第1話 プロローグ
異世界は二話からです。読み飛ばしても大丈夫です。
「ふう……やっと……やっと休みだ!」
俺は七十五連勤を終えて、家に帰ってきた。
勤め先はIT企業なのだが、人手不足でなかなか休みが取れない。
七十五連勤は、なかなかのブラック具合だと思う。
耐えている俺は偉い!
社畜の手本だ!
労働基準法プリーズ!
時間は夜の十一時。
明日は久々の休みだ。
休みとくれば……やることは一つ!
「買ったぞ! 新作ゲームだ!」
俺はゲーム機の電源を入れて、新発売のゲームをスタートした。
モニターには3Dの美麗なグラフィックが広がる。
仲間と旅する主人公。
襲いかかるモンスター。
ああ、RPGは良いね。
キャラメイクが終わり、俺はスタートボタンを押した。
いい年をして休みの前にゲームかよとツッコミが入りそうだが、二十九歳独身男性を甘く見るなよ……。
彼女なんておらんですよ!
彼女がいたら七十五連勤なんて引き受けん!
「ううっ!」
一人で興奮したのが悪かった。
心臓がドクンと強く鳴って息が苦しくなってきた。
「あっ……ゲームが……まだ……」
意識が遠のく。
俺が最後に見たのは、ゲームのスタート画面だった。
*
目が覚めると真っ白な空間にいた。
俺はどうなったのだろう?
息が出来なくなって、それから――。
「こんにちは。私は転生の女神です。異世界に転生しますか? イエス、オア、ノー?」
「えっ?」
俺の思考をぶった切り女性の声が聞こえた。
いつの間にか俺の目の前にきれいな女性が立っていた。
女性は自分が転生の女神だと言う。
「嫌だわ! きれいなんて! 当たり前のことは考えないで下さい!」
不思議なことに俺が口に出していないことを、女神様は聞いたようにリアクションをした。
ひょっとしたら、俺の心が読めるのかもしれない。
「いえ。本当にきれいです」
転生の女神様は、白いゆったりとした服を来ていた。
長い髪は銀色でサラサラしている。
お世辞抜きで今まで生きてきた中で一番きれいな人だ。
転生の女神様は、頬を赤くして話し始めた。
「コホン! それでどうですか? 違う世界に転生してみませんか? ゲームが出来なかったことを残念に思っているのでしょう?」
「何で知ってるんですか……?」
「うふふ。私は女神ですから何でも知っていますよ!」
どうやら本物の女神様らしい。
「あの……俺は、どうしてここにいるのですか?」
「あなたは心臓麻痺で死んだのです」
「あっ……!」
あの胸の強い痛みは心臓麻痺だったのか……。
仕事で無理をしすぎたのかな……。
俺は、まだ二十九歳なのに。
お父さん、お母さん、親不孝でごめんなさい。
「それに独身でしたよね。彼女もいなくて……」
「そこはスルーして下さいよ!」
転生の女神様の容赦ないツッコミに心が痛むぜ。
事実が一番キツイ。
「転生したら彼女が出来るかもしれませんよ?」
「むう……。女神様。煽るのはナシにして下さいよ」
「わかりました。では、改めて……。ゲームのような世界で、もう一度生きてみませんか?」
「ゲーム!? そこ詳しくお願いします!」
女神様によれば、転生する世界は魔物と呼ばれるモンスターが生息する世界だ。
剣と魔法の世界をイメージして神様が新たに作った世界。
ところが神様は人と魔物のバランス調整に失敗してしまった。
魔物の勢いが強くなってしまっているそうだ。
「このままでは、数百年後に魔物だけの世界になってしまいます。そこで一人でも多くの魂を転生させて、魔物に対抗させているのです」
「なるほど」
「異世界に転生したらゲームだと思って一匹でも多く倒して下さい」
俺は俄然興味が湧いてきた。
新作ゲームはプレイ出来なかったが、転生してリアルにゲームが楽しめる。
「わかりました! 転生させていただきます! それで……あの……転生チート的なものをいただきたいのですが?」
ちょっと図々しいかなと思いつつも、俺は女神様におねだりしてみた。
だって魔物が多い世界に転生するのだ。
優遇措置は欲しい。
女神様はニッコリと笑った。
「転生先の世界では、十三歳になるとスキルが授けられます。スキルを授けるのは地元の神様です。地元の神様にお願いしておきますよ」
「十三歳? なぜ、十三歳なのですか? どうせなら小さな頃から活躍したいです」
「体が成長していないのでスキルを体が受けつけないのです。スキルを得るには器の成長が必要で、目安が十三歳なのですよ」
「なるほど……分かりました! では、異世界で頑張ってきます!」
「よろしくお願いしますね」
女神様がサッと手を横に振ると、俺の意識が遠のいた。
そうか……、これから異世界に転生するんだな……。
お父さん、お母さん。
さようなら。
俺は違う世界で、もう一度生きてみるよ。
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