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追放王子と生態系調査人  作者: 水野青色
9/23

9:ポーションはまずいものだ

お読みいただきありがとうございます。

ちょっと期間が開きましたが、無事更新しました。

不定期連載のため、また次が分かりません。すみません。



    9:ポーションはまずいものだ


 

 ウィルが狩人小屋についたときは、もう真っ暗だった。

 ルードヴィヒはまだ寝ている。

 時々うなされているようだが、水差しの水も少なくなり、でもこぼされていなかったので、ある程度は動けるようになったのだろう。

 寝袋を出して、ウィルも寝る。

 やはり連続して身体強化を使ったためか、反動で疲れがひどい。

 すぐに眠りについた。


 朝はいつもの通りに起きられた。

 どれだけ疲れていても、もう癖なのだろう。

 寝台を見ると、ルードヴィヒの姿がなかった。


「ルード?」


 まだ完全には治っていないだろう身体でどこに行ったというのか。

 その時、狩人小屋の扉が開いた。

 包帯だらけのルードが入ってくる。


「あ、起きたのか、ウィル」

「あ、ああ。もう大丈夫なのか、ルード」


 驚きは隠せない。

 確かによく効く回復薬を渡して飲ませたが、そんなすぐに動けるとは思わなかった。


「あれ、効いたな。あんなまずいポーション、生まれて初めてだったぞ」

「ああ、あれは俺の知り合いが作っているんだが、品質はいいんだが、本人の特性で、何を作ってもまずくなるんだ」

「なんだそれ」

「薬師としては腕が最高なんだけどな。いかんせん、生まれ持った特性のせいでな、料理だろうが回復薬だろうが、品質が良くなるほど激マズになる」


 なんともかわいそうな特性だが、その嘆きを見て、ウィルが回復薬を買っているのだ。

 あまりのまずさで、金額も安く設定されているせいで、金回りのよくない新人冒険者や、ウィルのような味は二の次の冒険者が買ってくれる。

 一度飲めばほとんどのものが飲みたくないと思うらしく、固定客はウィルだけだという。

 王都に卸される店があるのだが、大きな町にあるギルドとかには、ウィルが注文して送ってもらっているので、どこでも手に入るようにはしてある。

 

「でもあれ二本ほどで、あそこまで重症がなおるとは思わないけどな」

「ん?ああ、オレ、回復魔法が使えるからな。ただし自分限定だ」


 ルードヴィヒがずっと入れられていた辺境で、何度も死にかけたせいなのだろう。

 攻撃魔法はそこそこだが、回復魔法が使えるようになっていた。ただし、ほかの人にはかけることができないようで、自身の自動回復のみだ。

 いつの間にかスキルができていたということだろう。


「そうか」

「驚かないんだな」

「世の中にはいろんなやつがいるからな。あ、そうだ。飯だ」


 買ってきたものと、生肉のままのウサギ肉を渡す。

 

「さすがに生は食えない」

「当たり前だろ」


 外に促す。

 夜明けからまだそう時間がたっていないようで、まだ朝霧が濃い。

 狩人小屋に置いてあるまきで火をおこし、鉄串にさし、あぶる。

 肉のいい匂いが漂う。


「塩くらいしかないけどいいよな」

「ああ、かまわない」


 調味料なんてそろえてないせいで、ウィルのマジックバッグには塩くらいしか入っていない。それでも文句を言わないルードヴィヒに、大変な目にあったのだろうと、改めて思う。


「で、今日の予定なんだが、お前、王都に行く気は?」


 ウサギ肉にかぶりつくルードヴィヒに尋ねる。

 そのまま動きがとまった。


「あー・・・、王都はちょっといけないんだ」

「・・・そうか。なら、これからどうしたい?」


 ウィルとしては見捨てられないが、ルードヴィヒが一人でいたいというならば、それを尊重しようとは思う。


「わからない」

「そっか。ならしばらくはさ、俺と一緒に来ないか?」

「え、いいのか?迷惑じゃないのか?」

「迷惑なら最初から拾わないさ。これから俺は、王都から一週間ほどのところにある街まで、届け物があるので、それを届ける。そのあとは、また、依頼受けて、ほかのとこに行くんだ。それに付き合え」

「ほんとにいいのか」

「。お前が王都の人間だってことはわかっているけどさ、帰りたくない事情があるんだろう。それなら、お前がやりたいことさがしとして、付き合えよ」

「あ・・・ありがとう」


 ウィルの言葉に、ルードヴィヒは涙を流した。

 彼が信じられる人物かどうかはわからない。だけど、信じたいしと願ってしまう。今は少しでも王都から離れたいのも事実だ。


「じゃ、決まりな。改めまして、俺はウィル。A級冒険者で、生態系調査人。これが冒険者ギルド証な」


 カードを見せると、ルードヴィヒが目を丸くした。

 

「あ、オレは・・・ルード・・・」

「ああ、いい、いい。なんか事情があるんだろ。これから行くとことかには俺に知り合いとかいっぱいいるから、お前さんは、俺の恩人の息子さんって設定でいろよな」

「せ・・・設定?」

「そうしないと怪しまれるだろ。お前は、俺がまだ低ランクの冒険者の時に助けてくれた人の息子で、冒険者志望で、一緒に旅に出たって設定な」

 

 ウィルとしては、ここ二日で考えたことを言う。

 これが一番よさそうだと。


「わかった」

「そうと決まれば、さっさと旅立って、次の街で、冒険者登録するぞ」


 食べ終わったものを片付け、部屋の中もある程度片付ける。

 結界魔法の魔道具に魔力も補充して、出発だ。


 森の中を抜け、しばらく続く平原だ。

 見える範囲には何もない。


「街ってどれくらいなんだ?」

「王都から徒歩で三日くらいだな」

「そうか・・・、なあ、なんで冒険者登録しないといけないんだ?」

「お前、身分証持っていないだろ。持ってないと、街なんかはいれないんだぞ。入るときに仮の身分証発行してもらって、二日間のうちに正規の身分証が作るんだ」


 知らないことだった。

 誰もルードヴィヒには教えてくれないことだ。

 辺境に入れられていた時も、王都にいたときも、身分証など持っていなかった。ガーネット王国の王子だったからなのだろう。

 

「仮の身分証って、すぐ作れるものなのか?」

「できるよ。門のところで金払って、仮の身分証を発行してもらうんだ。魔道具の一種だからな。正規の身分証ができたときには返さないとだけどな。ちなみに、期限内に正規の身分証ができないと、その仮の身分証で場所が分かって、犯罪奴隷まっしぐらだ」

「すごい魔道具なんだな」

「それで助かった人もいるけどな。事情によりけりだよ。仮身分証ではいったら、奴隷商人にさらわれて、売り飛ばされそうになった人とかは、助けられたぞ。もちろん、奴隷商人が犯罪奴隷になったな」


 ウィルは、どれほどか前に、そんな街で過ごし、その時の人物を助ける手助けをした。

 その時は、半殺し状態の奴隷商人を引き渡したが、ペナルティはつかなかった。

 ルードヴィヒは改めて自分は世間知らずだと思った。

 そのせいで、今の状況なのかもしれないとも。


「お、商人の馬車が休んでるな、幸運かもな」


 目を細めた先に、いくつかの馬車が停まっているのが見える。


「向こうの街に行くなら、護衛代わりに馬車に乗れるぞ」


 王都に向かっている場合はだめだけどな。

 楽しそうにウィルは言う。

 彼はいつも楽天的なのかもしれない。

 ルードとしては、少しだけ心が軽くなったきがした。

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