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外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!  作者: 武蔵野純平
第四章 中級ダンジョン

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第61話 新二階層

 俺たちは井戸の底にあったトンネルを進んだ。

 トンネルはゴツゴツとした岩で出来ている。


 そして、トンネルの終わりが見えた。

 俺はミレットとアンに『ストップ!』と合図を出し、トンネルの外をそっとのぞいてみた。


(坑道……? 鉱山の中か……?)


 ダンジョンの中だということを一瞬忘れてしまう光景が広がっていた。

 目の前には巨大な地下鉱山が広がっていて、あちこちに坑道や作業場がある。

 所々にかがり火がたかれていて、地下鉱山を不気味に浮かび上がらせていた。


 魔物は二足歩行の魔物で全身毛むくじゃら。

 犬や狼を彷彿させる顔をしている。


(コボルトってヤツか?)


 あまりダンジョンや魔物には詳しくないが、コボルトの名は聞いたことがある。

 ゴブリンよりも強い魔物らしい。


 コボルトはツルハシを担いで歩いていたり、荷車をひいていたりする。

 どうやらこの鉱山ではコボルトが作業員のようだ。


 俺はスキル【気配察知】と目視で鉱山内の状況を確認していく。

 スキル【気配察知】の反応によれば、魔物の数は多い。

 ざっと数えただけで五十匹はいる。

 だが、あちこちの坑道に散らばっているようで、目の前に見えるのは五匹だけだ。


 気になるのは、右手奥の方だ。

 スキル【気配察知】に反応があるのだが、動きのある反応が二十、そしてジッとしていると思われる動きのない反応が四つある。


 この動きのない反応が、アンのお父さんたちということはないだろうか?

 救助を待ってどこかに籠城しているとか?


 俺は一旦思考を中断しトンネルに引っ込む。

 ミレット、続いてアンがトンネルの外をのぞき込んだ。


 俺たち三人は、トンネル内に座り打ち合わせを始めた。


 まずミレットが厳しい表情で口を開いた。


「コボルトがいますね。コボルトはゴブリンよりも強い魔物です。一体、一体は、それほど強くないそうですが、仲間を呼び数が増えるのが厄介な魔物です」


「ゴブリンよりも強い……。初心者ダンジョンボス部屋の強化型ゴブリンくらい?」


「はい。シンシアによると力や素早さはボス部屋のゴブリンとおなじくらいです。ただ、ツルハシやスコップを持っているコボルトもいるので注意が必要だと」


 コボルト一匹なら俺たちで対応可能だが、仲間を呼ばれると面倒そうだ。

 数の暴力ってのはあるからな……。


「あの……気になるのは……。シンシアは違うダンジョンの話として、コボルトの話をしてくれたんです」


「違うダンジョンの話なの?」


「はい。ですから、このフィールドはどこなのかと考えていて……」


「違うダンジョンかもしれないし、中級ダンジョンが拡張して新しいフィールドが出来たのかもしれない。今は考えても仕方ない。仮にここを新二階層と呼ぼう」


「そう……ですね……。わかりました」


 中級ダンジョンが他のダンジョンにつながるなんてことがあるのだろうか?

 だが、ダンジョンの存在自体が不思議なのだ。

 あるかもしれない。


 続いてアンが不安そうな声を上げる。


「お父さんたち、ここに入っちゃったのかな……?」


「「……」」


 俺とミレットは返事をしかねた。

 ミレットはアンを気遣って返事を躊躇ったのだろう。


 だが、俺はスキル【気配察知】で、アンのお父さんたちかもしれない反応をキャッチしている。

 言うべきか、言わないべきか……。


 俺はかなり迷った。

 だが、アンの泣きそうな顔をみたらあまりにもかわいそうに思えた。


 もし、俺の母――サオリママが行方不明になったらどうだろうか?

 俺は何が何でもサオリママを探すだろうし、とても不安で悲しい思いだろう。


 俺がスキル【気配察知】を持っていると伝えれば、ミレットとアンは不審がるに違いない。

 俺のスキル、特に【レベル1】について追求されるかもしれない。


 でもなあ……。

 もし、この【気配察知】の反応がアンのお父さんで……。

 冒険者ギルドに引き返してから救助に向かいました……。

 既に亡くなっていました……。

 なんてことになったら、俺はアンの顔を直視できるだろうか?


 この状況が一回冒険者ギルドへ戻る方が良いだろう。

 戻る理由はいくらでもある。


『常識的に考えれば……』

『戦力比を考えれば……』

『生存確率を考えれば……』


 だが、アンのお父さんが死んでしまえば、アンは……。


 自分の思考が感情に引きずられていることを自覚して、俺は思わず自嘲する。


「俺って頭が悪いんだな……」


 もう、俺の気持ちは決まっていた。

 アンに動かない気配があると告げよう。


「二人とも聞いて欲しいんだけど――」

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