(6)
(なーにが「付き合ってあげよう」よ! 地べたに座らせたまま喋らせといて、よく言うわ!)
などと憤っていることは微塵も顔に出さずに、ローザは皇子の手を取って立ち上がった。
「とりあえず、離宮に戻りたいのですが、構いませんか? 王都を離れるなら、荷造りもしたいので」
「君の異母妹が手配した娼館は見学しないの?」
「殿下がご覧になりたいのでしたら、お一人でどうぞ」
「そう? 君のことだから、てっきり王子と異母妹を送り込むつもりだと思ってだんだけど」
「だとしても、わざわざ見ておく必要もございませんでしょう」
(そんな下品なこと、するもんですか!)
野次馬のひそひそ声が聞こえてきた。
──あそこって、特別な趣味の客が行くところだったよな。
──縛り叩かれるのが好きなお貴族たちだろ。
──王子が足繁く通ってるって噂があったな。
(王子にそんな趣味があったなんて、知らなかったわ。それも魅了で目覚めちゃったのかしら。怖いわね。というか皇子、それも調査してたのね)
「分かったよ。イケナイ場所のツアーは、また今度にして、君のお部屋を訪問しようか。ちょっとドキドキするね」
「はあ? なぜですの?」
「そりゃあ、ずっと好きだった子の自室にお呼ばれするんだからね。緊張もするさ」
(とうとう言ったわよ、この皇子! 匂わせてるだけじゃ靡かないと思って、奥の手でも出したつもりでしょうけど、胡散臭いだけだわよ! 大っ嫌い!)
「どうせ場所もご存じでしょう? 私は一人で飛びますから、勝手にいらしてくださいな」
「せっかくだから、タンデムしないかい?」
「お断りしますわ。魔術の同期発動は、慣れずにやると暴走のもとですから」
「つれないなあ」
怒号がいっそう大きくなった。
カフェテラスに乗り込もうとしている警備隊を、野次馬があの手この手で邪魔をしているのだ。
「ではお先に!」
「すぐに行くよ」
二人の姿がカフェテラスから消えたのを確認した野次馬たちが妨害をやめると、警備隊がなだれ込んできた。
「やれやれ、やっと終わったな」
「皆、協力に感謝する!」
「警備隊の皆さんも、お疲れ様でしたー」
「怪我をした者はいないか?」
「いませーん!」
「全く、公務執行妨害されているふりもラクじゃないぜー」
「迫真の演技じゃないと、どこぞの王族にバレますからねえ」
カフェテラスのオーナーが、たくさんの酒を乗せたトレイを持って、客席に顔を出した。
「今日は深夜まで飲み放題となりました。お代は帝国からいただいておりますので、皆さん遠慮なく飲んでください!」
うおおおおお!
大歓声とともに始まったタダ飲みの宴会は、明け方まで続いた。