン教官に返事をすると、タイソン教官は目を大きく開き、そして優しく笑った。
「ふ……。そうか。もう、新人とは呼べんな」
タイソン教官は、腰の道具袋からポーションの瓶を取り出し、俺の肩にダクダクとポーションをふりかけた。
「これは俺のおごりだ。今日はゆっくり休め」
「ありがとうございます!」
タイソン教官がポーションを使ってくれたので、俺の肩はすっかり良くなった。
「ドナさん。ショートソードが壊れちゃいました。ギルドに中古の剣はないですか?」
「あるけど、有料よ!」
「ああ、今回は赤字だな……」
俺は服を着て、装備を身につけながらぼやいた。
するとアンがニマニマしながら寄ってきた。
ミレットもニコッとしている。
何だろう?
「ふふん! ユウト君! 安心したまえ!」
フンス! フンス! とアンの鼻息が荒い。
何だろう?
ミレットがニコッと笑って、腰に下げたマジックバッグに手を入れた。
するとマジックバッグから次々と魔石が出てくる。
ミレットはカウンターにドンドン魔石を置き、魔石の小山が出来た。
俺とドナさんは、驚いてカウンターに積み上げられた魔石を見る。
「えっ!? この魔石はどうしたの!?」
「コボルトの魔石です。アンさんが、ちょこちょこ拾い集めて私の所に持ってきたのです」
「ほら、お父さんたちを助けに行った時に、沢山転がっていたでしょ? 戦闘中も倒したコボルトから魔石がドロップしたし。もったいないから拾っておいたの!」
アンとミレットはドヤ顔だ。
「よくそんなことが出来たな……。アンは意外としっかり者なんだね」
「まあね! これでショートソードが買えるでしょ?」
「ああ! ありがとう!」
冒険者ギルドでは、酒樽が開けられアンのお父さんたちの帰還を祝った。
俺とミレットも、ちょっとお酒に口をつけて顔を真っ赤にした。
誰かが歌を歌い出し、自然と手拍子が始まり、踊り出す者、はやし立てる者、バカ騒ぎが続く。
外の店から料理が運ばれ、冒険者たちの空腹を満たす。
俺とミレットは、ホールの空いているテーブルにつき、俺は骨付き肉にかぶりついた。
「ねえ、ユウト。気になっていたのだけど、ユウトは使徒なの?」
「使徒? 神様の使いってこと?」
「そう。ほら、スキルのこと。どう考えてもユウトのスキルはおかしいの。だから使徒なのかなって……」
ミレットは、真剣な目で俺を見た。
「俺は使徒じゃないよ。スラム出身のただの冒険者さ。ただ、神様からもらったスキルがちょっと特殊で、他の人と違ったスキルの獲得が出来るんだ」
「そうなのね!」
俺はミレットを見て考えた。ミレットとは一緒に死線を越えた。仲間として、友として、俺のスキルを教えても良いんじゃないか?
「ねえ。ミレット。俺のスキルを教えるよ。他の人には内緒にしてくれる?」
「フフ……。二人だけの秘密ですね?」
「そうだね」
「わかったわ!」
俺はミレットにスキルを打ち明けた。
ミレットは驚いていたが、信じてくれた。
「その【レベル1】というスキルのレベルが上がるとどうなるんでしょう?」
ミレットの疑問に俺は答えを持っていない。
だが、とても楽しみだ。
外れスキルだと思った俺のスキル【レベル1】は、まだまだ可能性がある。
これから俺が冒険者として成長するとともに、スキル【レベル1】も成長するんだ!
明日からの冒険が楽しみだ!
「ミレット。これからもよろしくね!」
―― 完 ――
◆あとがき◆
お読みいただきありがとうございました!
当小説『外れスキルは、レベル1!』は、コンテスト用に書いた小説です。
今話で完結です。
文字数は十一万文字ちょいでまとめられたので、だんだんコンテスト用に書くことに慣れてきたなと思っています。
反省としましては……、
1 討伐ポイントが複雑で分かりづらかった。
⇒戦略性を出そうとしたが、生かし切れなかった。普通に経験値で良かった。
2 アンのキャラクターがハッキリしなかった。
⇒もうちょっと特徴をつけた方が良かった。例えば、『獣人で差別をされていて、お父さんを助けて欲しいのに、誰も助けてくれない』といった背景設定があった方が良かった。
――と、作者は書き終わって思っております。
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次の小説は、既に書き始めています。
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こちらの新作も、ぜひ読んでみてください!
どうもありがとうございました!
また、お会いしましょう!




