9:ポーションはまずいものだ
お読みいただきありがとうございます。
ちょっと期間が開きましたが、無事更新しました。
不定期連載のため、また次が分かりません。すみません。
9:ポーションはまずいものだ
ウィルが狩人小屋についたときは、もう真っ暗だった。
ルードヴィヒはまだ寝ている。
時々うなされているようだが、水差しの水も少なくなり、でもこぼされていなかったので、ある程度は動けるようになったのだろう。
寝袋を出して、ウィルも寝る。
やはり連続して身体強化を使ったためか、反動で疲れがひどい。
すぐに眠りについた。
朝はいつもの通りに起きられた。
どれだけ疲れていても、もう癖なのだろう。
寝台を見ると、ルードヴィヒの姿がなかった。
「ルード?」
まだ完全には治っていないだろう身体でどこに行ったというのか。
その時、狩人小屋の扉が開いた。
包帯だらけのルードが入ってくる。
「あ、起きたのか、ウィル」
「あ、ああ。もう大丈夫なのか、ルード」
驚きは隠せない。
確かによく効く回復薬を渡して飲ませたが、そんなすぐに動けるとは思わなかった。
「あれ、効いたな。あんなまずいポーション、生まれて初めてだったぞ」
「ああ、あれは俺の知り合いが作っているんだが、品質はいいんだが、本人の特性で、何を作ってもまずくなるんだ」
「なんだそれ」
「薬師としては腕が最高なんだけどな。いかんせん、生まれ持った特性のせいでな、料理だろうが回復薬だろうが、品質が良くなるほど激マズになる」
なんともかわいそうな特性だが、その嘆きを見て、ウィルが回復薬を買っているのだ。
あまりのまずさで、金額も安く設定されているせいで、金回りのよくない新人冒険者や、ウィルのような味は二の次の冒険者が買ってくれる。
一度飲めばほとんどのものが飲みたくないと思うらしく、固定客はウィルだけだという。
王都に卸される店があるのだが、大きな町にあるギルドとかには、ウィルが注文して送ってもらっているので、どこでも手に入るようにはしてある。
「でもあれ二本ほどで、あそこまで重症がなおるとは思わないけどな」
「ん?ああ、オレ、回復魔法が使えるからな。ただし自分限定だ」
ルードヴィヒがずっと入れられていた辺境で、何度も死にかけたせいなのだろう。
攻撃魔法はそこそこだが、回復魔法が使えるようになっていた。ただし、ほかの人にはかけることができないようで、自身の自動回復のみだ。
いつの間にかスキルができていたということだろう。
「そうか」
「驚かないんだな」
「世の中にはいろんなやつがいるからな。あ、そうだ。飯だ」
買ってきたものと、生肉のままのウサギ肉を渡す。
「さすがに生は食えない」
「当たり前だろ」
外に促す。
夜明けからまだそう時間がたっていないようで、まだ朝霧が濃い。
狩人小屋に置いてあるまきで火をおこし、鉄串にさし、あぶる。
肉のいい匂いが漂う。
「塩くらいしかないけどいいよな」
「ああ、かまわない」
調味料なんてそろえてないせいで、ウィルのマジックバッグには塩くらいしか入っていない。それでも文句を言わないルードヴィヒに、大変な目にあったのだろうと、改めて思う。
「で、今日の予定なんだが、お前、王都に行く気は?」
ウサギ肉にかぶりつくルードヴィヒに尋ねる。
そのまま動きがとまった。
「あー・・・、王都はちょっといけないんだ」
「・・・そうか。なら、これからどうしたい?」
ウィルとしては見捨てられないが、ルードヴィヒが一人でいたいというならば、それを尊重しようとは思う。
「わからない」
「そっか。ならしばらくはさ、俺と一緒に来ないか?」
「え、いいのか?迷惑じゃないのか?」
「迷惑なら最初から拾わないさ。これから俺は、王都から一週間ほどのところにある街まで、届け物があるので、それを届ける。そのあとは、また、依頼受けて、ほかのとこに行くんだ。それに付き合え」
「ほんとにいいのか」
「。お前が王都の人間だってことはわかっているけどさ、帰りたくない事情があるんだろう。それなら、お前がやりたいことさがしとして、付き合えよ」
「あ・・・ありがとう」
ウィルの言葉に、ルードヴィヒは涙を流した。
彼が信じられる人物かどうかはわからない。だけど、信じたいしと願ってしまう。今は少しでも王都から離れたいのも事実だ。
「じゃ、決まりな。改めまして、俺はウィル。A級冒険者で、生態系調査人。これが冒険者ギルド証な」
カードを見せると、ルードヴィヒが目を丸くした。
「あ、オレは・・・ルード・・・」
「ああ、いい、いい。なんか事情があるんだろ。これから行くとことかには俺に知り合いとかいっぱいいるから、お前さんは、俺の恩人の息子さんって設定でいろよな」
「せ・・・設定?」
「そうしないと怪しまれるだろ。お前は、俺がまだ低ランクの冒険者の時に助けてくれた人の息子で、冒険者志望で、一緒に旅に出たって設定な」
ウィルとしては、ここ二日で考えたことを言う。
これが一番よさそうだと。
「わかった」
「そうと決まれば、さっさと旅立って、次の街で、冒険者登録するぞ」
食べ終わったものを片付け、部屋の中もある程度片付ける。
結界魔法の魔道具に魔力も補充して、出発だ。
森の中を抜け、しばらく続く平原だ。
見える範囲には何もない。
「街ってどれくらいなんだ?」
「王都から徒歩で三日くらいだな」
「そうか・・・、なあ、なんで冒険者登録しないといけないんだ?」
「お前、身分証持っていないだろ。持ってないと、街なんかはいれないんだぞ。入るときに仮の身分証発行してもらって、二日間のうちに正規の身分証が作るんだ」
知らないことだった。
誰もルードヴィヒには教えてくれないことだ。
辺境に入れられていた時も、王都にいたときも、身分証など持っていなかった。ガーネット王国の王子だったからなのだろう。
「仮の身分証って、すぐ作れるものなのか?」
「できるよ。門のところで金払って、仮の身分証を発行してもらうんだ。魔道具の一種だからな。正規の身分証ができたときには返さないとだけどな。ちなみに、期限内に正規の身分証ができないと、その仮の身分証で場所が分かって、犯罪奴隷まっしぐらだ」
「すごい魔道具なんだな」
「それで助かった人もいるけどな。事情によりけりだよ。仮身分証ではいったら、奴隷商人にさらわれて、売り飛ばされそうになった人とかは、助けられたぞ。もちろん、奴隷商人が犯罪奴隷になったな」
ウィルは、どれほどか前に、そんな街で過ごし、その時の人物を助ける手助けをした。
その時は、半殺し状態の奴隷商人を引き渡したが、ペナルティはつかなかった。
ルードヴィヒは改めて自分は世間知らずだと思った。
そのせいで、今の状況なのかもしれないとも。
「お、商人の馬車が休んでるな、幸運かもな」
目を細めた先に、いくつかの馬車が停まっているのが見える。
「向こうの街に行くなら、護衛代わりに馬車に乗れるぞ」
王都に向かっている場合はだめだけどな。
楽しそうにウィルは言う。
彼はいつも楽天的なのかもしれない。
ルードとしては、少しだけ心が軽くなったきがした。