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第3話 母さん! ごめんね!

 太った男の子が俺を指さして叫んだ。


「外れスキルだ!」


「えっ!?」


 俺を指さした太った男の子は良い身なりをしている。

 金持ちの子だと一目でわかった。

 意地の悪そうな目で俺を見て、得意げに続ける。


「コイツのスキルは外れスキルに決まってる!」


 神殿の中でひそひそ声が聞こえだした。

 成人の儀式の付き添いに来た大人たちを中心にひそひそ声が広がっていく。


「レベル1か……」

「聞いたことのないスキルだ……」

「確かに外れスキルっぽいな……」


 嫌な感じだ。

 ジットリとまとわりつくような視線を感じる。


 太った男の子は、俺を指さして大声で罵倒し続ける。


「それにコイツはスラムのヤツだ! 見ろ! ボロボロの服に裸足だぞ! こんなヤツが神様から良いスキルをもらえるわけがない!」


「関係ないだろう!」


 俺は必死で言い返した。

 スキルの善し悪しと、スラムの住民であることは関係がない。


 だが、神殿にいる人たちは容赦なかった。

 特に子供は面白がって俺を冷かす。


「本当だ!」

「シャツに穴が空いてる!」

「それに臭いぞ!」

「うわ! 臭い! ドブの臭いだ!」


「臭くないよ! 毎日水浴びしてるよ!」


 俺の言葉は届かない。


 スラムの住人――それだけで嫌われ、バカにされる。

 俺だって好きでスラムに転生したわけじゃない!

 理不尽さに怒りで体が震える。


 太った男の子が俺に近づいて来た。

 そして力任せに俺を押しやる。


「おい! ハズレ野郎! 出てけよ! スラムに帰れ!」


 俺はバランスを崩して尻餅をついた。

 見上げると太った男の子が腕を組み勝ち誇っている。


「そうだ! 帰れよ!」

「スラムに帰れ!」

「帰れ! 帰れ!」


「「「「「帰れ! 帰れ!」」」」」


 神殿の中が悪意に満たされる。

 俺は生贄かよ……。


 スラムで生まれ育った。

 だから、スラムの外の連中が、俺たちに悪意を向けることは知っている。

 それでも、これほど多くの人から悪意を向けられたことはなかった。


 嫌悪、軽蔑、侮蔑、嘲笑……色々な気持ちが混ざった視線が俺に突き刺さり、俺の心はプレッシャーに押しつぶされそうになる。

 息が苦しい。


 スッと差し伸べられた手があった。

 成人の儀式を仕切る神官だ。


 まだ、若い神官は俺を立たせると、神殿の出口へ向かって歩きだした。


「ここは危険です。早くお家へ帰りなさい」


「……」


 神殿の外へ出た。

 俺はやっと息が出来た。


 どうしたら良いのだろう……。

 俺は背中を丸めてトボトボと歩き出した。



 *



 どうやって家に帰ったのか覚えていない。

 気が付くと家にいて、サオリママが仕事から帰っていた。

 サオリママが心配そうに俺の顔をのぞき込む。


「ユウト! どうしたの!? 泣いているじゃない!」


「ごめんなさい」


 俺は謝っていた。


「どうしたの? 成人の儀式で何かあったの?」


「母さん。ごめんなさい……。スキルは外れスキルだった。ごめんなさい」


「まあ! そんなことを気にしていたの! こっちにいらっしゃい」


 サオリママが俺を引き寄せて、優しく抱きしめてくれた。


「母さん! ごめんね!」


「謝らなくて良いのよ。スキルは神様からの頂き物よ。どんなスキルでも大事になさいな」


「うん……うん……」


「どんなスキルでも、ユウトは私の大切な息子よ。ユウト。成人おめでとう」


 気が付くと俺は大声で泣いていた。


 スラムでの厳しい暮らし。

 日本から転生したギャップ。

 この十三年間、俺は苦しかった。


 俺の気持ちを支えてくれたのは、転生の女神様が約束してくれたスキルだった。

 その支えを、今日否定された。

 そして、スラムの子供として沢山の人から悪意をぶつけられた。

 俺は辛かったのだ。


 俺が泣き止むまでサオリママは俺の背中を優しく撫でてくれた。

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