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外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!  作者: 武蔵野純平
第四章 中級ダンジョン

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第68話 脱出

「スラッシュ!」


 切る! 斬る! キル!


「どけよ! スラッシュ!」


 俺はスキル【剣術】の必殺技スラッシュを連発して、群がるコボルトを蹴散らす。

 俺の剣で一刀両断されたコボルトが次々に消滅していく。


 だが、圧倒的な物量。

 目の前のコボルトが消えると、次のコボルトが視界に入り込んでくる。


 すかさずショートソードを右から左へ振り下ろす。

 スラッシュで袈裟斬り。

 ショートソードを返して、今度は左から右へ振り下ろす逆袈裟。


「うおおお!」


 次々にコボルトを仕留めるが、敵は無限にも思える。

 一体どこから湧いてくるのだろう?

 この鉱山フィールドには、どれほどのコボルトがいるのだろう?


 俺の疑問にダンジョンは答えてくれない。

 ただ無慈悲に機械的にコボルトを吐きだし続ける。


 俺は圧倒的な物量を前に絶望しそうになる心を叱咤し、足を前へ進め、剣を振るう。

 既に俺は何度剣を振るったか分からなくなっている。


 必殺技スラッシュといっても、空気を切るようにはいかない。


 コボルトにショートソードが当たった瞬間、俺の手元には骨を砕く感触が伝わる。

 コンクリートにバットを叩きつけたような強い衝撃が、ショートソードの剣芯を通じて俺の手のひらに伝わるのだ。


 一瞬の嫌悪感。


 だが、スキルの必殺技に肉体は引きずられ、繰り出した剣は止まらない。

 コボルトの毛皮を引き裂き、中の肉を断ち、命を絶つ。


 切るというよりは、屠殺という言葉がピッタリくる妙な重さ、爽快感など欠片もない作業が続く。


 俺は背後にいる仲間を生かすため、自らが生き残るために必死で剣を振るった。


 背後からミレットの声が聞こえる。


「ファイヤーボール!」


 ミレットも魔法を放って、少しでもコボルトを減らそうと奮闘している。


「ユウト! あと少し! お父さん! 左を抑えて!」


 アンの絶叫が聞こえる。


「気合い入れろ! あと少しだ! 地上へ帰るんだ!」


 アンのお父さんが野太い声で檄を飛ばす。


 一人一人がギリギリの状態で何とか生き残ろうと足掻いている。

 あと少し……なのか……。


 もう、手の感覚はなくなってしまって剣を握っている感触はない。

 ただ、毎日降り続け手に入れた自分の剣技を信じて、俺は体を動かす。


 そうだ!

 スキル【剣術】は、俺が体得したスキルだ!

 突き抜けろ!


 もう、剣の重さも何も感じない。

 俺は淡々とコボルトを刈り続ける。


「スラッシュ! クッ……!」


 突然ショートソードが折れた。

 何度も必殺技を繰り出し、コボルトを倒しまくったせいで、剣に限界が来たのだ。


 俺の足が止まる。

 俺に向かってコボルトが殺到した。


「スイッチ!」


 アンが飛び込んできた!

 アンは、左手に持ったシールドの角でコボルトのアゴをカチ上げ、右手でショートソードを突き出す。

 ショートソードが刺さったコボルトを蹴り、ショートソードを抜きながら遠ざけると、違うコボルトをショルダーチャージでカチ上げ吹き飛ばす。


「コレ使え!」


 俺の前に長剣が差し出された。

 大怪我をした新人タナーさんだ。

 ミレットが手持ちのポーションで手当をしたが、失った血は戻っていない。

 顔色は青く痛々しい。


「すまねえ。俺は走るので精一杯だ。頼む!」


 タナーさんが左頬を引っ張り上げて無理に笑顔を作る。

 精一杯の虚勢。


 俺はタナーさんの長剣を握り短く返事をする。


「頼まれた!」


 俺は長剣を振りかぶり、足を踏み出しながら必殺技を発動する。


「アン! スイッチ! 前へ出る! スラッシュ!」


 アンは殺到するコボルトの集団を押しとどめたが、コボルトたちの圧力が強く、前へ進むことは出来ないでいた。


 俺は必殺技スラッシュを発動しながら、素早く足を滑らすように歩を進める。

 アンは無言で後ろも見ずに、トンと軽くステップを踏んで後退し俺と入れ替わる。


 アンが下がったスペースをコボルトたちが埋めようと前へ進み、そこへ俺の長剣が唸りを上げて襲いかかった。


 リーチの長さ。


 タナーさんから借り受けた長剣は、ショートソードの倍の長さがあった。

 リーチが段違いだ。


 俺が踏み込み長剣を振るうと、前方のコボルト十匹が一瞬で消え去った。

 これならいイケる!


「スラッシュ!」


 剣を振るというより、振り回す方が近い。

 俺は長剣を地面ギリギリで切り返し、長剣の重さと遠心力を利用して剣の破壊力と剣速を増す。


 俺の長剣に触れたコボルトが消え、周囲のコボルトは剣圧に吹き飛ばされる。


「ユウト! あと少しです!」


 ミレットの声を背中に聞きながら、俺は長剣を振り回す。


「ガアアア! スラァァァァァッシュ!」


 絶対に生き残る!

 ミレットを連れて地上へ戻る!


 俺は強い思いを長剣にのせて、スラッシュを繰り出した。

 コボルトを消し飛ばした先、前方にぽっかりと隙間が空き、さらに暗い空間の先に灯りが見えた。

 出口だ! 井戸だ!


「抜けたぞ!」


「うおおおお!」


 俺の叫びに仲間たち呼応する。

 俺たちは、出口に通じる通路に転げ込んだ。


 ミレットが俺に代わって指示を出す。


「怪我をした人から先に出て! 殿は――」


「俺がやる! スラッシュ!」


 俺は通路をジリジリと下がりながら、スラッシュを繰り出す。

 通路の壁ギリギリを俺の繰り出した長剣の切っ先が通過し、通路を進んでくるコボルトを切り裂く。

 自分でもこんな器用なことが出来るのかと驚く。


「ユウト……お任せします! さあ! 早く! ロープを使って脱出を!」


 俺は後ろを見る余裕はない。

 ただ、剣を振り続け、ジリジリと後ろに下がる。


「いいか? 最後にロープで引っ張り上げるからな!」


 アンのお父さんだ。

 アンのお父さんは、俺の腰にロープを回しきつく結んだ。


「行って下さい! スラッシュ!」


「任せたぞ!」


 アンのお父さんの気配が遠ざかっていく。

 井戸の底で俺は一人だ。


 俺はスラッシュを連発しコボルトを片端から消し去るが、ダンジョンは俺を圧殺しようと容赦なく数を送り込んでくる。


 ――今度は長剣が折れた!


「死んでたまるかよ!」


 俺は吠え、同時に近づいて来たコボルトを蹴り飛ばす。

 勢いをつけた蹴りがコボルトのみぞおちに入り、コボルトが後ろへすっ飛ぶ。


「引くぞ!」


 アンのお父さんの声だ!

 アンのお父さんの掛け声と同時に腰に回ったロープが引かれ、俺の体が宙に浮く。


 スウッと俺の体が浮き、視界が切り替わる。

 コボルトの集団が下に見えるようになった。


(あっ……)


 俺は戦いの終わりを感じた。


「オオーン!」

「ガウ! ガウ!」


 遠ざかるコボルトたちは、悔しげに俺に吠えた。

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