第35話 アンが冒険者パーティーに臨時加入!
俺とミレットは冒険者ギルドに戻ってきた。
冒険者ギルドのロビーでは、アンが冒険者たちに呼びかけている。
「お父さんを見ていませんか? お父さんを探して下さい!」
「アン!」
俺はアンに声を掛けた。
アンは、ちょっと驚いた顔をして俺とミレットを見た。
「アン。ミレットから提案があるんだ」
「提案?」
俺はミレットに場を譲る。
「アンさん。わたくしたちと一緒にお父様を探しに行きませんか?」
「えっ!? でも、父は中級ダンジョンに……。私たち新人は中級ダンジョンに入れません」
「そうですね。そこで、アンさんがわたくしたちのパーティーに臨時で加入して、初心者ダンジョンを踏破すれば、中級ダンジョンに入れますわ」
「初心者ダンジョンを踏破……!? それは……そうですが……」
アンは突然の申し出に困惑している。
無理もない。
俺は話をミレットから引き継いだ。
「ねえ、アン。ミレットはね。君のことも、君のお父さんのことも、本当に心配しているんだ。それで、俺が『アンのお父さんを一緒に探そう』と言ったんだ」
「そりゃありがたいけど……。良いの?」
「ああ。俺たちにもメリットがあるんだ。アンが臨時でパーティーに加入してくれれば、一時的に戦力が増えるからありがたい。初心者ダンジョンを早々とクリア出来る」
俺は正直に自分たちのメリットをアンに告げた。
アンの立場なら、『自分が負担をかけているだけ』と感じてしまうだろう。
俺たちにも利がある。
一方的な慈善活動ではない。
――と、アンに思わせた方が、アンの精神的な負担が減るだろう。
「そっか……。ミレット様のパーティーは、あなたと二人だけか……。私が入れば戦力アップになるわね……」
アンは前向きに考えているようだ。
俺はちょっと気になっていることをアンに尋ねる。
「アンの所属している冒険者パーティーはどうしたの?」
「今日は休みにしてもらった」
「じゃあ、臨時加入に問題はないかな?」
「ええ。大丈夫よ」
「よし! アンに俺たちのパーティーに入ってもらって、速攻で初心者ダンジョンをクリアしよう!」
俺が力強く宣言すると、アンがポカンとした顔をした。
「あなたって……呆れるわね……。急いで初心者ダンジョンを抜くつもりみたいだけど、出来ると思ってるの?」
「出来ると思う。俺なりに計算は立っているよ」
アンは腕を組んで真剣に考え始めた。
アンとしては、『父親を探しに行く』のは嬉しい提案だろう。
だが、アンはダンジョン探索の大変さをよくわかっているはずだ。
お父さんは冒険者だから色々ダンジョン探索の話を聞いているだろうし、アン自身も新人冒険者としてダンジョンに潜っている。
慎重な判断。
冒険者にとって重要な資質だ。
俺はアンの慎重さを内心歓迎し、アンが決断を下すのをジッと待った。
しばらくして、アンが決意のこもった目で、俺とミレットを見た。
「お二人の申し出に甘えさせていただきます。ありがとう! よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく!」
「アンさん。頑張りましょう!」
俺、ミレット、アンの三人は、初心者ダンジョンへ向けて走った。




